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破壊 × 破壊

 明人は悩んでいた。

 さいたまタワーに向かうか、赤坂プレスセンターに向かうか?

 それが重要だった。

 明人はもう一度作戦の目的を考えた。

 エージェント明人としての任務はジェーンを赤坂プレスセンターまで送ることだ。

 だが、転生者である伊集院明人として考えた場合は違う。

 予言……いやシナリオの破壊だ。


 ジェーンは死ぬ運命にはないと言い切れる保証はない。

 そう明人は懸念していた。

 このとき明人は知らなかった。

 明人が助けた人間はその後いきなり理不尽に死ぬということがないということを。

 逆に言えば菊池たちが失敗した原因は救出しても対象が理不尽な死を迎えることにあるのだ。


 追い詰められた明人は最後の手段に出ることにした。

 明人はスマートホンの電話帳を出す。

 そしてそこからある名前を呼び出した。

 そこにある文字は『後藤』。

 明人は意を決して電話をかけた。

 数回のコールのあと、あの男が電話に出た。



「おう。ようやく電話する気になったか」


 病室に男の声が響いた。

 声の主はベッドにベルトで固定された男。

 連続少女拉致事件の主犯、後藤である。

 未だ首から下は動かせないでいる後藤は介護用端末で明人と通話をしていた。

 重要事件の容疑者である後藤への端末支給は酒井の独断によるものだ。


「同時に二カ所でトラブルが起きた。もちろんシナリオではこんなイベントはないはずだ。お前の仲間か?」


 明人は直球を放った。

 無駄話はしない。

 後藤のペースに巻き込まれるからだ。

 その態度から余裕のなさを読み取ったのか後藤は上機嫌で笑い出した。

 そして心の底から楽しそうに返した。


「ぎゃはははは! そうか。あいつらが何か仕掛けてきたか! いいねえー。正義の悪役とこの世を破壊しようとするテロリストとの戦いか! いやもう最高ッ!」


 他人事のように言う後藤にいらついた明人は冷たく言い放つ。


「お前に聞いた俺が間違いだった」


 明人はそう言うと無慈悲に電話を切ろうとした。

 その途端に電話から聞こえるのは後藤の怒鳴り声。


「おいおいおいおいおいいぃッ! おい待てよ!」


 どうやら後藤は話を続ける意思があるようだった。

 仕方なく明人はこの不愉快な会話を続けた。


「……誰が黒幕だ?」


「わからん。って待て切るな! 本当にわからんのだ! 俺はシナリオライターには嫌われてるんだ。なんせ仕事に誘ったのは俺だ。恨まれてるのさ」


 後藤はそう断言したが、それは間違いである。

 実際は後藤はこの世界へ来る発端を作ったため嫌われている訳ではない。

 早々に脱出をあきらめ快楽を貪ることを選んだから切られたのだ。

 だがそのことを知らない後藤は自分の分析に満足しているようだった。

 そして突然、声のトーンが変った。


「だからアドバイスはしてやる。あいつらは俺の味方ではないからな。聞いたぞ。まだ花梨ちゃんは死んでないらしいな。どうやら、お前だけが運命をねじ曲げられるようだ。つまりだ……お前にしかできない選択肢を選べ。それが正解だ。わかるな?」


「ああわかった」


「終わったら結末を聞かせろ。そうしたら次も手伝ってやる。まあお前に折られた首から下は動かないけどな! ぎゃはははは!」


 明人は何も言わず今度こそ電話を切った。


「……なるほど」


 優先度を決めろと言うことか。

 明人は納得した。

 後藤にしては良いことを言う。

 今、明人が優先するのはジェーンと山田の命だ。

 そのためには戦力を分散するのは得策ではない。

 そこまで考えた明人の耳に携帯の呼び出し音が聞こえた。

 発信者は飯塚。

 すぐさま電話に出た。


「明人くん。今、学校の前についたんだけど……ライアン先生とドリキャ○仮面様がサポートにつけって……」


 飯塚の声が聞こえた。

 そして間髪入れずに少女の声がした。


「ちょっと伊集院! なんで装甲車が学校をふさいでますの!?」


 援軍の到着だった。



 列を成す装甲車の群れ。

 その真ん中にぽつんと一つだけVIP専用車が見えた。

 車内には明人とジェーン、それに山田。そして田中。


「あのさ明人。んでさ。さいたまタワーはどうするの?」


 ジェーンの至極まともな質問に明人は冷や汗を流す。


「世界最強の人が行ってるから大丈夫……な、はず」


 田中だけがうんうんと頷く。

 高齢でありながら携帯型情報通信機器、いわゆるスマートホンを華麗に操るドリキャス仮面には通信不能という死角は存在しない。

 メッセンジャーで語りかければすぐに答えが返ってくる。

 なぜかネットスラング満載の日本語で。

 何度かのイラッとするメッセージのやりとりの後、さいたまタワーには○リキャス仮面が行くことになったのだ。


「大丈夫なの明人? たしか明人の師匠の師匠って超エライ人でしょ?」


「世界最大の理不尽だ。気にしたら負けだと思う」


「なにそれ?」


「俺やライアン先生はエシュロンに『大統領でもぶん殴ってやらあ』として登録されてるが、大先生は『塾長』だ。これは生身で大気圏突入を……」


 与太話にしか聞こえない明人の説明が続く。

 ジェーンは新たなる変態の出現に深く深くため息をついた。



 藤巻と飯塚が陸王に乗り後を追う。

 藤巻は博物館クラスの一品を運転できたことに大喜びし、だらしなく顔を崩している。

 周りにいる警官たちはそれを見て免許の存在に関して忘れようと努力していた。


 大名行列は赤坂に向かい突き進んでいく。

 あまりにも規模が大きいため取材のヘリまで飛んできていた。


 そして赤坂プレスセンターの近くまで来たとき、それは起こった。

 最初に轟音。

 そして次に起こったのは最前列の装甲車の爆発。

 炎、粉塵、何者かの攻撃がコンクリートの建造物に穴を空けていく。

 吹き飛ぶ装甲車。

 吹き飛ばされた装甲車の先に轟音を放つ物体が飛んでいた。

 それはヘリ。

 赤坂プレスセンターから菊池たちが奪ったものそれは戦闘ヘリ。

 いわゆるアパッチである。


 地上からの攻撃が届かない場所からアパッチはチェーンガンを乱射する。

 装甲車やパトカーをなぎ倒され、警官たちが逃げ惑う。

 そこには映画のように拳銃で反撃を試みるものなどいなかった。


 慌てて後方の部隊が退却をはじめるが大空を自由に翔るヘリの速度にかなうはずがない。

 警察のヘリもなんとかしようと接近するが攻撃ヘリを撃墜するような武器など搭載していなかった。

 むなしく銃声が響くのみだった。

 アパッチが光りミサイルが発射された。

 ミサイルは小型のものだった。

 だが警察のヘリを打ち落とすには充分な威力だった。

 墜落する味方のヘリを見て警官達は絶望した。


 その時だった。

 警官達の悲鳴の中にバイクの音が混じった。

 その男は楽しげな笑みを浮かべた。

 炎の精霊、サラマンダーと呼ばれた男。

 藤巻隆二だった。


「がはははは! 飯塚ぁッ! 覚悟はいいな!」


「え? ちょっと待って! 藤巻さん何言ってるの?!」


「男なら戦うべきがある。それが今だ」


「武器! 武器! アパッチ落とせる武器!」


「細けーことなんていいんだよ! 気合いでカバーだ!」


「ふっざけんな! このロリコオオオオオォンッ!」


 生まれて初めて飯塚がキレた。

 だがそんな飯塚の意思など無視してバイクは突き進む。

 飯塚を乗せた陸王が暴走し、飯塚の叫び声と藤巻の笑い声が響いた。

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