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会議

「あっれー? おかしいな?」


 そうつぶやきながらゲシゲシとドアを蹴飛ばす男がいた。

 彼はライアン。

 前世はらめ(略)のプログラマであり、現在は明人と飯塚の師匠である。

 ライアンが蹴りを入れるがドアはびくともしない。

 ドアはスチール製。

 普通の人間なら蹴り程度では壊せないのは当たり前である。

 だがライアンは異世界から転生した英雄である。

 この程度の障害など問題にならないはずだ。

 シリアルを山盛りで食べなかったせいだろうか?

 今度は助走をつけて思いっきりドアに蹴りを入れる。

 ドーンとう音がするがドアはびくともしない。


「おりゃッ!」


 その様にイラッとしたライアンは飛び上がり、今度はドロップキックを放った。

 ガンといい音がしたがドアが開く様子はない。

 何かがおかしい。

 ライアンは数時間前の出来事を思い出す。

 大実業家にしてテロリストである蔡の行方が判明したのが数日前。

 明人に知らせる前の事前調査で香港に潜入したライアンたち。

 ところが逃げ場のない入国ゲートで現地の治安機関に拘束され、そのまま飛行機と陸路でどこか遠くに運ばれこの施設内に拘禁されている。

 そこは飛行機の窓から見えた風景から日本の近くであると推測された。

 ライアンとしてはさっさと斉藤みかんを救出して逃げる予定だったのだが、ドアすら壊すことができずにいるのだ。


「マジで何があった?」


 そうつぶやくとライアンはドアを殴った。

 ドアからガランという音がしたが、やはりドアが開くことはなかった。



 生徒会室。

 明人たち、田中、藤巻、それに山田が会議をしていた。


「長岡って美術部だっけ? 新聞部じゃないのか?」


 明人が疑問を口にした。


「明人、うちの学校は学校新聞は委員会活動だ。みんな新聞部って言ってるけどな」


 藤巻に指摘され明人がなるほどと頷く。

 明人は部活動などの学校の活動に全く興味がないため全体像の把握していない。

 その点、藤巻や田中は一年間は普通の学生生活をおくっているため学校のことには詳しい。


「漫画部が漫研って呼ばれてるのと同じか」


「そう。それと同じですわ」


 なるほどと納得した明人は話を元に戻す。


「藤巻さん。霞ちゃんの方は?」


「ああ……作文に何か書いてるんじゃないかと思って、文集を読んでたら霞に見つかって本気で怒られた。メチャクチャ怒られた。もうお兄ちゃんなんて知らないって言われた」


 よろよろと体を傾けながらガサガサになった唇を震わせて藤巻が言った。

 今にも灰になって崩れて飛んでいきそうである。


「マジでごめん……えっと会長の方は何か気づいたのか?」


 可哀想なのでスルーしよう。

 明人は生暖かい優しさで田中へ話を振った。


「長岡明香里が言うには『夢で見た』だそうで。ところで三島花梨の方はどうですか?」


「三島は最近顔を合わせると顔を真っ赤にして逃げまして……」


 しょぼーんとした様子でそう言う明人を見た田中は女性の勘で面白くないことが起きていることを察知した。

 このまま放置しておくのはマズい。

 どうにかしなければ。

 三島のバランスとれた弁当が復活してしまう。


「しかたありませんわね。わたくしが聞いておきましょう」


 田中はなるべく平静を装い、かつ恩着せがましく言った。

 ここで点数を稼いでおこうと思ったのもある。

 もちろん三島に工作をかけるつもりでもある。

 太らせて美味しく頂く、その野望を隠そうともせずに。

 田中の思惑とは裏腹に明人は喜怒哀楽どれにも属さない微妙な表情をした。

 その表情に気づき、まずいと思った田中は慌てて話を変える。


「コホンッ。ところで飯塚と斉藤が家に帰っていないそうですわ」


「……え?」


 藤巻が聞き返した。

 相棒の現状をまったく知らなかったのである。


「二人のご両親から問い合わせが入ってますわ」


 藤巻はうーんとうなると言った。


「……死人が出ないか?」


「え?」


「だってあの二人だろ。飯塚の火力は明人を超えてるわけだし……」


 明人は急に肝が冷えた。

 野放し。

 主人公がストッパー無しの野放し状態なのである。


「会長……マズイです……一番危険なのが野放しです」


 こうして超能力のことはいったん置いて、男子陣による飯塚捜索作戦が始まったのである。



 数時間後。

 都内某所。

 ジェーン、山田、それに田中が学生服で集まっていた。

 ロシア側の席にはレイラがいた。

 レイラは完全に明人の仲間とは言いきれない。

 注意しなければならないとジェーンたちは思った。

 その後も続々と関係者が入室してきた。

 埼玉県警からは県警トップの中本。

 それ以外にも関係各国の治安機関の関係者が集められていた。

 他には科学者や哲学者や法学者、宗教家、科学倫理の専門家などが集められていた。


 テーマは先日の事件。

 核融合実験の件である。

 全員が席に着いたところで座長を務める高名な科学者が話を始めた。


「えー結論から言いますと実験は成功しました。未発見の粒子のいくつかを観測。この実験は人類に多大な貢献を……」


 その場にいた科学者以外の全員が『どうでもいいわ』という顔をした。

 問題はそんな事ではない。


「でさ。田中ちゃんの携帯の48時間分のログの原因はわかった?」


 ジェーンが口を挟んだ。

 田中の携帯の48時間分の無駄な記録。

 これはどう考えてもおかしな現象だ。

 だからジェーンは遠慮せず堂々と質問をぶつけた。

 もともと大人に混じって仕事をしていた少女だ。

 こういう場にはなれているのだ。


「まったくわかりません。異世界……いえ田中さんの特技のこともありますので疑っているわけではありませんがね……」


 田中は何度か科学者の前で実験をさせられた。

 現象は目視で確認されたが、その現象を観測するための装置を作る必要があるらしい。

 それまでは科学的には『よくわからない現象』ということになっている。


「じゃあなにが問題なの? 今さら明人を外す必要が本当にあるのかな?」


「それは私から説明致します」


 今や埼玉県警本部長の中本である。

 中本は少なくとも明人の仲間のはずだ。

 だが……

 ジェーンの目が鋭くなる。


「先日の騒動での被害です。さいたまタワー崩壊。アメリカ大使館全焼失。豪華客船沈没。埼玉県警の警察官の負傷者70名。埼玉、神奈川の両警官の逮捕者100名。これはほんの一部でこれから増えるでしょう。それによる損失は天文学的数字です」


 それは言い訳できねえ!

 ジェーンは焦った。

 確かに明人のコストは高い。

 そこをツッコまれるのはマズイのだ。


「ですが……彼の代わりが勤まるものがいるとは思えません。それに新しい科学的発見はお金には代えられません」


 よっしゃ!

 うまいフォローだ。

 宗教関係者は身内なので黙っていた。

 なんぜ明人のバックはドリキャス仮面である。


 そんなジェーンの携帯電話がぶるぶると震えた。

 音を鳴らすようなことはしない。

 バイブレーションも仲間からの緊急通信のみ起きるようにしてあるのだ。

 ジェーンは密かに携帯を確認した。


 着信:飯塚


 それは行方不明の飯塚からの連絡だった。



 北海道。

 ヒグマが必死に逃げていた。

 森の先から何か恐ろしいモノがやって来る。

 そう恐ろしいモノが。

 獣の本能がそう告げていた。

 それは小さく華奢な生き物だった。

 だが、その目は黒く淀み、その絡みつくような殺気は森の獣たちを恐怖へ叩き込んだ。


 その生き物の名は飯塚亮。

 明人の仲間であり、藤巻の相棒である。


 飯塚は携帯で電話をしていた。

 電話の相手はジェーンである。


「もしもし。あは。北海道に着いたよ。うん。ここでGPS信号が途切れたんだってね」


 香港で消息を絶ったライアン。

 その携帯のGPS信号が途切れたのが北海道だった。


「あのねリョウ! 今そっちに藤巻と明人も向かってるから! ちゃんと合流しなさいね! お願いだから!!!」


「うん。わかったよ。ありがとう。でも……急がなきゃならないって感じるんだ。……みかんが危ないような気がするんだ」


 あかん。

 聞いてない。

 完全に暴走してる!

 ジェーンは一度に色々と起こりすぎたせいか情報に目を回すのだった。

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― 新着の感想 ―
うーん、さすが元祖主人公。
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