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悪魔降臨

 山田一門がとある部屋の前へ来ていた。

 全員で一本の電柱ほどの太さでいくつもの取っ手のついた金属製の丸い棒を持っていた。

 いわゆる破城槌である。

 それは最後の扉だった。

 頑丈な鉄製のドアである。

 その扉は電子錠で施錠されており全く開かない。

 ジェーンの到着を待つ余裕もなかった。


「スキャンはどうだ?」


 超広帯域周波数電子スキャン。

 壁越しに人がいるかどうかを電波センサにより確認する機械である。


「壁が厚いため画像は不鮮明ではありますが、少なくとも3人の姿が確認できます!」


 男は頷く。

 40代くらいの年齢、白髪交じりの髪の男だ。

 迷子になった当主を探していたところ、その当主が船をシージャック。

 しかもそそのかしたのは伝説のスパイ、ライアンである。

 何か考えがあるに違いない。

 そう思い込まなければやってられなかった。

 山田の掟は単純明快。

 強いやつが正しい。

 確かに現在の当主は人望がある。

 無駄に可愛いからだ。

 いやはっきり断言しよう。

 全員が娘のように思っているのだ。

 その当主が白と言えば黒いものでも白なのである。

 頭の片隅で「実は何も考えていないんじゃ?」と少しだけ疑ったが、やはり「うちのお嬢は世界一じゃああああッ!」なのである。 

 やはり拉致被害者はここにいるのだ。


「扉を破城槌で破壊後、すぐにスタングレネードを放り込め!!! 人質を確保したら制圧! 野郎ども! 仲間の敵だ!」


 男が檄を飛ばした。

 仲間とは田中一族の隠密のことである。

 後藤の事件の時に田中一族から出た犠牲者。

 当初、後藤一味の犯行と思われていたそれは、後藤の逮捕により同じく逮捕された秋山の一人の犯行である事が確認された。

 後藤は快楽主義者だが人殺し自体には興味がなかったのだ。

 当の秋山は指示があったとしか答えない。

 では秋山には誰が指示を出したのだろうか?

 そこで公安は内部調査を進めた。

 公安と一般人を見分けることは難しい。

 特に彼らは数百年の歴史を持つ隠密であるのだ。

 内部に情報を流したものがいるに違いないという結論に至ったのだ。

 後にその調査には山田一門も参加することになった。

 結局、買収され情報を漏らしていたものは幾人にも及んだ。

 幹部から末端の職員まですでに賄賂漬けだったのだ。

 例外は家業として代々諜報活動を生業としている田中家。

 それと腕力至上主義、天下御免の脳筋集団である山田一門だけであった。

 彼らはそれぞれの理由から仲間はずれにされていたのである。

 そんな彼らはお互いを同情し友情を深めていたのだ。


「1・2・3ッ!!!」


 破城槌が扉に当る。

 一撃目で扉が歪む。


「もう一度行くぞ!」


 そして何度も破城槌を打ち付ける。

 数度目の攻撃でドアが吹き飛ぶ。

 流れるような動きでスタングレネードを投げ込む。

 爆発音のあと、棍棒を持った男たちがなだれ込んだ。

 棍棒と言っても鉄製で中は空洞でそこに砂が三分の一ほど入ったものだ。

 ブラックジャックやサップと呼ばれるものに近い。

 振ったときに中の砂が先端に移動し、そのエネルギーが打撃力を増幅させる。

 完全に殺しにかかってる武器である。


 中には目を押さえる少女たち。

 そして青竜刀を持った三人の男。


「ふんがッ!!!」


 筋骨隆々の男たちが棍棒を振り下ろす。

 わざと目を押さえている腕越しに頭部に目がけてフルスイングする。

 音はしなかった。

 内部に衝撃が伝わりやすい武器であることも一因である。

 だが主な原因は腕力が大きすぎたことにある。

 殴られた男は軽々と吹き飛ぶほどの打撃だったのだ。

 男は吹き飛び壁に当り動かなくなる。

 他の男たちも同じように吹き飛んでいった。


「パージ完了じゃああああッ!」


 男が吠えた。


「兄ぃッ! 女の子の数が足りやせん!!!」


「やはり甲板か! 行くぞオラァッ!!!」


 オーガの集団が吠えた。



 田中とレイラが甲板を捜索していた。


「やはりいたな……」


「いましたわね……」


 待ち構えているのは蔡。

 王のように優雅に、神のように高見から眺めていた。


「田中にレイラか……この没キャラどもめが……」


 蔡は興味のなさそうな目で見つめていた。


「これは火事のせいなのか? 誰が犯人なんだ? あいつらを殺したのは誰なんだ? 指名手配されたプログラマなのか?」


 蔡はぼそりとつぶやいた。


「ちげえな。前田は誰も殺していない」


 男の声が響いた。

 そこにはライアンがいた。


「前田は誰も殺してはいない。殺せるはずがねえんだよ」


「どういうことだ?」


「前田は逃げた。それは事実だ。だがな……殺せるはずがねえんだよ」


「なぜそう言い切れる?」


「前田は……湯沢の実家から出られなかったんだよ……逃げたという事実に耐えられなくなってな」


「……お前は?」


「教えてやろう。お前らが異世界から召喚したと思っている人間だが……異世界の繋がった時間において、たまたま死んだ人間が召喚されるんだ……いや作為的か……ある程度の法則性があるのかもしれない」


「ほう?」


「火事で死んだ連中、そして、お前ら……他の連中も意味はあるんだろうな……恐らく」


「お前がプログラマか……」


「ああそうだ。いや……別世界でライアンと同じ存在だったものだ」


「そうか! 貴様が全ての始まりか!!! お前を呼び出したせいで世界が狂ったのか!!!」


「違うな。世界が狂い1999年以前の世界から切り離された原因は俺ではない」


「伊集院明人の暗殺を謀ったものがいる。伊集院明人を車ではねたパトカーだ」


「嘘をつくなあああッ!」


 蔡がライアンに襲いかかった。


「ライアン先生!!!」


 田中が鎖を放つ。

 蔡の首に鎖が絡まる。


「邪魔だ!」


 蔡が首を振る。

 鎖がしなり、田中の体が宙に浮いた。


「死ね!」


 田中の体が床にたたきつけられる。


「ぐっ!」


 レイラは田中が叩きつけられる前に田中から事前に渡されたクナイで斬りかかる。

 蔡はその手を掴み、腹を殴る。

 レイラは腹部を捻り打撃を受け流す。


「ほう……そこまではできるのか……」


 レイラは息を整え腹部の痛みを緩和する。


「呼吸法。ほう、ますます関心だ。殺すのが惜しいぞ」


 拳を振り上げた。

 震脚。それは小さな動きであった。

 踏みならす音はしない。

 地を踏みしめる動作、そしてまるで低音域再生用スピーカー(ウーファー)の出力を最大にしたかのような揺れが起きた。

 無駄のない体重移動によって拳に全体重と運動エネルギーの合わさった力が集まる。

 それは拳による体当たりである。

 打撃がレイラを襲った。


 体重の軽いレイラが吹き飛んだ。

 蔡はそれに目もくれずライアンを目指す。

 ライアンが叫んだ。


「山田ァッ! 今だ!!!」


 ライアンの影から突如現れた山田が駆け出した。

 山田は手槍を持っていた。


「いええええええええいッ!」


 気合いを入れ踏み込む。

 だが蔡にはやはり武器は通用しない。

 槍が弾け飛ぶ。

 山田もそれは理解していた。

 山田の狙いは別の所にあったのだ。

 弾け飛ぶ槍の破片で一瞬視界の悪くなった蔡の隙を突き、何者かが蔡の脇を駆け抜ける。

 そして蔡の後ろで縛られている女子生徒の方へ飛んだ。


「先生! 女子生徒確保しました!!!」


 それは斉藤みかんであった。

 そしてライアンが蔡の前に立ちふさがる。


「さて……人質も確保した。あとはてめえを捕まえるだけだぜ。正義のためにな」


「ほう……いつから貴様は正義の味方になった?」


「てめえが俺を殺した時からさ!!!」


 蔡が呼吸を練り半歩踏み出す。

 ライアンは前に出て蔡の胸倉を掴む。

 無情にもゼロ距離からの打撃がライアンを襲った。

 拳が腹にめり込む。

 だがライアンはそれに構わず首を後方に引き一気に頭を振り下ろした。

 頭突きが蔡の顔にめり込む。

 今度は頭蓋骨が壊れるかもしれない。

 だがライアンはやめない。

 もう一度首を引く。


「無駄だ!」


 蔡が手首を捕り、捻りながら落とす。

 ライアンの手首へサブミッションが極まる。

 ライアンの体が崩れ落ちる。

 だがその時だった。

 ライアン折れた拳が蔡の足へとめり込んでいたのだ。


「な、……なんだと?」


「手首を決めるときは相手の手が届かないように足を引け。最初に習うだろ?」


 蔡の驚きはそこではない。

 折れた拳での打撃などたいしたダメージはない。

 攻撃が通ったという事実が問題なのだ。


「な、何が?」


「来たんだよ。法則に左右されない男が」


 ライアンがにやりと笑う。

 その瞬間、蔡はどこからか殺気を感じた。

 蔡はライアンを解放し横に飛び回避行動を取った。

 耳元にひゅんッという音が通り過ぎた。

 大粒の汗が流れた。

 弓だと。

 首を手で触る。

 血がついていた。

 攻撃が通る。

 なぜだ?

 蔡の心臓が高鳴った。

 その蔡の耳にどこからか声が聞こえた。


「っちょ! 明人君それはだめだって!」


「飯塚君。大丈夫。うまくやるから」


「うまくって無理だよね! その武器じゃ無理だよね!!!」


 泣きそうな声を出す飯塚。

 そして飯塚と一緒に現れた男は言った。


「今から貴様に恐怖を叩きこむ。恐怖を口から吐き出すまで追い込んでやるぜ」


 それは伊集院明人。

 シュ○ちゃん持ちでガトリングガンを構え笑っていた。

 それはまるで地獄の炎を身に纏った悪魔のようだった。

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