男だけで調査 1
久しぶりに男だけで集まる。
明人はアジトの入り口で待っていた。
藤巻と飯塚なので気を使わなくていい。
男だけは楽なのだ……。
二人が来るのが見えた。
そしてその後ろにはパーカーを着た少年。
少女と見間違うばかりの線の細い儚げな美少年。
長いまつげに細い髪、シミ一つない肌。少女漫画であっても少女役になる、どう見ても美少女。だが男。
そのこめかみに血管を浮かび上がっている。今にも爆発しそうなほど怒っていたのだ。
「あッ!?」
明人が声を上げた。
忘れてた。完全に忘れていた。もう一人男がいた。
気づいたときには遅かった。
「伊集院! お前もか! お前までも俺を忘れてたなッ!」
美少年は加納である。
「いやだっていつも女装してるから!」
いつも上野の着せ替え人形状態でメイド服だのゴスだの浴衣だのと女性の格好をしていたので忘れていた。
明人だけじゃない。藤巻も飯塚も完全に忘れていた。
自然と女性グループと認識していたのだ。
「してるんじゃなくて、させられてるんだっての! わかれよ! 苦しいの理解してくれよ!」
「だって声だって高いし、すね毛だって生えてないじゃん!」
加納だって中学生なのだ。多少は生えている……はずだ。
「あーッ! 飯塚! お前までそう言うのか! つるつるで悪かったな!」
「え……剃ってんじゃないの?」
「藤巻ぃーッ! お前までそういうこといいやがるか!」
とここまでは茶番。
四人は空き家に向かう。
普通に電車に乗り込み西ロサンゼルス駅(西川口駅)に到着。(普通に運転しているので忘れがちだが明人は免許を持っていない。)
「西川口か。降りたことねえな」
加納に飯塚も同意する。
「そういや降りたことないね」
ロサンゼルス市の学生が西ロサンゼルス駅周辺に行くことは珍しい。
駅から10分ほど先の総合病院に行くときくらいだろう。
なぜなら西ロサンゼルス駅はもともと風俗街が広がっていて、今でもあまり上品とは言えない。
さらに元の世界とは違い暴力団や外国人マフィアの巣窟にもなっているため、学生なら近づかないように言われている。
なお藤巻はヤンキーとして入り浸っていたので黙っている。
明人もここの違法組織の一つを壊滅させたので黙っていた。
二人の目が合う。
「へへッ」
昭和の漫画のように生ぬるく鬱陶しい友情がかわされた瞬間である。
駅前から少し歩くと住宅街が広がっている。
ただ建物は古く、改修されないまま放置されていた。
今では珍しい昭和建築様式の風呂なしアパートメントまでもが丸ごと空き家として放置されていた。
「再開発計画から外れたエリアだってさ」
飯塚がプリントされた資料を読みながら説明した。
「へえ、便利な場所なのに不思議だな」
藤巻が不思議そうな顔をした。
明人もそこは気になった。
「大昔に区画整理事業への反対運動が起きてめんどうくさい土地だって誰も触らなくなったみたい。そこにマフィアがやって来て治安悪化。そのまま役所から忘れ去られて今に至る……と」
「それで駅が近いのに空き家があるのか」
「一時期は外国から来た出稼ぎの人が入ってたんだけど、もっといい物件に逃げ出したみたいだね」
「犯罪組織が勝手に住んだりとかは?」
外国では放棄されたビルに犯罪者が住み着くことがある。
「ネットの固定回線が使えないし、周りが高い建物だらけでスマホの電波も入りにくいから犯罪者も住まないって」
「犯罪者すらも住めない場所か……地獄ってやつか? ほら、地獄が見えてきたぞ」
話していると目的の物件が見えてくる。
半分潰れた家が見える。
「ほら腕章つけて」
飯塚が【ロサンゼルス市都市計画部住宅政策課】と書いてあるビニール製の腕章を三人に渡す。
「市役所のインターンで空き家調査やってるってことになってるから。近所の人に聞かれたらちゃんと答えてね」
「へーい」
三人とも腕章をつけて建築用のマスクをつけると、市役所から借りた合い鍵で玄関を開け中に入る。
「前に赤羽で建物に入ったな」
明人がつぶやく。すると飯塚が不思議そうな顔をした。
「そういやここを知らせるメールも前の事件と同じだったんだっけ?」
「ああ、こちらの方が高度だが同じような手段だった」
偽装ファイルを仕込む手口は同じだ。
「そっか……じゃあ、今度も別の事件を模倣して……」
「やめて!」
過去の事件などどれもシャレにならない!
笑いごとではすまないものが多々あるのだ。
明人の口から乾いた笑いが漏れた。
中はとてつもなく古くさい。
床はめくれ、LEDではない古い電球にはホコリが積もり、玄関にはネズミに噛まれてボロボロの日本人形が佇んでいた。
バリアフリーもバの字もない高さのある玄関を土足のまま上がる。
「お邪魔します」
と思わず明人の口から漏れる。
玄関横の部屋を見ると変な髪型をした女性歌手のポスターが変色していた。
畳には雨漏りのあとがあった。
そのままリビングに入る。
そこはおかしな部屋だった。
部屋に中央部に柱時計が鎮座している。
その横にはゴミ袋が乱雑に置かれていた。
「なんだこれ?」
加納が触ろうとする手を明人はつかんだ。
「なんだよ伊集院」
「待て。なんか嫌な予感がする」
加納の手をつかんだその腕には鳥肌が立っていた。
ゾクゾクと悪寒がする。
明人は手袋をつけて身長に外装を調べる。
ゴミ袋の一つに大きな金属の球体が入っているのが見えた。
「爆弾……かも」
「あ?」
加納が間抜けな声を出した。
「みんな、外に出てジェーンに知らせてくれ……」
「伊集院は?」
「解体する……」
「いやジェーンが来てからだって遅くは」
「ははは……時計盤を見てくれ。時間が違ってるだろ」
確かに今の時間とは違う。
「いやそうじゃない!」
加納は気づいた。
何年も放置されてる屋敷の中で動く時計があるのはおかしい。
「それとコードを見てくれ」
「ああん? コード? こいつはどう見ても機械式……」
よく見ると時計からコードが出ている。
それはゴミ袋の一つに伸びている。
「爆弾だな……どうやら過去の事件の模倣らしい」
それを聞いて藤巻と飯塚は青ざめた。
加納だけは事態の深刻さをわかっていない。
「へえ、どんな事件よ」
「核爆弾の解体失敗でタワー消滅」
「……嘘だろ」
いきなりの危機に加納の顔まで青ざめた。
現在半端なく腹を壊してるので続きはでき次第……げふ!




