0.ここは最果てのサナトリウム
青い髪を揺らす、その人をせんせいは『墓守さん』と呼んだ。
あの人が好きだと言ったら、彼はドールというお人形なのだと聞かされた。いつからいるのかわからないくらい、大昔に造られて、主人を守り続ける穏やかなドールの人。
初めて見た時、あたしはとても驚いたのです。
そんなに綺麗な青色を、あたしは知らなかったのです。
お父様やお母様が自慢気に揺らすサファイア、あんなものただの色付き硝子。ここにこんな青があるなんて、あの二人は知らないのだと思うと、少しの優越感がありました。
だから、あたしは空を望むようになった。
だって空は、とても綺麗だから。
墓守さんは手に入らない、だけど空はあたしのものだ。だってあたしは、空を求める病を患っているのだから。空に、空に、この身体は引き寄せられていく、浮かんでいく。
だから、あたしはそこに向かいたいと願った。
あたしは、あたしは。
あの空に逝きたい。
大地に縛り付けられたくはない。こんな枷はいらない。どうしてみんなのように、空へ逝かせてくれないのだろう。あたしは、空に逝きたい、逝きたい、空に生きていたい。
だって、空はきれいな色をしているから。
丸く切り取られた、出口のないはずのサナトリウムの空。
いきたい、な。
だけどあたしは逝けないの。飛べないの。
黒い鉄球、鈍色の鎖、漆黒の枷。
あたしを捕まえたまま、離そうとしてくれないの。お父様もお母様も、あたしなんて見捨てて忘れている、だったらいっそ殺してくれていいのに、なのに世間体が邪魔をする。
そんなちっぽけで軽いもののためだけに、あたしはあたしは。あたしは。
ねぇねぇ、墓守さん、あたし、空に。
あのお空に逝きたいんだよ。
あたし、あなたが大好きなんだよ。だって綺麗な色をしているの。その青がある場所ならきっと怖くなんかないの。ここより怖い場所なんて、きっとどこにもないの。
だからお空がいいよ、お空がいい。
そういうと、墓守さんは悲しそうに笑う。頭を撫でて、ダメっていう。あたしが好きな青色を悲しそうにするから、あたしはきっと同じことを二度と言わないだろうけど。
だけど、あたしはやっぱり空がいい。
あなたのような青が滲んだ、あの空に飛んでいきたいのです。




