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思い出きらきら  作者: チャーコ


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最後の定期演奏会

 部活のオーケストラで、大学生活最後の定期演奏会の曲目が決まり、私は御師匠と睨み合っていました。一曲目がウェーバーの『オベロン序曲』だったのです。この曲はホルンソロから始まる、ホルンがものすごく目立つ曲なのです。


「御師匠はホルンソロたくさん吹いたんだから、最後くらい私にやらせてよ」


 今までホルンソロがある曲は、すべて先輩か御師匠が吹いていました。大学最後くらいは私がソロを吹きたいです。でも、御師匠も譲りません。熾烈なソロ争いが勃発しました。


「私が吹くことを想定して『オベロン序曲』になったのよ」

「たとえそうだとしても、私だって吹きたいよ」

「まあまあ」


 チェロの男子が仲裁に入ります。彼はチェロが非常に上手で、チェロ演奏で女の子を落とすと評判です。「めろめろチェロ」の二つ名がありました。「めろめろチェロ」の彼は、御師匠に吹かせたいようです。そんな逆風に私は負けません。みんなを巻き込むことにしました。


「私がソロを吹けるよう協力してください」


 各パートに呼びかけます。引退した先輩方にも連絡をして、お願いをしました。アッキーやマユちゃんは、この平和なオケでソロ争いなんてと驚いています。


「私ならソロを譲るなあ。間違えたら嫌だもの」

「私もー」

「二人とも謙虚だね」


 他のパートや先輩方の説得(圧力?)に応じた御師匠は、悔しそうに私に言いました。


「今回は仕方ないから譲るけど! 音を外したら絶対許さないんだから!」

「ありがとう! 精一杯練習するね」


 頑張って練習しながら、家族やミチコさん、付き合っている彼に演奏会にきてもらうよう頼みます。一曲目の冒頭が私のソロですから、クラシックに詳しくなくてもわかるでしょう。


 練習して練習して──演奏会当日になりました。指揮者さんと打ち合わせもばっちりです。あとは間違えないことを祈るだけです。


 舞台の指定された席に座り、チューニングをします。やがて指揮者さんが入場してきました。第一曲目『オベロン序曲』が始まります。指揮者さんを見つめて、指揮棒とともに吹き始めました。最初の音は外さなかったのですが──途中の音を外しました。練習を重ねたのですが、ホルンは難しいのです。御師匠の怨念のこもった視線を感じます。休憩中、御師匠に非難されました。


「あんなに言ったのに、間違えたわね!」

「ごめん! ブラームスの交響曲第一番は間違えないようにするよ」


 ブラ1を吹き終え、大学生活最後の定期演奏会は終わりました。演奏会のあと、ミチコさんと彼にメールします。


『ごめんね、間違えちゃった。私の演奏どうだった?』


 彼からはすぐにメールが返ってきました。


『クラシックはよくわからないけど、お前が吹いているのだけはわかった』


 感想はそれだけでしょうか。しばらくして、ミチコさんからメールがきました。


『道に迷って、遅くなったから、一曲目が聴けなかったよ』


 ミチコさん……。彼の感想よりひどいです。でも、最後の定期演奏会でソロを吹いたことは、一生忘れられないでしょう。ソロが吹けてよかったです。

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