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思い出きらきら  作者: チャーコ


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大学生活の終わり

 大学生活もじきに終了です。部活も後輩に託して引退しましたし、就職先が不規則なお休みの洋菓子店ですから、習い事もやめなければいけません。フルートは個別レッスンでしたが、私より先にレッスンを受ける小学生の男の子と、いつも待ち時間におしゃべりしていました。彼に別れを告げますと、その日は私と合奏したいと言いました。


 男の子は国立大付属の小学校に通っていて、私よりフルートが上手です。きっと親御さんが教育熱心なのでしょうね。でも、いつもお話していて私に懐いてくる様子は年相応に可愛らしく、微笑ましかったです。


「どの曲を吹こうか?」

「じゃあ『パッヘルベルのカノン』にしようか」


 私が提案すると、男の子はぱっと笑って了承しました。そこまで難しくない曲ですので、即興で合奏できます。先生の伴奏に合わせて、最後まで二人で綺麗なハーモニーを奏でました。吹き終えると、男の子は私と先生を眺めまわしました。


「あのさあ。ずっと訊きたかったんだけど、先生と同じくらいの歳?」


 その疑問に、私と先生は顔を見合わせてしまいます。先生は既婚者で、私より十歳以上は年上です。ですが、小学生の男の子の目には、年上女性はみんな同じくらいに見えたのでしょうね。一応「違う」と答えました。無邪気な男の子は、今でも元気にしているでしょうか。恐らく、順調に人生を歩んでいるのでしょう。



 エレクトーンの発表会で、ヘンデルの『水上の音楽』を、私含めて三人で演奏することになっていました。都内の高級ホテルで発表会をするのです。ホルンの音色が目立つ曲なので、最後だからと、私のホルン演奏も交えることになりました。


 せっかく高級ホテルで発表会をするのですから、正装をしようと思い、私は部活で一緒だったヴァイオリンの男の子に燕尾服を借りました。うっかりすると足を取られそうなふかふかの絨毯が敷いてあるホテルでの発表会に、先輩や同輩を招きます。エレクトーンの演奏もしましたが、ホルンも吹きました。部活の定期演奏会と違って、ミスなく終えることができました。みんなが拍手してくれます。


「とびっきり素敵な演奏だったわよ!」

「ありがとうございます!」


 先生やみんなに褒められ、最後のエレクトーンの発表会は終わりました。まだ演奏したい曲があったのですが、それはいつかまたエレクトーンに触れる機会があったときにやりたいです。



 卒業式の日がきました。レンタルした袴を身にまとい、部室の前でみんなと写真を撮ります。大学の卒業証書を授与されますと、さすがに感動を覚えました。私も立派な(?)学士さまです。ゼミ室で同じ学科のお友達と別れを惜しみました。


「卒業しても、また連絡するよ」


 そう言ってくれた女の子は、卒業後にたびたび連絡をくれました。ただしそれは選挙活動のためだったのです。電話番号を変えてしまったので、もう連絡はこなくなりましたが、選挙活動に熱心なあの子は、そのうち議員さんになるのではと密かに思っています。



 そして、とうとうアルバイト最終日です。店長にお願いして、特別に三月三十一日にシフトに入れてもらいました。


「三十一日は人が足りているけど、まあ、最後だしな」


 珍しく人員が揃っているようですが、学生最後の記念でアルバイトをすることにしました。当日、アルバイト先に行きますと──。


「今日二人休んだんだ! 来てもらってよかったよ!」


 最後の最後まで人手不足の職場で、私は笑ってしまいました。大学一年生からアルバイトをしていましたので、二人分の仕事を行うことは私の通常業務です。店長や副店長に感謝されました。


 月末なので閉店後は棚卸しです。邪魔かなとは思いましたが、棚卸し作業中、仲の良いアルバイト仲間や社員と写真を撮りました。もちろん店長にも頼みます。


「俺、写真苦手だから、普段は撮らないんだよ……」


 仕事ぶりは男らしい店長なのに、変なところで恥ずかしがりやですね。でも、押し切って二人で記念撮影しました。滅多に撮らないと言っている店長との写真は、大切に保管しています。



 大学生活は楽しい思い出ばかりでした。明日からは社会人です。社会人は大学生とは比べものにならないくらい責任が重くなりますが、それよりも──。


「これからは、お休みの日が本当に『お休み』になるんだ!」


 休日にアルバイトばかりだった私は、そのことが何より嬉しかったのでした。

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