異動先のお店で
働いていた洋菓子会社の異動時期は主に四月と九月です。まだ二年目なので異動はないかなと思っていましたが、先輩社員の結婚や妊娠で四月も九月も異動することになりました。
三年目の四月に、隣県のU店に異動になりました。U店は春にリニューアルオープンのお店です。実演販売があるので、私が実演販売主任になってしまいました。
「ええー! 私、ものすごく不器用なんですけど……」
上司に抗議するも、空しく却下され、仕方なしに工場へ研修に向かいます。工場で必死にケーキやシュークリーム作りの練習をしたのですが、パティシエさんに笑われてしまいました。
「すっごく不器用だね」
「そう言っていたんですけどね……」
いびつな形では商品になりませんので、なんとか見られるくらいまで上達してから、実演の場に立つことになりました。
さて、リニューアルオープン当日。混雑が予想されますので、あちこちのお店や本社からお手伝いの社員たちが集まりました。その中に見覚えのある顔が。
「あ、店長!」
「……おう」
私が大学時代アルバイトしていたS店の店長がきてくれていました。久しぶりに会った割に、店長は不本意そうな表情です。リニューアルオープンなので、みんなキャップ帽をかぶり、子どもたちに風船を配ったりします。──その姿がなんと似合わない店長でしょうか。元々がワイルドな顔立ちなのです。
「お似合いですよ、店長」
「なんだよ、似合わないってわかってんだよ」
店長の手から風船をもらう子どもは、少しばかり怯えていました。
リニューアルオープンのお祭り騒ぎも落ち着く頃には、私の実演の腕前もかなり上がっていました。九月に新しい副店長が赴任してきたので、私が実演を教えることになりました。
この副店長が曲者で──。
「この間教えたのに、パイナップルを乗せ忘れています」
「伝票計算、間違っています」
「予約伝票の個数と発注個数が違いますが、どちらが正しいのですか?」
毎日何かしらミスをする副店長だったのです。私は店長の言いつけで、副店長の仕事のチェックをすることになりました。何度注意してもミスをしてくださる副店長のおかげで、私はミスに敏感になりました。反面教師というやつですね。
仕事に厳しい店長と、ミス連発の副店長に囲まれ、私は色々な仕事ができるようになっていきました。




