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本当の原作

4/12 19:48 後で見たら酷かったので大幅に手直ししました。

 後藤は押し黙っていた。

 正確に言えば、丸焼けは間違いだ。

 箱に手をかけたところからは何も覚えてない。

 それが真実なのだ。

 菊池たちに聞いても同じだった。

 箱を自分が開けようとしたらこの世界にいた。

 全員が同じ事を言ったのだ。

 後藤の記憶では後藤自身が箱を開けたにもかかわらずだ。

 不自然なそれぞれの記憶。

 それに関しては誰も何も言及しなかった。

 誰も何も覚えていなかったし、そこに何か恐ろしいものがあるように思えたのだ。

 後藤はそこまで考えるとゆっくりと口を開いた。


「菊池はどうなった?」


 その問いに答えたのは山田だった。


斉藤(・・)は飯塚とともに田中家にいる。尋問は受けているが扱いは人道的なものだ」


「……そうか」


 後藤はまたもや口を閉じて何かを考えていた。

 その様子を見て、さすがに明人も火事の情報を引き出すのは無理だろうと判断した。

 今度はそれを見た山田が後藤に質問した。


「後藤……だな? 異世界人の目的はなんだ? 防衛省情報本部(DIH)の予想通りこちらの世界への侵略なのか?」


 それを聞いた後藤が鬱陶しいとばかりに反論する。


「……違うね。連中の目的はこの世界からの脱出だ。もちろん俺もだ」


「脱出? じゃあなぜ世界を滅ぼそうとしてるんだ?」


「浅はかなんだよ。あのバカどもは。脱出しようとしても八方ふさがりで焦ってるんだ。そこで世界の邪魔が入らないルート。人類滅亡を成そうとしてるんだ」


「お前はあきらめたんじゃないのか?」


 明人が疑問を口にした。

 後藤は流されるままに原作を忠実になぞっているだけだ。

 他の連中に比べて努力しているとは言いがたい。


「そこが誤解なんだよな……俺とあいつらとは考え方が違うんだ。あいつらは許される範囲で変革を起こして異物として元の世界に流されることを試している。俺は逆だ」


「逆?」


「ああ……俺は原作を完全に再現しようとしたんだ。元の世界との共通点を増やせば戻れるに違いないと考えている。だがな……」


「賛同されなかったと言うことか」


「そうだ。あのアホどもはキャラにこだわりやがって」


 このやりとりを聞いて山田が首をかしげていた。


「伊集院。原作ってなんだ?」


「……山田。これから残酷な話をする。山田はビジョン……だったな。それを壊して死を乗り越えた。だから全てを教える……この世界は俺たちの世界ではゲームなんだ」


「???」


 山田は意味がわからないという顔をする。

 明人はそれを見て容赦なく続ける。


「この世界はこいつらが作った悲劇の物語なんだ」


 後藤に指を指しながら、そう言うと明人は黙って山田の反応をうかがった。

 きっとショックに違いないと思ったからだ。

 だが明人の予想を斜め上に超えた答えが山田から返ってきたのだ。


「だからどうした?」


「え?」


「えー誰だっけ……? なんとか刑事(デカ)。潜入工作用の研修で習ったんだけど誰だっけ? この世は全部夢かもしれないってヤツ」


 後藤が呆れた声を出した。


「デカルトか……?」


「そうそう! その刑事さん!」


「……伊集院。俺こいつと話したくない。頭が痛くなる」


 後藤がそう言った。

 明人もなんとコメントしていいかわからなかった。

 そんな空気など微塵も読まずに山田は続ける。


「えっへん。知っているぞ。つまりだ。世界が誰かの夢や想像の産物ならば、その誰かも誰かの想像や夢の産物かもしれない。しかしその証拠を出すことはできない。つまり後藤や明人がそう思い込んでいる世界を想像した誰かがいるかもしれない。だが私にはどれも検証不可能だしどうにもできない。つまり……つまり……日常に影響が出ない以上考える意味はない」


 そこまで聞いた後藤と明人が同時に声を上げた。


「「それだ!!!」」


「え? なにが?」


 きょとんとする山田を放って明人は後藤と議論を交わした。


「『他の誰か』だ! クソッ! 気がつかなかった! この世界は後藤たちが作った世界じゃない! おい後藤。この世界の最初のプロットはどんな感じだったんだ?」


「娯楽作品だ! マフィアとスパイと犯罪組織が銃撃戦ヒャッハーな。世界観の設定とプロローグしかできてないけどな」


「そのプロットを考えたのは?」


「逃げたシナリオライター……西園寺零冶(さいおんじれいじ)だ。……本名はたしか平井清志(ひらいきよし)


 明人は納得した。

 らめ(略)が炎上した理由。

 それは人気シナリオライター西園寺零冶が制作者としてアナウンスされていたからだ。

 西園寺や売れっ子制作陣なら素晴らしいゲームを作るに違いない。

 みんなそう思って買ったのだ。


 そして盲点だったのだ。

 ほぼ全てを作り上げた後藤たちは自分の作った世界だと思い込んでいたのだ。

 それは明人も同じだった。

 あまりにも鬱シナリオにこだわりすぎていたのだ。

 この世界を縛っているのは改変された鬱シナリオではない。

 この世界を作ったのも後藤や菊池たちシナリオライターではないのだ。

 つまりこの世界のあらすじは……逃げた制作者がつくったものなのだ。


「その時の主人公は?」


「飯塚だ。年代物のウインチェスターライフル片手に美人なのにやたら影の薄い生徒会長のサブヒロインと一緒にドンパチする……」


「田中会長だ……彼女は忍者だ! 俺たちの仲間だ」


 ウインチェスターライフルを片手にヘリと戦う飯塚は、後に聞いた田中の見たビジョンと一致していた。


「山田は?」


「野郎のプロットにあったキャラを改変したらしい」


「ジェーンは?」


「あのクソチビか。……おれの知ってるジェーンなら死んでるはずだ。そこは改変してない。確か三人の女が死ぬはずだ。その中の一人だ。この設定は不採用。俺らはお手軽な話を作らなきゃならなかったんでな」


「藤巻さんは?」


「誰だその野郎?」


「水谷霞の兄貴だ!」


「あー。そんなのいたな……死ぬんじゃね?」


「俺は?」


「最後の最後で悲惨な死に方をする小悪党だ! 面白えからそのまま採用!」


 酷い話である。


「……納得した。お前らの知らない人物まで設定したヤツがいる。そいつが強制力に関わっているはずだ。そして、お前ら制作陣はここにいる。……つまり」


「あのクソ野郎どもはこの世界にいやがる!」


 後藤と明人はにやりと笑った。

 それは八方ふさがりのこの世界で世界を救おうとする明人と、滅亡以外の手段で世界からの脱出を目指す後藤の目的が一致した瞬間だった。



 これは明人の活躍により可能性が消滅しどこかに消えた未来。

 棺が土に埋められていく。

 それを見た男は涙を流し続けた。

 一度も会うことのなかった娘。

 男は何年も前にストリッパーをしていた彼女の母親と付き合っていた。

 ある日、男は彼女が妊娠したことを告げられた。

 結婚を申し込むと彼女は突然失踪した。

 その時、上院議員をしていた男のためを思って身をひいたのかもしれない。

 彼女が死んだ今となっては何もわからない。

 娘は賢い女の子だった。

 フードスタンプ受給家庭向けのプログラミング講習会。

 そこで才能を認められた彼女は飛び級で大学(・・)で学んでいた。

 そこをロシア人に拉致。

 いや、本当はロシア支配地域の独立派の仕業だ。

 わかっている。

 だが国がそれを許さない。

 しかも副大統領の娘と認めることも許されなかった。


 大統領が毒を盛られて辞任し、男が大統領になったとき、男は復讐を開始した。

 児童に対するテロで国内世論を煽り、ロシアを何度も挑発。

 激怒していることを察したロシアがその地域を制圧。

 同時に虐殺を開始したとして国内世論に火を付けた。

 アメリカ人の正義を煽ったのだ。

 

 そして宣戦布告。

 独立派の思うつぼだ。

 だがそんなことはどうでも良かった。

 後は焼き尽くすだけだ。

 核ミサイルでの先制攻撃は命じた。

 あとは攻撃シークエンスを実行に移すだけだ。

 それは遂に生きて会うことのなかった娘の葬儀から一週間後。


「お、おい。ダン。本気か?」


「本気だ。我々が生き残るには先に奴らを殲滅しなければならない」


 嘘だ。

 これは復讐だ。


「対話したらどうだ? なあ? 考え直せ」


 嫌だ。

 なぜ自分だけがこんなにも苦しまなければならない?

 なぜ神は子どもの命を奪った?

 許さない。

 全てをだ。

 この世を焼き尽くしてやる。


「本当にそれで良いのか? 奴らの背後には中国も控えている。ここで折れたら次は中国が我々に牙を剥くだろう。それに真実を隠したのはこの国だ。もうどうにもできん」


 もっともらしいことを言ってはいるが、本心では中国なんてどうでもいい。

 いやアメリカなんてどうでもいい。

 自分は全てに復讐するのだ。


「クソッ! 俺たちの代でハルマゲドンを起こしちまうなんて」


 電子キーと日替わりの暗証番号を端末に打ち込んでいく。

 全ての核兵器が目標を設定した。

 男はつぶやいた。


「ごめん……パパは何もできなかった……」


 男は涙を流した。

 これが回避された未来。



「どうやら最初のバッドエンドは回避したようだな……」


 男が満足そうに笑った。


「次は中国か……それとも」


 もう一人の男は何かを心配していた。


「大丈夫だ。『ドミニク』が出現した。『キャシー』も現れるだろう」


 女の声は落ち着き払っていた。


「異世界人か……本当に現れるとはな……」


「これも井上先生の功績だ」


「だったら殺すことなかったのでは?」


「余計なことをべらべらと喋られては困るのだよ。だから口封じさせて貰った」


「では次は?」


「ああ、一ヶ月後にバッドエンドへのフラグが現れる。今度の伊集院明人はどこまでクリアできるかな?」


「賭けようか?」


 女が楽しそうに言った。


「俺たちは何度もやり直しがきくのだ。つまらんよ」


 男はくだらないとばかりに斬り捨てた。

 このとき明人は彼らの手の外へ飛び立とうとしていた。

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