食べ放題 ~激怒の大地~
ガラスが粉々に砕け、中に迷彩服にガスマスクという異様な出で立ちの男たちが飛び込んできた。
10人はいるだろうか。
「きゃああああああああッ!」
女性の悲鳴が響いた。
「な? 来ただろ?」
加納がさして興味もなさそうに言った。
「おーお。人が多すぎて動きがぎこちねえでやんの。うわぁ俺の最後かっこ悪うー……はああああー」
加納がため息をつくのと同時に男たちはその手に持っていた自動小銃を構えた。
次の瞬間だった。
男たちの顔目がけて皿が飛んできたのだ。
不意を突かれた男たちは避けることもできず、顔面に陶器の皿がぶち当たった。
皿を投げたのは、ライアンである。
ライアンはその隙を突いて指示を出す。
「オラァッ! 明人と山田は俺とオフェンス。藤巻はガキ連れてずらかれ! 残りは一般人を逃がせ!」
そう言うとライアンはテーブルを片手で持ちあげ迷彩服の男に殴りかかった。
男の顔面に当ったテーブルが破片をぶちまけながら破裂するかのようにいくつかの破片へと砕け飛散した。
ジンギスカンのキャベツ、それにタマネギとともに男が宙を舞う。
この大きい物体での攻撃は予想以上の威嚇効果をもたらした。
ライアンに気を取られている隙を突いて、客たちが逃げることができたのだ。
レイラたちは彼らを外へ誘導していった。
明人は皿を浴びせられてフラフラとした男を掴む。
「行くぞ! 先生!!!」
明人は男の首の後ろ押さえ、もう一つの手で背中側に肘関節を極めた状態でライアンの方へ男の体を投げる。
男を待っているのはライアンがそのへんから拾った新たなテーブル。
「人間ホームラン!!!」
テーブルが砕け、男が打ち上げられる。
男は人間ミサイルとしてその落下に何人かを巻き込んでいった。
そんな人間離れした力を振るう二人だが、小銃全てをさばくことができるわけではない。
本来なら銃の処理に手こずったかもしれない。
だが、ここでもう一人が覚醒したのだ。
「よくも……よくもオラのお肉殺したなああああああ!!!」
それは山田だった。
山田が仲間を殺されたときの某宇宙人のような台詞を吐いた。
山田は髪の毛こそ金髪になることはなかったが、すでに人間は捨てていた。
山田は頬に特徴的な傷のある侍の如き動きで敵に近づき峰打ちをする。
ただし峰打ちの威力は気絶させる威力などではなく、人間がピンボールの如く打ち上げられたのだ。
山田が圧倒的な暴力で男たちを蹴散らす中、明人は考えていた。
これは青函トンネルと同じ展開ではないだろうか?
だが、能力者は捕らえたはずでは……?
◇
店の裏から外に出た加納と藤巻。
なぜか加納は逃げるのには協力的だった。
「おい? バイクって……? 乗ってきてないだろ?」
加納の質問を聞いた藤巻が、まるでイタズラに成功した小学生のようにニヤりと笑った。
藤巻には珍しくドヤ顔である。
「ジェーンちゃんがハリウッド映画を見て作ったシステムだ。ロマンのわかる女っていいよな……」
そう言うと藤巻は手を挙げた。
無人のバイクが角を曲がってやって来た。
バイクは藤巻の前までやってくるとブレーキをかけ停止した。
「おい……これ……」
「ああ。機械が人類を滅ぼすあの映画の無人機からヒントを得て作ったんだと。それもAIは10歳の時の作品らしい」
「……やっぱあの女が世界を滅ぼすんじゃね? なあ?」
加納は小さくそうぼやいた。
それを聞いた藤巻は加納に言った。
「お前、本当は死にたくねえんだろ?」
そんな藤巻の態度に加納は怒鳴った。
「ああそうだよ!!! 死にたくねえよ! でもここで死ぬんだよ俺は! 仕方ねえだろ! そう決まってるんだ!!!」
藤巻はそんな加納にヘルメットを投げ渡すとぶっきらぼうに言った。
「俺は明人やジェーンちゃんみたいに頭は良くねえ。お前さんの悩みもよくわからねえ。だけどな、生き残ったら話くらいは聞いてやる。乗れよ。生き残るんだろ?」
その発言にはなぜか安心感があった。
藤巻自身がなんとかなると信じていたからだ。
その安心感が加納を動かした。
「……藤巻」
それだけを言って加納は無言で藤巻の後ろへ乗った。
二人に言葉など必要はなかった。
二人を乗せた鉄の馬はエンジンのうなり声をあげながら走り出した。
漢の浪漫を詰め込んだバイクに跨がるのは痩身のライダーと甘ロリの男の娘。
シュールな光景だが彼らはその現実は見ない。
公道で走るべきではないスピードで走行していた。
逃げること自体はできるだろう。
問題は本州と陸路で繋がっていないことである。
藤巻はヘルメットの通信機能をオンにして話し始めた。
「加納。進藤の能力は『現実を歪めること』だよな?」
「ああ」
加納もすぐに通信に順応した。
さすがに現代っ子だけある。
「お前のは?」
「意識を飛ばすことができる。別世界にもだ。しかも人間に扱える形式でだ」
やはりか。
藤巻は思った。
その力のせいで田中は何度も死にかかっていたと聞いている。
山田も肉体的な負担は大きいと言っていた。
強力な力には必ず反動がある。
こんなやりたい放題できるはずがない。
「進藤はお前の能力を使い、別の世界へ兵隊を送り込んだ? 違うか?」
「ああ。そうだ」
「兵隊は?」
「進藤の能力から生まれたシステムだ。兵士がそこにいるかのように世界を騙す装置だ。魂がないから俺やAIが操作してやらないとならないけどな」
「範囲は?」
「ごく狭い。数メートルって所か。一体あたりの連続稼働時間も少ない」
「列車ではどうやった? 数メートル程度じゃないだろ?」
「装置を設置して俺の能力で遠隔操作した。兵士の出現だけは機械でもできる」
「その装置ってのはなんだ?」
明らかに人類の技術水準を超えている。
技術屋の息子である藤巻はそこが気になった。
「ああ。別の世界に住んでる進藤ののうみ……」
「俺が悪かった。もういい」
聞かない方が良かった。
藤巻は少し後悔した。
明人なら「別世界から持ち帰れるのか!?」と聞くところだが、藤巻はそこに気がつかなかった。
「うむ」と藤巻がなんとなく納得したその時だった。
藤巻が殺気に射貫かれる。
藤巻は眉間に皺を寄せた。
ミラーを見るとライダースーツの男たちが藤巻たちの後ろを猛スピードで追いかけてきていた。
「あれは生身か?」
「生身だ。俺は乗り物の運転はできないし、進藤ではあの動きは無理だ」
「なるほどな。撒くぞ。しっかり掴まってろ」
藤巻は勝負をかけることにした。
◇
山田、明人、ライアンはビアホールで戦闘を継続していた。
倒しても倒してもキリがない。
これでは青函トンネルと同じだ。
明人はイライラとしていた。
パチパチパチパチ。
もったいぶった拍手。
空気を読まない拍手の音に全員が戦闘をやめ拍手の主を凝視した。
「よくもここまで話を破壊した。褒めてやるよ」
いかにも悪のボスと言わんばかりに進藤が現れた。
RPGならこれから相手の演説を聴いてやる必要があるだろう。
だがこのメンバーにその無駄な演出が通じるはずがない。
まず山田がカニの甲羅を投げつけた。
進藤は最小限の動き、首を動かすだけでそれを避ける。
それを見たライアンが今度はキャベツの破片を小さくちぎって投げる。
それは普通にヒットした。
もちろんダメージはない。
ただの中学生レベルの嫌がらせである。
「……伊集院明人。俺は間違っていた。お前は異常ではない。この連中が悪かったんだな」
進藤が二人に指をさした。
あやうく同意しそうになるが二人を怒らせてはマズイと明人はスルーすることにした。
「オシャレで高級なバーがファミリー向けのビアホールに……なぜだ!!!」
「山田が異常な量食べるから。それにそういう店は最初から候補に入らん」
「なぜだ?」
「バーに高校生がいたらおかしいだろが!!!」
明人の当たり前の答えに進藤は明らかに気分を害した顔をした。
まるでダメな映画監督のようだ。
明人は思った。
そして明人が違和感を感じたのと同時に山田が妙なことを口走った。
「……なぜ? なぜこの男は未来にいないんだ?」
それはビジョンだった。
山田の見たごく近い未来。
その映像の中に進藤の姿はなかったのだ。




