基地
極地という地獄をさんざん堪能すると明人たちは基地に着いた。
電子錠があったが、こんなものはジェーンの前では紙に等しい。
なにごともなく解錠される。
中に人はいない。
山田はまだブンむくれていた。
進藤や部下もいない。
だが暖房は動いている。
「物体Xもいないし。こんなクソ寒いところで、なにがしたいんだあのバカどもは」
ジェーンはその辺にあった木箱を蹴った。
かこんと音がしたので蓋を取るが、中は缶詰が入っているだけだった。
「とりあえずパソコンを見てくれ」
明人に言われてジェーンは端末をいじりだした。
「うーん……環境の調査をしていたみたい。オゾン層とか二酸化炭素とか。それと隕石」
「隕石が物体Xなのか? 宇宙人とか」
「まさかぁ! どこのサーバーにもそんな報告が上がってなかったよ。もしそんなものがあったら、パパも私も面白半分に脚色してネットに流すし」
ジェーンはわざとらしく自分の真横に手を開いた。
「それにエリア51の件はちょっとヤバい細菌が……」
「やめんか!」
聞いたら不幸になりそうなネタだらけである。
「ホントお前ら親子はタチが悪いな。じゃあ、なぜこの施設に人がいない?」
「いるはずなんだよねえ。記録的には。面倒だけど防犯カメラの録画映像を見てみる」
ジェーンはそのまま画像を確認した。
三日前の録画映像を見ると職員たちが列を作り、一つの区画に移動する姿が映っていた。
ふらふらと、妙な足取りで。まるで安っぽいゾンビ映画のように。
「……見なきゃよかった」
ジェーンは下を向き、山田は涙目で明人のすそをつかんだ。
「山田。ホラー、嫌いなのか」
「人間だったら斬ればいいけど、お化けは斬れない気がするの!」
微妙にポイントがずれた発言である。
「明人、とにかく行ってみようぜ、それしかヒントはない」
明人たちは、職員たちの向かった先に行くことにした。
廊下を通り、水耕栽培実験室に横を通る。
「ホラーゲームだったら、赤ん坊が歩いてきて、職員が抱きしめた瞬間にバンッ!」
「ジェーン、やめてよ!」
山田が耳を塞ぐ。
ジェーンは完全に山田で遊んでいる。
「冗談冗談。ここはアクアポニクスの施設みたいね」
「アクアポニクス? なにそれ?」
山田が聞くとジェーンが偉そうに胸を張った。
「水槽部分で魚を飼って、魚が出すフンや老廃物を水槽内の微生物で植物の栄養にしてから植物兼フィルターで処理する。うまく行けば魚の養殖と作物の栽培が同時にできるっていう夢の循環システム。なんだかんだで手がかかるし、電気代がかかるから、これがメインになるのはずっと先かなあ。上野ちゃんのいた世界では大規模な施設があったみたいだけど」
「私の世界でも必要に迫られただけですよ。でも……これは滅びに備えていると考えてもよろしいので? ゾンビによって文明が崩壊した未来、アクアポニクス職人がチートで無双する」
「だから怖いからやめてー!」
二人は山田をからかいながら廊下を進む。
おかしな施設は存在しない。
LEDの明りが廊下を照らしていた。
廊下の奥に件の部屋は存在した。
ジェーンは電子錠を解錠。
明人たちが中に入るが、そこも無人だった。
だがその部屋は少し他の部屋と異なっていた。
地下へと続く階段が存在したのだ。
階段を降りると、鉄筋で覆われた工場のような場所へ出る。
「あん? ちょっと待ってよ。こんなの聞いてないよ!」
ジェーンは怒鳴ると、端末で写真を撮影する。
「なんで地下を掘っているんだ?」
明人も声を出した。
階段のすぐ近くに、オペレーション用の端末や工事用のライトが置いてある。
ジェーンは端末を起動する。
ログを探ると、重機などの納入された日付や種類の情報、それに作戦の詳細が記されていた。
「うーん、シールドマシン? 2000年代に納入。どうやって運んできたんだろう。いやそれより【どこに】、【なんのため】に使うつもりなんだろう? あん? 発掘作業、なにこれ」
さらにログを探ると写真が出てくる。
どことなく気持ちの悪いデザイン。
SF映画に出てくるような、カプセルが映っている。
ジェーンはパクパクと口を動かしながら指をさす。
本当にエイリアン関連かもしれない
「ちょっと、マジで宇宙人! 宇宙人なの! やっべー、SNSのUFOコミュニティにあることないこと投稿しなきゃ!」
「落ち着け! ジェーン、お前疲れているのよ!」
山田がジェーンを羽交い締めにする。
「ぐぬぬぬぬ。うおおおおッ! 離せ!」
「ホント、おバカですね……」
ジェーンに代わって上野が端末を操作する。
「あら、ロシア語。レイラさん読んでください」
「ああ、任せろ。【時が壊れた。その証拠がここに】だ、そうだ」
明人も藤巻も意味がわからない。
そのときだった。
いきなり全ての照明が点灯した。
広大な空間の奥に作業用のエレベーターが見える。
「降りろという意味だな。非戦闘員はここにいろ。レイラと上野は護衛を頼む。飯塚と山田は俺と一緒に行くぞ」
「明人、俺は?」
藤巻は機嫌が悪かった。
「藤巻さんがいなかったら俺たちは帰れなくなる。頼むから怪我しないでくれ」
そう言うと明人はエレベータに乗る。
エレベーターは音を立てながら最地下に到達する。
廊下が続く。
そしてその先には、進藤が立っていた。
「これで決着か?」
明人は構えもせずに近づいていく。
飯塚は弓を構えていつでも援護射撃ができるようにしていた。
「そうだな。時間稼ぎにはなった。さて、話をしよう。お前は友人を疑ったことはないか? 例えば、そこの女。山田浅右衛門は本当に、原作の登場人物か?」
「なんの話だ」
「登場した人物の性格は、大きく変わってはいないはずだ。でも設定から覆っている人物が一人いる。それが山田浅右衛門だ。あの女はただの淫乱なメスのはずだ。だけどどうだ? 子犬のように愛想が良く、守ってやりたくなる? くくくくく、バカめが! お前は大間抜けだ!」
「原作がどうだろうがもう関係ない! 山田は……俺の大事な仲間だ!」
「あーあー、お前ならそう言うだろうな! だが三島も同じだ。お前はこれから三島を失う」
次の瞬間、明人は問答無用で進藤の顔面目がけて拳を放った。
だがその拳を進藤は片手で受け流し、明人の眉間へ肘を入れた。
明人は肘をよけなかった。
肘が顔面に突き刺さっても一歩も引かない。
「どうした? それだけか?」
明人が聞くと、ひとしずくの血があごまで落ちてくる。
進藤は明人の表情を見てスカッとした表情になった。
「ようやく胸がすっとしたぜ。ついて来い。お前らの望んだ結末を見せてやる」
進藤は明人に背を向ける。
明人は手で血を拭うと進藤についていく。
なにがあっても引かない。
明人はそれだけは自分に誓った。
二年ぶりの更新です。
更新してないのに妙なポイントが入ったりなどの怪現象があったため、一時更新停止のつもりが長くなってしまいました。
年内には完結予定です。




