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魔力暴走の原因解明
「ロゼリア、アダム!」
「アダム! お母様!」
「あな、た……レナ…………」
「う…………うわ゛ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん! ととさま、ねねさまぁぁぁぁぁ!」
辺境伯とレナータが駆け寄った先には、夫人と少年。全員が抱き合い、再会を喜んでいた。
特にアダムと思われる少年は脇目も振らず大泣きだ。完全に傍観者でしかないフィアンナの目も潤む。
ディルムと夢で再会できた時を思い出す光景だ。邪魔しては悪いと、空気に徹する。
「ごめ゛んなさい゛……! ごめ、ごめんな………!」
「いいのよ、アダム……貴方が無事なら……!」
「ロゼリアも、無事で何よりだ……!」
「え、ええ……でも、わたくし、何も覚えていなくて…………でも、外にいる人にコレを渡せば通じると、見知らぬ方が」
そう言って、ロゼリア夫人はずっと握っていた物を差し出す。
小さく折り畳んだ紙だ。辺境伯は受け取って開き、中を確認して首を傾げた。
「……殴り書きのメモのようだが……どう読むのだ、これは」
「フィアンナなら分かるかもしれませんわ。フィアンナ、お願いできるかしら?」
「はいはーい!」
出番が来た。早足で近づき、紙を受け取る。
中身は紙のスペースを余すことなく、縦横斜め自由に単語が乱雑していた。間違いなくビーのメモだ。
意味不明な羅列だが、ビーの書きグセを覚えれば解読可能である。
「フィアンナちゃん……? まさか、また会えるなんて……!」
「え、あ、はい。皆さん、お久しぶり? です?」
「お母様、お父様。フィアンナは記憶を失っておりますの。アダムは初対面でしたわね、従姉のフィアンナよ。ワーキン侯爵家とは違う、可愛らしい子よ」
「ふむ、互いに事情があるようだな。改めて時間は取ろう。今は、そのメモについて聞かせてもらえんか?」
「了解でっす!」
優しい人達のようだ。羨ましい家族である。フィアンナはその癖を思い返しつつ、メモの内容を口にしていく。
「え〜と……アダム様の『スキル』についてです」
魔力を流した物体を全て石へと変える。
それだけでも稀なスキルだが、そこにアダムの体質が加わる。基本的に魔力は全身を駆け巡っているが、体のどこかに留まってしまう人もいる。
アダムの場合、両目が魔力溜まりになっていたらしい。
蓄積量を超えた魔力が、目を介して体外へ流れる。魔力を浴びる部分は視界に入る部分。
「『石眼』。観ている物を石化。石化できる物体は必要魔力量が異なり、生命体を石化させるには多大な魔力が必要となる。対象は精神衰弱しており、建物内の石像は最初に発動した時の人間と思われる……って、今出てきた人達は……?」
「ええ。アダムの力で、一緒に遊んでいたお母様と数人の使用人も石像に……言い難い話ですから、なかなか話しづらくて……」
「まぁ。わたくしが石に? 不思議な物ねぇ?」
「ははさま゛ぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「アダムは塞ぎ込み、お前の傍から離れなかったぞ。人を寄せ付けず、食事や必要物資は所定位置に置くだけ……それが一月半ほど。王都からは早く『異端』を処理しろと煩く、私兵で攻め込むべきか考えていたものだ」
物騒な事を述べる辺境伯に、頷くレナータ。ロゼリア夫人は困ったように笑いながら、泣き続けるアダムを慰めている。
王家に対して、かなりの敵意だ。大切な家族を救おうと考える中、遠くから始末しろだの早く殺れだの言われれば誰だって沸点を超える。元から良い感情を持っていなければ尚更だ。
これなら、モンチェ一家は味方になってくれる。ディルムとの再会が近づいた気がして、内心で歓喜の雄叫びを上げた。
「なるほどなるほど。じゃあ、続きを読み上げますね」
早く本題に入るべく、メモの読み上げを続ける。
魔力暴走の治療は、体内魔力のコントロール。基本的には慣れた人と手を繋ぎ、魔力の流れを自覚して操るのだ。
多すぎる場合は、スキルを発動させて魔力量を減らさせる。それ位はフィアンナも知っている。ビーの場合は『抽出』もあり、より簡単に改善させられるという。
いつも通りにアダムに対応。全身に魔力を行きわたらせれば治るはずだが、上手く行かなかったらしい。
代わりに片目に魔力を留まらせ、確実に安全な片目の視界を確保したようだ。
眼帯は魔力を通しにくい素材できており、好きな時に眼帯と魔力溜まりの目を変えるという算段だそうだ。
また、魔力の流れを把握できた為、ロゼリア夫人達にかけた石化も解除できたらしい。かけた本人が解除する方が、負担は少ないという。
読みながら安堵するフィアンナだったが、最後にメモされた内容に目を大きく見開いた。
「ちょっ、ビーさんこれ最初に書く内容でしょ!?」
「フィアンナ!? 一体何が書かれてありましたの!?」
「簡単に言うと……石像になってた人達、だいぶ弱ってたからベッドで休ませて栄養取らせた方がいいよ☆ と補足で書いてあります」
言いながら、フィアンナはロゼリア夫人へと目線を向ける。レナータと辺境伯も同じだ。
一身に視線を受けて首を傾げるロゼリア夫人だが、よく見れば顔色が悪い。出てくる時も、アダム以外は皆ふらついていた。
考えれば、一ヶ月半に渡って石化していたのだ。生きている現状が奇跡に近い。
プルプルと辺境伯が振動し始める。思い切り息を吸い、妻を抱えて立ち上がりつつ腹の底から声を上げた。
「離れにいた使用人達を全員寝かせろ! 栄養のある食事もだ! 金に糸目はつけん!」
威勢よく返事をする、元気な使用人達。戸惑う妻を横抱きにした辺境伯の後を、使用人達が追う。
僅か十数秒の間に、この場にいるのがフィアンナとレナータ、アダムの三人になっていた。
一瞬で静かになった場所で、離れにいるビーの奇声がまた聞こえてきた。
どうしようか。そう思っていると、アダムと目が合った。じーっと見定めるように凝視されている。
「……ぼくの、いとこ? ねえさまをないがしろにして、せいじょにしっぽふってるクズニルスの、いもうと?」
「そうらしいですが、あの家がどうなろうと知ったこっちゃありませんね! 私、平民ですから!」
胸を張り最近の口癖を言う。アダムは無言でその様子を眺めていたが、やがて警戒を解いてふにゃっと笑った。
「よろしく、フィアンナねえさま」
「はうあっ!」
可愛らしさに胸が締め付けられた。
将来、美人になること間違いなしだ。レナータに顔つきが似ているから、凛々しさが増すかもしれない。どちらにせよ、周りの女性達が黄色い声を上げる様が簡単に想像できる。
よくよく見れば、麗しい美女と可愛らしい美少年が抱き合う様子は絵画みたいだ。
美しすぎる。時間差で興奮してきた。変な目で見られない為に、フィアンナは平常を装う。
次の瞬間、レナータが弾かれたように一点を見据えた。
「侵入者!」
「へぇあっ!? いま、いませんよ!?」
「魔力が感じ取れますの! フィアンナが使った時のような、魔力の流れですわよ!」
何もない空間を警戒しながら、レナータは告げる。フィアンナが使えるのは『暗示』のみだ。
つまり、レナータが感じ取っているのはスキル発動の魔力。
フィアンナが一つの可能性を思いつくと同時に、そこに人が現れた。
遂に彼が来ました。激おこです




