異世界と爆発
山田の能力は未来視。
正確に言えば他の似たような世界での未来を見ることである。
伊集院明人が暴れ回ってシナリオを破壊したこの世界……
そこでは的中率は大幅に下がっているはずだ。
だが……しかし……
「どういうことだ? 未来に存在しないって?」
明人は山田に尋ねた。
「進藤が見えない……どの未来にもヤツは……いない」
山田がそう言った瞬間、進藤が壊れたかのように笑い出した。
「アハハハハハ!!! そうか……山田がいたか……そうか……」
自虐的な響きの笑いだった。
それはどこか寂しそうな哀れなものだった。
「……お前は……俺と同じ正解に辿り着いたんだな?」
明人の声が響いた。
場が凍りついた。
進藤がゆらりと身を捻り、明人を睨み付けた。
「お前はなにを知っている?」
「俺は別の世界、その狭間で俺は失敗した別の世界の俺に出会った。そして俺は別の世界の俺たちに託された……三島花梨を救えと」
「……半分だ」
「どういう意味だ?」
「お前はまだ半分しか理解していない。俺が好きこのんでこの腐れた世界の言うままになっているとでも思っているのか?」
そう言って進藤は腰に差した刀を抜いた。
「それは『俺が勝ったら教えてくれる』ということか?」
明人が指をさした。
「違うな。もう『お前とは話す気がない』という意味だ。なぜならお前はここで退場するからな」
進藤が親指を下げた。
それを見て明人が眼鏡を取り言い放った。
「あえてフランス人風に言おう。お前は俺に勝てない。理由は三つある」
「ほう面白い。言ってみろ」
「一つは今からテメエのツラに拳を叩き込んで自由の女神までぶっ飛ばすからだ。二つ目は今からテメエのケツに蹴り入れてエル・カズネまで蹴り飛ばすからだ」
「ほう? ……では三つ目は?」
「ああ、そいつはな……今から考えるんだよ!」
明人が眼鏡を放り投げ、進藤がそれを叩き落とす。
それを見て察した山田が刀を明人へ投げた。
明人はそれを受け取り進藤へ峰打ちで斬りかかる。
それを進藤はひらりと後方へ飛びかわした。
「へぇー卑怯な手も使うんだな。驚いたよ」
明人は刀を持った手をクルクルと回した。
刀は思ったよりも軽い。
刃は光沢がなく非金属のように思われる。
そこに特徴的な黒と金のマーブル模様が浮かんでいる。
材質はセラミックだろうか?
「にゃはははは!!! どうだ合金の芯に樹脂とダイヤモンドをコーティングして作ったこの刀!!! 明人のおかげで予算たんまりアメリカ軍との共同開発だ!!! どうだ凄いだろ!!!」
なんていうもの作りやがった。
リアル斬鉄剣じゃねえか。
明人は渋い顔をした。
明人に対し進藤は笑っていた。
少なくとも剣の性能では劣っているはずなのに。
「んじゃ俺は……」
明人のうなじの毛がびりりと逆立った。
即座に山田を抱えて横へ飛んだ。
一瞬遅れて炸裂音が響く。
進藤のその手には拳銃が握られていた。
「いい反応するなあ。今のを避けるか……」
「悪いな。普通はやめたんでね」
軽口を口にする明人。
その明人に抱えられた山田は頭を掻いていた。
そしてなにを思ったかぷるぷると顔を振り、もう一度頭を掻いた。
「進藤。君が伊集院に勝てない理由が三つある」
明人の丸パクリである。
だが明人は知っていた。
山田は言語化できないだけで、常に真実に一番近いところにいる。
その言葉は無視ができない。
「一つはお前はジンギスカンに対する敬意が足らない」
「いきなり肉の話か」
「伊集院、小さいことは気にするな。二つ目は一般人がいるところでボクたちを襲ったこと。理不尽を目にした伊集院はおっかないぞ。勝ちたければ正々堂々とやるべきだったね」
「山田。三つ目は『今から考える』か?」
進藤がバカにしたようにそう言うと山田は邪気のない笑顔で微笑んだ。
「違う。後ろ」
「人間ミサイル!!!」
その瞬間、進藤の目に映ったのは、ライアンが敵を捕まえて進藤へ放り投げる姿だった。
足止めをしたはずだった。
だが、ライアンはすでに全員をのしてしまっていたのだ。
「クソッ! 化け物が!!!」
それでも進藤は冷静に避けた。
拳銃を構え明人のいたところへ向ける。
すでに明人の姿は消えていた。
そこに山田の声が響く。
「んで、四つ目」
進藤の視界の外から明人が飛び出す。
ライアンが注意をひいたその時に後ろを取っていたのだ。
進藤も素早い反応で銃口を明人へ向けた。
「別の目的があるだろ?」
銃声がし、明人の側頭部から血が噴き出す。
銃弾が擦ったことを気にもとめず、明人は振りかぶり刀で拳銃を叩き落とした。
「はははは! まさか、こんな手で……」
折れたのだろうか進藤は指を押さえていた。
「最初の違和感は進藤、君が人質を取らなかったことだ。人質さえ取っていたらボクらを殺す確率は跳ね上がっただろう」
「はははは! そうか。山田。お前も危険因子だったのか」
進藤のいわくありげなその発言も空気を読まない女である山田は無視をする。
「次に最初に会ったときと能力が違うことだ。おそらく……君の能力と兵士を出す能力、それにライアン先生の力を封じる能力の使い手は別じゃないか?」
山田は転がっている兵士を蹴飛ばした。
それは普通の男だった。
「消えた男は列車の時よりずいぶんと数が少なかった。戦闘押しつけて数えてたからわかる!」
「大人しいと思ったらそれかよ!!!」
明人の抗議もなんのその。
山田は胸を張る。
「藤巻かジェーンたちの方に本命を配置しているのか それとも……?」
「違うな」
「……なにが違う?」
「俺の獲物は伊集院明人、お前だ!」
その時だった。
突如、ビアホール内にあの研究所で見た闇が現れたのだ。
闇は食器を、肉を、野菜を、ビアホール内の全てを飲み込んでいく。
「伊集院明人。お前は今から思い知るだろう。これが俺たちの辿り着いた答えだ」
そして闇の中から誰かが突如現れた。
それは三島花梨だった。
三島は生気のない顔で明人を見ていた。
その瞬間、明人の視界がぐにゃりと歪んだ。
この感覚、覚えがある。
異世界、その狭間で失敗した伊集院明人たちと出会ったときに味わった感覚だ。
そして明人はそのビジョンの中に自分がいるのを発見した。
彼は別の世界、崩壊した世界の伊集院明人に違いない。
もう一人の明人は闇を指さしていた。
そしてモゴモゴと口を動かした。
音は聞こえない。
だが明人には、もう一人の明人がなにを言わんとしているのかが、はっきりとわかった。
「三島を救え」
どういうことだ?
明人が混乱をしていると進藤が声を上げた。
「さあ! 三島花梨を殺しに行け!!!」
明人はさらに混乱をする。
なぜ三島花梨がキーパーソンとなっているのだ?
どうしてだ?
明人はよろよろと立ち上がった。
いつの間にか膝をついていたのだ。
「伊集院? 大丈夫か?」
心配をする山田の声は届かなかった。
明人は決心をした。
己の見たものを、別の世界の明人を信じようと思ったのだ。
「ちょっと伊集院! 待って!!!」
走り出した明人の手を山田が掴み、そのまま一緒になって走る。
二人が闇に飛び込む。
それと同時に進藤が怒鳴った。
「やれ!!!」
闇がフロアを埋め尽くす。
そして闇がその場にいた全員を飲み込んだ。
◇
一方、藤巻。
ジェーン謹製のバイクで走る二人。
二人は二台のバイクに追いかけられていた。
「おい! どうすんだ?」
加納が藤巻に尋ねた。
「ああ。確かこのボタンで……」
藤巻がコントローパネルのボタンを押す。
「いやお前! カーラジオじゃねえんだからうろ覚えって……」
抗議する加納を無視するかのようにバイクからガシャンと言う音がする。
なにかが排出されたようだ。
「っちょ! なにやった?!」
「爆弾?」
このとき藤巻は知らなかった。
ジェーンがちょうどアメリカ軍の工兵の教本を元に発明をしていることを。
しかもそれが爆発物だということを。
更には親の権力を使って日本政府に無許可で実験段階の化合物を取り寄せたことも。
時速300キロの世界、その時間感覚の中での遙か後方。
そこから地響きがした。
「ふ、ふ、藤巻! ば、爆発、なんか燃え、燃えてる!!!」
あれ?
飯塚いないのにこれ?
俺が何をした。
藤巻は内心少しだけ後悔していた。
火吹き蜥蜴の新たなる破壊伝説のはじまりだった。




