9.ディルム視点
「他所から持って来ねーとダメなんは、学園でイチャコラしまくってたからか? 事情がわかる女は絶対ムリだって逃げたんだろーな」
「……自分の見解を述べよう。自己優先的な人間の集まりと仮定すると、その後に王子の恋人とフィアンナ嬢の兄を結婚させて、妻の実家という繋がりで逢瀬をしやすくなるのも利点だろう。正常な人間から見ればあまりにも邪道だ」
「他にもあるかもしんねーが、興味ねーな」
「つまり、僕がザックスに連れてってもらって、向こうの王子達をサーチアンドデストロイすればいいんだね!」
「鎮まれ」
「話がややこしくなっから止めろ!」
ディルムの行動は止められても、フィアンナを求める気持ちがどこまでも止まらない。
厳しい現状だろうと、フィアンナを諦めるものか。
どうしても結ばれる事が不可能な場合、タイミングを決めて共に自死しようと決めているのだ。今はまだ、その時ではない。
必死に説得の言葉を探していると、手を大きく叩く音に一瞬止まる。音の方を見れば、いつの間にか椅子に座ってポーズを決めたビーが、ニヤリと笑っていた。
あの顔は、本人が楽しいと思う策がある時にする顔だ。ただ、周りが楽しいかは状況による。
「落ち着くネ。そしてよく聞くネ。正攻法でフィーちゃん救出は不可能。でも、ビー達は諦めないネ。そこで朗報ヨ。非合法作戦はチャンスあるヨ」
「チャンスだぁ?」
「ハオ! 記憶からでもばっちり感じるネ! 王族と一部高位貴族以外、みーんな不満たらたらヨ」
「……成程。さながら、あの国は箱庭か」
「さすがザックス、略してさすザヨ」
「その呼び方は止めろ」
二人でさくさく話が進む。ディルムはフィアンナへの想いが強すぎて、話の飲み込みが遅れている。
その間に、クリストフが納得したとばかりに手を叩いた。
「わーったぞ! 異常かと思ったり不満あったりしても、なんも分からねー外よりかはマシかと思ってたとこに、ディルムのオンナが入る! 外の良さ知ってっわ、ディルムんとこ帰りてーわで不満だらだら。それ見てるヤツらも抱えてた不満が爆発するって寸法か!」
「あ! そういう人達にお願いされたなら、侵攻の理由が正しくなるんだ!」
「此方の事情による令嬢奪還から、かの国の悲痛な民を救う為と大義名分になる」
「ハオハオ! その通りヨ! むしろ、ビー達が直接やるより、国民達が革命起こす方が後々の為ネ! 圧政に立ち向かうチャンスヨ!」
フィアンナを助け出せる。その上、ヘンドルスト国を正せる。いい事づくめだ。
「フィーちゃんには事情を話すネ。それで、不満持ってる権力高めな人に接触して欲しいヨ。裏で話して集める、ビーがするネ。ビーなら、ジィジ様の権力使えるネ。あの国にいてもアホンダラ達、下手に手出しできないヨ」
「ならコッチは周辺国への根回しか。メンドーだが、周りの連中に話通さねーと余計メンドイ」
「先に国王陛下に報告だ」
「それが一番メンドー!」
項垂れるクリストフに苦笑する。そこで、事件が起きてから初めて笑えたとディルムは気づいた。解決に向かっている証拠だ。
愛しのフィアンナを鮮明に思い出し、味わい、その瞬間にディルムはある事実に驚愕した。
「ちょっと待ってくれ! ビーが根回しする、その期間は?」
「うーん? 多分、そこそこヨ」
「クリスが根回しをする期間は?」
「結構かかんぞ? あーゆー連中ってのは表面上がどーこーってうっせーからな」
「じゃあ、僕とフィアが再会するまでの期間は?」
「………………勘が良すぎる男、嫌われるネ」
「テメーには『夢路』があんだろ」
返答の詰まりとスキル推奨。
つまり、ディルムとフィアンナの再会の日が遠い。
「フィアッ、フィアッ、フィィィィアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!」
「あ゛ー! うっせー!」
「落ち着け」
「無理だよ! スキルで会っても生で会えないなんて! フィアンナの全てを五感で吸い取って五臓六腑に染み込ませないと僕は生きていけない!」
「人間は臓器に染み込まないぞ」
「フィーちゃん依存性、大変ネ」
「フィアァァァ! フィアァァァァァァァァァァァァァァ!」
「ビー! コレ、どーすんだよ!」
「お手上げヨ!」
フィアンナに会いたくて会いたくて暴れる。
だが、騎士団長の羽交い締めが解けるはずがなく、体力だけが削られた。
「ディルム。お前がより良い策を思いつけば、そちらを優先すると思うが」
ザックスの提案は、正しく天啓に聞こえた。動きを止め、頭を全力で回転させる。
これ以上の良策が見つからず、涙で床を湿らせながら了承したのは、それから数時間後だった。
Q.革命に誘導させるなど悪いのでは?
A.確かにそうだけど、フィアンナとの愛の前では意味ないよ。
それに、そうされるような事をしている王族一派が悪い。
何よりも、フィアンナと引き剥がした事は万死に値するよ!




