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思い出きらきら  作者: チャーコ


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W店の試練

 バレンタインは女性客が前もって、大量にチョコレートを買ってくださいます。三百円から五百円くらいのチョコレートが十個単位で売れるので、きっと義理チョコなのでしょうね。本命は手作りチョコか、お高いチョコレート専門店で買うのでしょう。


 狭い店舗なので、あらかじめ片づけていてよかったです。危うくチョコレート置き場がない事態でした。昨年までどうしていたか謎です。


 バレンタインが終わると、近くで閉店した店舗がありました。そこの女性店長がW店に異動してきたのです。私が退職するので、ちょうど都合がよかったのでしょう。二月の終わりからホワイトデーにかけて、引き継ぎをすることになりました。


「初めまして、よろしくお願いします」


 同い年と聞きましたが、可愛らしくて感じのいい女性です。彼女は異動するのが初めてということで、色々教えて欲しいとのことでした。


「両替はあの銀行で……夜間金庫は……」


 私の説明を、彼女は真剣に聞いています。彼女が働いていたのは百貨店に入っていた店舗なので、銀行に馴染みがないようでした。


 引き継ぎ事項はたくさんあります。従業員がどんな仕事ができるか、クレジットカードはどうするか、商品券は……エトセトラエトセトラ。


 休憩時間になり、彼女は溜息をつきました。初めての異動では疲れるのも当たり前です。一時間の休憩中、食事しながらおしゃべりをしました。


「引き継ぎが三日じゃなくてよかったよ。覚えきれない」

「一か月以上あるから、ゆっくり覚えてね」


 私は五店舗──アルバイトも含めると六店舗で働いているので、異動慣れというか、異動先で何を質問すればいいかがわかっていました。逆に百貨店で働いたことがないので、そちらが気になります。


「百貨店で働いていて、変わったこととかあった?」

「私が働いていたところは、仕事を始めて三か月後に百貨店のテストがあって、それに合格しないと辞めさせられちゃうの」


 百貨店の避難経路などのテストがあったようです。


「働き始めて三か月で辞められると困るねー」

「そうなんだよ、せっかく仕事を覚え始めたばかりなのに」


 そんなことを話しているうちに、休憩終了です。彼女は立ち上がりました。


「お手洗いはどこ?」

「あ、その裏口を出てすぐのところだけど……鍵に癖があって……」


 更衣室の鍵は直しましたが、お手洗いは隣のお店と共用で、こちらの都合だけでは鍵を直せなかったのです。彼女が帰ってこなかったので、様子を見に行くと、案の定閉じ込められていました。


 W店に赴任すると、お手洗いに閉じ込められる試練があるかもしれません。


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