初々しくない新入社員
二週間の研修期間が終わり、私たち二十人は各店舗に配属されることになりました。私はA店配属です。お店に行く前に、店長に挨拶をしました。
「どうぞよろしくお願いします」
「ああ、履歴書を見たんだけど、S店でアルバイトしていたんだってね。ホールが専門だったんだろう?」
「はい。主にホールとカウンターです」
アルバイトをしていたとき、人手が足りないことがあれば売店の仕事も行いましたが、私は専らホールとカウンター業務でした。
「A店は売店のみだし、新入社員として色々教わることもあるだろうし。他の社員たちにはアルバイト経験者だって言わないほうがいいね」
「わかりました」
私は店長の指示通り、アルバイトをしていたことを隠して仕事を始めました。
指導についてくれた男性社員の先輩に、物の置き場所や仕事の進め方などを教わります。A店は売店のみですが、一日平均百万円売り上げるお店だったので、仕事量が半端ないです。でも私は仕事の忙しさには慣れきっています。
「おい、急いでトレイにケーキを並べてくれ」
「はい」
先輩社員に急かされましたので、できる限り手早くトングでトレイにケーキを並べました。その様子を見ていた先輩社員は──。
「お前、アルバイトしていただろう」
「ええっ!? なんでわかるんですか?」
「ただの新入社員が、そんな手際がいいはずがないんだよ」
隠していたのに、すぐにばれてしまいました。
「アルバイトはいつからしていたんだ?」
「……大学一年生からです」
「マジで!? 俺より社歴長いじゃねえか!」
先輩社員は三年目でしたので、確かに社歴は私のほうが長いですが、所詮は学生アルバイトです。
「私はホールとカウンターの仕事が多かったので、売店は不慣れです。教えていただければ嬉しいです」
「俺はホールもカウンターもやってねえよ……」
少しばかりいじけてしまった先輩社員のご機嫌を取りつつ、一緒に売店の仕事を再開しました。
私は人見知りしませんので、他の社員やアルバイトたちにすぐに馴染むことができました。商品知識も豊富ですし、元々やっていた仕事なので、A店で要領をつかむことも早かったのですが、ふと副店長に笑いながら言われてしまいました。
「全然初々しくない新入社員だな」
「仕方ないじゃないですか……。それとも初々しいほうがよかったですか?」
「いや。一から仕事教えるの面倒だしな」
一から仕事を教えなくてもいい新入社員は、それでも頑張って働きました。




