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二人の破壊魔

 夕方から夜へと変わる。

 薄暗い闇が当たりを包む中、ヘリからの無差別掃射によって粉塵が舞っていた。

 アパッチのチェーンガンから発射され30ミリ榴弾の殺傷能力は半径4メートル。

 これだけ隙間なく広範囲に撃てば人間など原形を留めているはずがない。

 

 コックピットにパスッという音がした。

 防弾ガラスにまた何かが突き刺さった。

 ライフル弾だ。

 パイロットは驚愕した。

 粉塵の中から狙撃されていたのだ。


 残念なことにその狙撃はあまりの戦力差の前にただの挑発にしかならなかった。

 だが、明人のその挑発は抜群の効果を出した。

 パイロットは一度ならアリに噛まれたと思っただろう。

 二度目ならアリではなく虎を相手にしているのだと察したのだ。

 ヘリが距離をとる。

 ライフルの届かない距離から対戦車ミサイル……ヘルファイアで仕留めることにしたのだ。

 そしてこの選択が致命的なミスとなった事にパイロットはまだ気づいていなかった。



 飯塚はヘリが自分たちの方へ近づいてくるのに気づいた。

 遠距離用の銃器に比べ矢の射程は短い。

 飯塚には正直言って当てる自信はなかった。

 ヘリは地上から近づいて行く飯塚たちに気づきもしない。

 空からの攻撃という安心感から慢心し、アキトに集中しすぎていたのだ。

 そのまま弓の届く範囲にまでヘリとの距離が狭まっていく。

 それはチャンスの到来だった。


 飯塚は無心になった。

 ヘリのローター音すら聞こえない極限の集中。

 結果は考えるな。

 ただ弓を放てばいい。

 そして指が弦から離された。

 弓が放たれる。


 放たれた弓は大空に向かった。

 爆薬が込められた矢が戦闘ヘリへ向かう。

 そして矢がヘリにぶつかった瞬間、爆発が起こった。

 ヘリが揺れ爆薬の煙に包まれる。

 同時に飯塚が叫んだ。


「藤巻! スピンターン」


 藤巻はその指示を聞いてニヤッと笑う。

 トップスピードを維持したバイクがその場で180度回転する。

 飯塚は遠心力で浮いたサイドカーを巧みな重心移動で地面へ押さえつける。

 二人の息がピタリと合い、転倒することなく回転し終える。

 スピードのロスを最低限に抑えたまま陸王は来た方向と逆に走り出した。


「ヘリは落ちたのか!」


「まだだ!」


 そう言って飯塚はサイドカーの操作に戻る。

 煙の中からヘリが現れた。

 ヘリは小刻みに揺れながらも飯塚たちの方を向いていた。

 藤巻は何も言わず全速力で陸王を走らせる。

 何か作戦があるに違いない。

 藤巻は飯塚を心の底から信頼していた。

 飯塚も藤巻の人格は疑っているもののそのドライビングテクニックは信頼していた。

 数日前まで話すらしたことのなかった二人は、今や信頼という絆で結ばれていた。



 方やヘリのパイロットは焦っていた。

 計器が一斉にエラー音で異常を知らせていた。

 アナログの計器以外は全てエラーにより停止していた。


(火器管制システムまでやられた!)


 ヘルメットのディスプレイにも何も映っていない。

 どうやらカメラもやられたらしい。

 赤外線も使えない。

 ヘルファイアやハイドラの照準システムもエラーコードをはいている。

 チェーンガンだけはマニュアル操作を受け付けるようだった。

 

(クソッ、なめやがって! ぶっ殺してやる!)


 パイロットの男は舌打ちし、飯塚と藤巻に狙いを定めた。

 マニュアル操作でも二人を殺してから無事に帰ることができる自信があったのだ。

 パイロットの男が怒りに身を任せてチェーンガンのトリガーを引いた。



 ヘリは攻撃を確実に当てるためか高度を落としてきていた。

 チェーンガンが二人を襲う。

 粉塵が二人に向かい突き進んでくる。

 藤巻はそれを器用にかわして行く。


「ヒャッハー!」


 サラマンダーと呼ばれた男が笑う。

 楽しそうに楽しそうに。

 すでに藤巻はゾーンに入っていた。

 その超人的な反射神経とドライビングテクニックで照準装置のないヘリの一斉掃射をかわし、無残にもヘリに破壊される赤坂のビルの谷間を駆け抜けていた。


「藤巻! 次撃ってきたら避けながらもう一度スピンターン! 僕が仕留める!」


「おう!」


 うまく市街地に誘い込むことができた。

 ここまでは思い通りに行った。

 問題はここからだ。


 ヘリがチェーンガンを撃つ。

 照準装置の動作しないヘリからの攻撃が周辺のビルに当たり、衝撃で割れた窓ガラスが降り注ぐ。

 それと同時に藤巻は、極限まで集中し時がゆっくりと流れる世界で、チェーンガンをかいくぐる。

 藤巻がバイクを振り回す。

 飯塚の巧みなサイドカーオペレーションによってスムーズな重心移動が行われ、バイクが回転する。

 180度転回。

 チェーンガンとガラスの雨の中をヘリに突っ込んでいく。

 

 飯塚は弓を構えた。

 外したら終わりだ。

 だから極限まで近づいて撃つ。

 飯塚はぎりぎりまで引きつけ矢を放つ。

 矢がヘリに真っ直ぐ向かい爆発した。

 

 カメラを失ったヘリの視界が爆発の煙によって塞がれる。

 視界が塞がれる前にバイクが器用にUターンしたのはなんとか見えた。


「この虫けらどもがあああああッ!」


 頭に血が上ったパイロットが飯塚たちを追うために方向転換しようとした。


 ガツッ!


 振動がコックピットに伝わった。

 まずい!

 そう思ったときは遅かった。

 ビルに機体をぶつけたのだ。

 カメラが無事ならあり得ないミスだった。

 同時にパアーンッという何かが破裂するような音が聞こえた。

 そして赤坂が闇に覆われる。

 ビルにぶつかり跳ね返された衝撃で電線に機体を引っかけ、電線を引きちぎったのだ。

 高度計などの残ったあらゆる計器が危険を知らせる。

 無理矢理高度を上げようとするが、またもやどこかに機体を引っかけた。

 ガリガリという音がした。

 停電が作り出した闇のせいで目視では何が起こったかわからない。

 赤外線カメラも最初の爆発で全てがダメになっていた。

 もはやパイロットの男は自分がどこを飛んでいるかもわからない有様だった。

 突如ローターの回転が落ちた。

 機体はもうすでに制御不能だった。

 機体が回転し、落下していく。

 もうこうなってしまってはどうにもならない。

 逃げねば!

 パイロットがそう思った瞬間、ふわっとした無重力を感じ、そのまま衝撃を感じた。



 アメリカ大使館。

 赤坂での異変が埼玉県警と警視庁経由で伝えられ、避難が行われていた。

 そこに突然の停電。

 何事かと騒然とする現場。

 次の瞬間、空からヘリが飛ぶ音が聞こえた。

 空を見ると飛んでくるのは戦闘ヘリ。

 パニックが起こった。

 その場にいたものが一斉に逃げ出す。

 そこは阿鼻叫喚の地獄だった。

 コントロールを失ったヘリが回転しながら無人の大使館に突っ込んだ。

 機体がバラバラになる。

 ローターが外れ大使館に突き刺さる。

 次の瞬間、炎が上がり大使館全体を飲み込む。

 燃料に火がついたのだ。

 そして爆発。

 粉塵、砕ける壁、砕け溶け落ちるガラス。

 大使館が真っ赤に染まる。

 停電の闇の中、大使館が燃える明かりだけが強く輝いていた。

 そして炎の中でミサイルに火がついた。

 少し遅れミサイルが爆発した。

 ビルが粉々に砕け落ちる。

 ロケット花火のようにでたらめに飛んだミサイルが周りのビルまでも破壊していく。

 ビルが倒壊し、破片をばらまいていく。

 それは正に地獄。

 地獄の炎はどこまでも大きくなっていった。



 二人の目に闇の中で地獄の炎が燃えさかるのが見えた。


「あっれー?」


 飯塚がつぶやいた。


「あー……燃えてるな……あれなんの施設だ?」


 藤巻が頭をポリポリとかいた。


「あ、アメリカ大使館……」


 飯塚がぼそりとつぶやいた。

 次の瞬間、二人は無言になる。

 気まずい時間が流れ、まるで藤巻が誤魔化すように口を開いた。

 

「い、行くぞ!」


「う、うん!」


 二人は冷や汗をかきながら赤坂プレスセンターに向かった。

 決して逃げたのではない。

 そう思い込みながらも二人の膝は震えていた。

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