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らいおんさん

 ジェーンのPCから新着メッセージの受信を知らせるアナウンス音が響いた。

 ジェーンがPCを見るとフリーネットフロントエンドにメッセージの着信を知らせる表示があった。

 そのメッセージには明人を呼び出す旨が書かれていた。

 場所の指定はない。

 ジェーンは最初イタズラだろうかと思った。

 だが……ここが伊集院明人の関連先だと誰が知っているのだろう?

 アメリカの捜査機関、いやエシュロンですら難しいはずだ。

 だとしたら相手はジェーンを超える……

 ジェーンは首を振った。

 ジェーンは自分を世界一だとは思っていない。

 たとえエシュロンがあろうとも個人には限界がある。

 細かいミス、視野の狭さから来る戦略の間違い、ヒューマンタスクの限界。

 これらは数の力の方が優れている場合が多い。

 個人の力においても電気工学レベルでコンピュータを理解しているウィザードやグルと呼ばれる存在にはまだ及ばない。

 応用数学の真理に触れた学者にも敵わないだろう。

 そこが13年しか生きていないジェーンの限界だった。

 一気に頭の冷えたジェーンはメッセージにJPEG画像が添付されているのに気づいた。

 嫌な予感がしながらダウンロードする。


 ……藤巻!!!


 そこには椅子に縛られた藤巻の姿が。

 胸をはだけそこには「殺しに来い」と赤く書かれていた。

 殴られたのだろうか。藤巻の顔は腫れていた。

 ジェーンは母親が倒れたときの事を思い出した。


 いやだ!

 知り合いが死ぬのはもう嫌だ!


 いやだ! いやだ! いやだ! いやだ! いやだ! いやだ! いやだ! いやだ! いやだ! いやだ! いやだ! いやだ! いやだ! いやだ! いやだ!


 胃がきゅうっと縮み嫌なものがせり上がってくるような気がした。

 ジェーンは携帯電話を取り出し明人へ電話する。

 二回のコールで電話が繋がった。


「はい。どうしたジェーン?」


「藤巻! 藤巻はそこにいる?」


 合成写真であって欲しい。

 ジェーンは手に汗を握りながら必死になって藤巻がそこにいるかを聞いた。


「ああ。さいたま市で途中ではぐれちゃってさ。電話にも出ないんだよな……」


 それを聞いてとうとうジェーンは泣きだした。



 レイラは藤巻のバイクで旧戸田市方面に辿り着いていた。

 とりあえず明香里を安全な場所に送る必要があった。


「明香里。安全な場所はあるか?」


 レイラの漠然とした問いに明香里は困惑した。

 そもそも関東でも犯罪率が異常に高いロサンゼルスに安全な場所などあるのだろうか?

 あるとすれば……


「学校かな?」


 明香里はつい適当なことを言った。

 まだ事態が飲み込めていなかったのだ。

 だが真剣そのものだったレイラはそれを鵜呑みにする。

 最後に現れた中国人。

 あれは尋常な使い手ではない。

 なぜあんな化け物が一学生にしか過ぎない明香里を追っているのだ?

 麻薬?

 販売ルートなど危なければすぐに撤退して新たに開拓すればいい。


 目的は麻薬ではない?

 明香里はそれほどまでに重要な人物なのだろうか?


 レイラは困惑していた。

 それも無理はない。

 今回のターゲットはレイラと明香里の両方であり、レイラがこのタイミングで明香里を助けようとすることは織り込み済みだったとはレイラにはわからない。

 なぜなら敵は未来を知っているのだから。



 茶道室。

 そこに制服姿で正座し、お茶を点てる田中の姿があった。

 横には背広を着た若い男の姿。


「先生。わざわざお越し頂いてすみません」


 なんの感情もこめず極めて事務的に田中はそう言った。


「で、田中、聞きたい事ってなんだ?」


「ええ。治安の件です。連日の事件にみなさん不安がっております」


 田中はまるで自分には関係ないと言わんばかりの涼しい顔をしていた。

 それを見た教師も答えに困ったようなそぶりを見せる。


「そんなことボクのような一美術教師に言われてもね……警察に相談すればいいんじゃないかな?」


「ええ。もう相談しましたわ。山本先生」


 山本と呼ばれた教師は困惑する。


「そうかい? じゃあなんでボクなんかに?」


「ええ。この学校は公安関係者の子弟が多数通ってらっしゃるってご存じですか?」


「……へえ。そうなんだ」


「ええ。それで色々と相談を受けますの。例えば大量の石膏像の件とか」


「ははははは。石膏像って? あれだろ? 退学になった村田が夜学校に忍び込んでバットで美術室をメチャクチャにしたから補充したやつ」


「ええ。その後、村田は公安の捜査で人身売買ネットワークに関与していたことがわかっています。村田の背後には不良グループ火蜥蜴。その背後には暴力団。さらにその背後にクイーンテック。あー面倒くさい!!! で、その石膏像。何が入っているのですかね? 今話題のカルコサかしら? 生産地が中国と噂の。石膏を煮てカルコサを取り出すのかしら?」


「……ずいぶん大きな話だね」


「ええ。大きな話ですわね。一美術教師が関わるには」


「ボクを疑っているのか?」


 山本の声のトーンは低くなっていた。


「山本先生。あなたのP2Pマネーの記録ですわ。中国の取引所を使うなんてずいぶん大がかりな資金洗浄ですわね? 我々は、もしかして人身売買にまで関わっている……のではと疑ってますわ」


「我々……?」


「先ほども言ったとおり公安ですわ。先生、ごちゃごちゃ何を言おうともあなたはもう詰んでいますわ」


 その時、美術教師である山本は気がついた。

 田中麗華は事件に対して涼しい顔をしていたわけではない。

 山本をまるでゴミを見るかのような目で見ていたのだ。

 山本は笑う。

 確かに自分はもう終わりかもしれない。

 だったらこの生意気な小娘を道連れにしてやる!

 そう決意した山本は懐に手を入れる。


「おい田中。大人しくしろ。おれは拳銃を持っている」


「……バカな人ですこと」


 山本は拳銃を抜こうとした。

 この生意気な女も銃を見れば大人しくなるだろう。

 そしたら好き放題蹂躙してカメラの前で射殺してやろう。

 人生の最後に大きな花火を打ち上げてやるのだ!


 だが……小悪党の妄想はうまくはいかないのである。

 突然、山本の手が重くなった。

 山本が懐に入れた手を瞬時に立ち上がった田中が足で踏みつけているのだと気づいたとき、何かが首に絡まった。

 そのまま山本の手を踏み台にして田中は山本の後方へ飛んだ。

 鎖だ!

 そう気づいた瞬間、猛烈な勢いで鎖が首を締め付けた。


(なぜ……?)


 山本は鎖の先を見る。

 血流が止まった顔の毛細血管がパンパンに膨らんでいく。

 目の奥からも血液の圧力がかかってきた。

 そして山本は見つけた。

 鎖の先……畳と畳の間、にフックがかけられていたのだ。

 フックは畳の間に深く食い込んでいる。


(最初からこれを狙っていた!)


 山本の顔がどす黒く真っ赤になる。

 山本はすでに酸欠を起こしていた。

 拳銃を! 拳銃を撃たなければ!

 田中の方を向き、拳銃を向ける。


(痛ッ!)


 手に何か刺さり拳銃が落ちる。

 それはクナイだった。

 クナイは手の甲、人差し指の腱を貫いていた。

 首の骨がギリギリと鳴った。

 山本には田中が可憐な少女には見えなくなっていた。

 彼女は恐ろしく手練れの……忍だ……

 

 そして山本は戦意を喪失した。


 田中は山本が戦意を喪失したのを見て、事務的に山本の首に巻き付いたままの鎖をさらに両の手首関節に巻き付け、そして片方の足に巻き付ける。

 そして一気に引っ張り、それらを締め付けた。

 山本の体は不自然な体勢で固定されていた。


 これで拘束は完了した。


 田中は手を叩く。


「はい。捕まえましたわよ!」


 すると男子学生の集団が和室になだれ込んできた。

 火蜥蜴事件の後に急遽潜伏させていた田中家の若衆である。


「麗華お嬢様。お疲れ様です。お見事でございます」


「お世辞はよろしくてよ。……後はよろしくお願いしますわ」


 田中がまんざらでもない様子で和室を出て行こうとすると、別の男子生徒が飛び込んできた。


「お嬢様! 新聞部の部長がロリキング藤巻が危ないと騒いでおります!」


 それを聞いた田中はすぐさまジェーンの携帯に電話をしていた。

 今や田中にとっても藤巻は大事な友人だったのだ。



 客船内。


「ライアン先生! これからどうするのでしょうか?」


 山田がワクワクしながら聞いた。

 あの伊集院明人の師匠だ。

 学ぶことは多い。


「とりあえず覚えておけ。地味な諜報活動は性格の悪いやつが勝つ!」


 山田はこくりと素直に頷く。

 流石、明人の師匠だ。

 含蓄がある。


「だから俺たちには無理だ。なんせお人好しだからな」


 こくこく。


「だからそういうのはジェーンに任せておけ」


 こくこくこくこく。


「と、いうわけでレッツ実力行使」


 こくこくこくこく。


「これを被れ」


 ライアンが手渡したのはプロレスのマスク。

 タイ○ーマスク。

 しかも初代。


「うわーい!」


 山田はノリノリでマスクを被り虎になる。

 なんだか楽しそうだ。

 山田はそう思った。

 精神年齢が低い山田は面白ければそれでいいのだ。 

 虎になった山田がライアンを見ると、ライアンは往年の名レスラー、ザ・デスト○イヤーのマスクを被っているところだった。


「あとこれ」


 そう言ってライアンはどこからか出したサブマシンガン、UZIを山田に手渡す。


「これからなにをするんですか?」


 山田が首をかしげる。


「シージャック。連中のプランをグッチャグッチャにかき回してやる!」


 ライアンは……最高に悪い顔をしていた。 

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