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魔人とドールの狂想曲  作者: 若桜モドキ
至高の歌が響き渡り
56/84

1.歌姫財団

 ぱらろん、ぽろらん、とピアノが撫でるように奏でられる大広間。

 赤、青、黒や白、黄金色。

 色とりどりの花が咲いたそこは、この上なく華やかな場所だ。

 内装は華美ではあるが、ほどほどに抑えられたもの。

 昨今、巷に増えつつある成金貴族――金や婚姻で爵位を買った類がやりたがる、とにかく目が眩むような豪華さを追求したものとは違って、格調高く品もよいもので統一されている。

 当然、招待客の多くが古くから貴族の位を賜っているような家柄揃いで、例えば大広間の中央を陣取っているのは、ある国の王族との縁もあるという大貴族の若夫婦だ。

 つい先日結婚したばかりで、その仲睦まじさは有名である。


 大広間の一角には白いクロスがぴしりとかけられたテーブルが並んでいて、そこには目を楽しませる盛り付けや装飾を施した料理の数々が、バランスを考えた配置で置かれている。

 野菜をふんだんに使ったサラダ、そして各種スープ類。各種の肉を煮込んだり焼いたりしたものや、それに付け合わせる軽くローストした多種多様な野菜。当然、新鮮なフルーツを筆頭としたデザートも完備されていて、それぞれが専門の一流シェフによる特注品だ。


 参加者はテーブルの周囲に立っている給仕係に、欲しいものを欲しいだけ皿に取り分けてもらいながら、立食形式で身体と心を存分に満たしている。壁を隔てた別室には椅子やテーブルも用意されていて、従者やら連れやらと一緒にそちらに移動する参加者も少なくない。

 当然ながらアルコールも振る舞われ、だがアルコールではない飲み物もあり。


「あぁ、めんどくさい。なんでボクがこんなところに来なきゃいけないんだ」


 その少年は、甘いりんごのような味をつけた甘味飲料――要するにジュースを細身のグラスに注いでもらいながら、ため息混じりに大広間そのものをきつく睨みつけて言った。

 給仕係のもてなしを受ける彼もまた、このパーティの招待客である。

 ゆるい曲線を作る癖のついた長めの金髪、その前髪部分や横の部分を軽くかき上げるように後ろへ流し、着ている服は黒。このパーティのために仕立てたばかりの真新しい礼服である。


 少年――セドリック・フラーチェは、今すぐに帰りたい、という感情もあらわに壁の花となっていた。通常、壁の花と言われるのはうら若く美しい『少女』であるわけなのだが、息を呑むほど見目が整った美少年である彼にも似合う言葉だろう。実際、豪華な装飾を施された扇子で口元を隠す令嬢以外にも、何やらいやらしい視線を向けている殿方が数人ほどいる。

 もっとも、それこそが彼の機嫌を最高に悪くするのだが。

 めんどくさい、とセドリックはもう一度つぶやく。

 赤い目には不機嫌さが滲んでいるし、放つ雰囲気は威圧的だ。

 だから令嬢らも、ついでに一部の男性も、興味はありそうにするが近寄りはしない。


 今日のセドリックは最高に不機嫌で、今すぐにここから帰りたいほどだ。場所が場所だから無言で大人しく壁に寄りかかっているだけで、地上だったらすでに帰路についているだろう。

 だが、残念なことに彼がいるのは最新鋭の飛行船だ。

 いっそ豪華客船であれば、客室に引きこもることもできたが、ここにはそんなスペースはまだ備わっていない。現在は大都会の上空を、優雅にふわりと浮かんでいるだけだ。

 黒の海に街の明かりが浮かぶのが、小さな窓からよく見える。

 街灯をふんだんにあしらった街に『夜』はない。ちらり、とセドリックが横目に見下ろしたそこは、真昼のように明るい世界。暖色系で統一された町並みが、オレンジ色を纏っている。

 これはこれで、それほど悪い眺めではない。

 だけど、やはり気に入らない。当分地上に降りない飛行船ではなく、自分がここに乗る羽目になった流れが、現状が気に入らない。ただの観光だったらどれだけ楽しいことか。


 現在存命が確認されている魔人、あるいは魔女の中でも最高齢に位置する――たしか千年ほど昔にあったとある大国お抱えの占星術師として名を残す、性別不明ゆえに公的にはひとまず魔人と呼称されている存在、数多ある技術の父であり母である魔人サルヴァ・オルリーク。

 彼とも彼女ともわからぬその存在が、百年ほど昔に発案、設計したという『飛行船』。

 これはその新作にして、これまでにない技術をつぎ込んだものなのだという。

 とはいえ、セドリックには興味が無いところだ。

 彼の生業に、飛行船に用いられる技術はまず使われない。

 セドリック・フラーチェ。少々小柄ではあるが十七歳前後の、ほっそりとした少年という外見をしている彼も、先のサルヴァ・オルリークと同じく『ヒトならざる存在』。


 魔人――高嶺にある叡智を手にした、不老長寿の存在なのである。



   ■  □  ■



 神は常にヒトを見守り、時に試練を与える存在だと言われている。

 歴史を紐解けば神の言葉を聞くことができる者、できるとされた者など、それにまつわる存在は数知れず。その筆頭が『魔人』や『魔女』と呼ばれる、人智を超えた存在だ。

 彼らは神に、叡智とよばれるものを賜っている。神が高嶺に置いたそれに、ヒトの身でありながら、その手を絶えず伸ばし続け、そこまでしてもつかめないことが多いものを。


 そうして彼らは、ヒトならざる存在へと変貌する。


 手に入れたのは永劫に近い時間。

 永遠に若く、長く長く生きることができる力。


 多くが叡智が咲く高嶺の位置に手をかけることも叶わず、届けども魔人や魔女に成ることができずに違った存在へと変化する中で、このセドリックは若くして魔人となった。

 そんな彼の傍らに、寄り添うように立っている影がある。

 黒に赤で装飾を施した膝丈のドレスを着た、黒い髪の少女だ。

 色白というよりも血の気の薄い白い肌を控えめに晒し、肩に付く程度に揃えられた黒い髪に金色の瞳がとても映える。外見はセドリックと同じくらいで、だが少し幼さがあった。

 彼女は無表情のまま、不機嫌さを露骨にして隠さないセドリックを見て。


「いい加減、機嫌を直されたらいかがですか、セドリック」


 と、淡々とした口調でたしなめた。

 彼女――カティ・ベルウェットこそ、セドリックの『理想』そのものだ。彼が手間暇と金をつぎ込んで、叡智を望むほどに欲し、何よりも大切に慈しむ最愛のドールである。

 肌の色はともかく、その内面は人間にとても近い。

 身体の中身さえ、ヒトを模した。

 ドールにとって重要なコアは心臓の位置にあり、それを補助する特別なパーツはこぶりなその頭の中へ。口に入れたものを動力に変化させる消化器官も、ヒトと同じような場所に配置されている。ほんのりとした体温もあり、舌は味を感じることが可能なパーツを用いていた。

 もはやできないのは、命を生む、という最大の禁忌ぐらいだろう。


 彼女のボディを作った知人は、セドリックが提出した注文書を見て『お前の頭はできがいいはずなのだがどこかがおかしい』と言い放ったが、その発言も納得の特別な品である。

 なお、言った本人も当然ながら魔人であり、セドリックに負けず劣らずの似たり寄ったりな人物であるので、カティから言わせてもらえば所詮『同族嫌悪』からくる応酬だったが。


 さて、通常は主に絶対服従となるドールには、ハリボテもマシに見えるほどの自我しか与えられないことが多い。ヒトの成りをしているが『道具』ゆえ、人格は最低限でいいのだ。

 しかしカティは、主のその目的ゆえにかなり強い自我を有していた。お世辞にもまだ人間と同等とはいかないながらも、多少愛想が薄いぐらいで、言わなければ素人はまず気づかない。

 ゆえに彼女の、セドリックに対する物言いは時として辛辣だ。


「あなたは自分で招待状を受け取って、ここまで来ると決めたはずでは」

「でもさぁ、だけどさぁ……」

「何が気に入らないのですか。あなたが嫌う成金貴族はいませんし、むしろ高い金を出せる依頼人が群れをなしてそこらにいますよ。さぁ、いつものように口先三寸で脳の足りない相手を巧みに引っ掛けて、値のいい仕事をバカスカもぎ取ればよろしいのではないかと思いますが」

「……カティが普段、ボクをどう思っているのかよくわかるね」


 かなしいなぁ、と嘆くように目を伏せるセドリック。

 ちら、とすねたように、赤い目がカティを見る。

 しかし対するカティの表情は不変。氷のような無表情のままだ。むしろ、若干だが見下しの色がにじむ。何を白々しいことを、と言いたそうに、彼女は主を冷ややかに見ていた。


 セドリックはドールのコアの調律専門の、つまりは『調律師』だ。

 技術的には世界でもトップクラスの一角に名を連ねるが、だからといって収入面が安定しているわけではない。仕事に必要な機材には、それこそ湯水のように金を注ぐので、あっという間に金は消えていくのだ。そのくせ気に入ればどんな仕事もするが、気に入らなければどんな仕事であっても蹴り飛ばすものだから、いざという時の貯蓄もまともに増えてくれない。

 よく言えば芸術家のような気質で、悪く言えばただの変人で変わり者で偏屈だ。


「それどっちもバカにしてるね? 貶してるね?」

「気のせいですよ」

 そんな彼だが、一番の『お得意先』は爵位持ちである。

 成金貴族に限らず、貴族という存在は基本的に見栄をとても大事にするものだ。

 例えばフロアで踊っている令息令嬢の衣装、特に令嬢のそれはとにもかくにも盛大に金をかけたものだ。宝石をふんだんにあしらった髪飾りなどの各種アクセサリー、そして軽やかに広がるドレスの装飾。そういうものは、彼女ら――というよりその親の『見栄』なのである。

 ほら、これだけ娘に金をかけられるのだ。

 当家にはこれだけの力があるのだ。

 彼らは子を着飾らせることで、己の力を誇示したいのだ。

 それに、ドールというものの需要が重なるのである。


 例えばパーティなどの給仕にドールを使ったり、何か芸事をさせたり。

 国にもよるが、ドールを召使として使役することは、彼らの中ではちょっとしたステイタスになりつつある。珍しいものを見せびらかしたいという様は、セドリックから言わせてもらえば一桁年齢の子供のような無邪気さで、まともに相手するのもバカバカしいらしいが。


 彼らが目をつけたドール。

 それにとってもっとも重要なのはコア。その調律だ。

 楽器に例えると、とてもわかり易いよね、とセドリックは言う。

 ピアノなどは調律一つで音色を変えるものだが、ドールのコアもそれと同じだ。そこに満ちている音、音色の並べ方や流し方一つで、同じシチュエーションでも反応は別物は変化する。

 依頼人の用途などに合わせて、コアを調律する。

 それが、彼ら『調律師』の仕事であり、腕の見せどころだ。

 そういう意味でセドリックは、彼ら相手に仕事をすることが多いのである。

 なので、一回の収入そのものの額でいうなら、セドリックはかなりの額を稼ぐことができる魔人なのだ。加えて見目もいいので仕事も取りやすく、評判の高さもかなりのものだ。


 選り好みすることさえなければと、カティはため息を零した。

 ただでさえカティの身体は、同業者が絶句するほど『人間仕様』。

 当然、維持費はそれなりに掛かる。

 単純に食費だって二人分に増えているし、セドリックの趣味で服もしょっちゅう買い与えられている。髪などは、少しでも傷んだらすぐに取り替えられるほどだ。

 カティからすると大変不本意だが、彼女に関する出費、その額ががシャレにならない。


 ――だからお金を稼ぐため、新しい顧客探しに来たと思ったのですが。


 カティの隣にいる主は、その顔に不機嫌さを浮かべたまま動こうとしない。食事すら通りかかった給仕係を呼び止めて、遠くのテーブルを指差ししながら持ってこさせるほどだ。

 カティにはセドリックがわからない。

「何のために、わざわざ高い旅費を出してまでここに来たのですか」

 まさか飲み食いするためだとか、最新式の飛行船に乗りたかったとか。

 そんな理由ではないだろう。

 彼が自分からここにきたのだから、それなりの理由があるはずなのだが。

 当然だよ、とセドリックは少し声を潜めて。


「実はさ……旅費は招待側持ちだから、ボクの懐は痛くはないんだよね」

 と、続けて。

「まぁ、カティに言うとおり、自分で来ると決めはしたんだけど。少なくともこの、心底くだらなくてどうでもいい、腹の探り合いやら立食パーティーのためでは――っと」

 何かを言いかけたセドリックだが、その視線が微かに揺れる。

 そして彼は、あぁ、と唇の端を釣り上げるように笑い。

「どうやら、ボクの目当てがやっと来たらしい」

 つぶやくその視線の先には、楽団が並んでいる舞台。空に上がってから、テンポが穏やかでゆったりとした曲を奏でていた彼らだったが、いつの間にかその手は止まっている。


 そして楽団の前に――着飾った、とても美しい五人の少女がいた。

「さぁさ、彼女らの歌声をどうぞお聞きくださいまし! これぞ至高にして至宝、神がこの世に遣わした『歌姫』! 偉大なるフィリア・レムスウェイナーの『後継者候補』です!」


 誰かの声から一拍。

 大広間が割れんばかりの歓声と拍手に満たされた。



   ■  □  ■



 飛行船の持ち主の名はフィリア・レムスウェイナー。

 だが、彼女自身は数百年前に生まれ、すでに天寿をまっとうしている。

 今、その名前を名乗り歌声を人々に披露しているのは、数代目の『歌姫フィリア・レムスウェイナー』で、今舞台に上がった五人はその名を次に名乗る候補者というわけらしい。

 代替わりしながら、歌姫の名前が連なっていく。

 そうやって一人の偉大な歌姫は、永遠を手に入れたのである。

 それはわかったが。


「あれがセドリックの目当てなのですか?」


 カティにはそこがわからなかった。

 基本的に、セドリック・フラーチェというこの魔人は、極度のヒキコモリである。とにかく家を好む出不精で、叶う限りは工房でもある自宅から出ようとはしない、旅などもしない。

 たまに出かけることもある、しかし理由は概ね仕事だ。

 依頼主の住まいが遠かったり、セドリックが出向く方が手っ取り早かったり。そういう理由があれば、彼はちゃんとそちらに向かう。特に古くから付き合いのある顧客相手などだが。

 そんな彼が接点がないだろうこの場所に、出向いた意味がわからないのだ。

 まさか、歌姫――の、候補を見たかったというわけではないだろう。


「残念ながら、ボクの目当ては彼女達だよ」

「……セドリックが、歌姫などに興味があったとは思いませんでした」

「まぁ、正しくは彼女が継承する『フィリア・レムスウェイナー』に、だけどね」

「そのフィリア・レムスウェイナーですが、どういう方なのでしょう」


 わたしは知りません、とカティ。

 後継者候補。

 そんなものを用意して名を継承していくということは、有名な人なのだろう。だがカティには聞いた記憶が無い。知らずに歌声は聞いたかもしれないが、その名に覚えはなかった。

 舞台上では赤いドレスの少女が一人残り、伴奏に歌声を載せるように歌っている。

 人々はそれを、うっとりした様子で聴いているようだった。


「フィリア・レムスウェイナーは、さっきも誰かが言ったように、神が遣わしたと言われた歌姫だよ。伝説、と、そう呼称してもいいくらいには、彼女は素晴らしい歌姫だった」

 その歌声に耳を傾けるように、セドリックが小声で語る。

 伴奏は決して大きいものではないし、歌声もそれに合わせた音量だ。音響機器で声は広間に満ちているのだが、だからといっておおっぴらにおしゃべりできる状態ではない。


「しかし、フィリア……ですか」


 言い、カティはしかし首をかしげた。

 記憶を掘るも、やはり聞いた覚えがない。

 それなりに俗世については、主に変わって調べている。そこら辺がまったく気にならないセドリックを補うためというのもあるが、外やヒトへの興味からのものかもしれない。

 しかし、セドリックがいうような歌姫の話は、見た覚えがない。

 当然その名前すらも。


 もっともここは、普段二人が暮らしている国と違う。海を超えた別の国だ。その土地限定で有名な歌姫、というものだったなら、遠くに住むカティが知らないのも当然なのだろう。

 これだけの貴族が目を輝かせるのだ、土地というより国だろう。

 だがなおさら理解できない。俗世間への興味が薄いセドリックがなぜ、異国で名を馳せている歌姫の存在を知っていたのか。何か、カティが知らない関わりでもあるのだろうか。


「さぁ、カティに一つ質問だ」


 にっこり、とセドリックは笑う。

「この船を所有しているのは『レムスウェイナー財団』、通称『歌姫財団』といってね、基本的に歴代の歌姫フィリア・レムスウェイナーの選定や、そのマネジメントなどを引き受けている団体だ。彼らはこれまで作られた数百以上はあるフィリア・レムスウェイナーの全楽曲を管理し、仕事のスケジュールを整え、そしてその後継者の発掘と育成を主としている」

「後継者の発掘、育成……ですか」

「というよりもほとんどその二つがメインに近いだろうね。マネジメントには専門の業者がいるだろうし。育成というのは、文字通り育てるということだよ。幼いうちから歌の基本を叩き込んで歌姫としての立ち振舞を覚え、そして当代の歌姫フィリアを作るための大事な作業だ」

「ずいぶんと、手間暇のかかることですね」

「そう、とても面倒なことだ。……で、ここからが本題」

 二人目の少女が舞台の中央でお辞儀をし、歌い出す。

 それにはやはり目もくれず、セドリックはカティの耳元に囁いた。


「彼女達はフィリア・レムスウェイナーを名乗る。歌に関しては、彼女そのものにならねばいけないわけだ。そうでなければ、後継者である意味が無い。しかしそのためには当然『オリジナル』を知らねばいけないのだけど――さて、そのために必須たる歌姫、オリジナル・フィリアの歌を、彼女が死して遠いこの現代に、カティだったらどうやって蘇らせる?」

「それは……なにか、録音機材を使うのでは」

「今ならね。だけどあの頃は存在しなかった。少なくとも『録音機材』は」


 言われ、カティはそうなのか、と思う。

 それ程に古い時代の歌姫で、それ程に遠い時代からつなげてきたのか、と。


「かの歌姫は、当時の人々に『失いたくない』と思わせるに至った。どうしても失い難い存在であると惜しまれた。それは大陸鉄道も存在しない数百も昔の話、だけどその時代でも彼女の歌に関するすべてを記録しうる媒体が、それでもあの頃に一つだけ存在していたんだ」

 だからこそボクが呼ばれた、と答えるセドリック。

「……まさか」

 と、僅かな震えを帯びたカティの声に。


「そう、それはコアだ。ドールのコアなら、それができた」


 セドリックはニヤリと笑う。

 当時からすでにドールの技術はあったし、彼らは多種多様な用途で使われていた。当然ながらその調律技術もあって、ドールは様々な『ココロ』を持つことが当時から可能な存在で。

 そしてセドリックは若くして、そのコアの扱いに長けていた。


「つまり――ドールに彼女の歌を、覚えさせた、と?」

「その通り。だからつまり、ボクは『歌姫財団』の特別顧問というわけさ」


 彼の言葉に、カティはひとつの疑問を片付ける。

 だから彼に招待状が来たのだ、と。

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