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HTF

 明人の手が透けていた。

 映画で未来を変えてしまったがために存在が消えてしまうのによく似ていた。

 何があったのだろう?

 明人は疑問に思いながらも平然としていた。

 死を体験したことのある明人は死への恐怖が限りなく薄かった。

 目的の邪魔にさえならなければ正直言ってどうでもよかった。

 だから明人は自虐的にニヤリと笑った。

 ああ、運命さんよ。

 かかって来いよ。

 俺はどんな壁でも越えてみせる。

 運命をねじ伏せてみせる。

 やるならやってみろよと。

 だが仲間たちは違った。


「アキト……大丈夫なの?」


 ジェーンは心底心配そうな声だった。

 よく見ると山田は今にも泣き出しそうな声だった。

 まずった。

 明人は思った。

 そんな明人の頭を藤巻と飯塚が交互に小突いた。

 もちろん最大限手加減したものだ。


「女が泣いてるぞ。なんか言ってやれ」


「明人君。あんまり朴念仁なのも考えものだよ!」


 二人の言うことはもっともだ。

 自分よりも仲間たちは自分を大切に扱ってくれる。

 それは他人に認められることがなかった前世では有り得なかった。

 二人は本当に友人だと思っている。

 明人はそれを少し嬉しく思いながら透けている方の手で頭をポリポリとかいた。

 素直になろう。


「すまん。今のところは痛くも苦しくもない」


 明人は少し照れていた。

 どうにも弱みというものを見せるのが恥ずかしかったのだ。

 これは明人が前世で大人という時代を体験してしまったからだろう。

 子供と違って大人はどうしても社会にすり減らされてしまって素直になれない。

 同じようにジェーンも山田も子ども時代がない生活をしてきたが、今は明人たちのおかげで子供っぽく振舞うことが許された。

 そういう意味では明人はずるかった。

 一人だけ素の姿を見せていなかったのだ。

 そしてそれこそが明人の弱点だった。


「怖くないの?」


 ジェーンが明人の袖をきゅっとつかんだ。


「怖くはないよ。原因がわからないから。情報の海で溺れたときの方が怖かった」


 明人は今度は優しく笑った。

 ところが山田はむくれていた。

 正直、明人はここまでは合格点だと思っていた。

 思っていたのだ。

 だが甘かった。


「あのね伊集院! どうして平然としてるの! このバカ! バカ!」


 山田はその辺に落ちていた雪を拾うと明人に投げつけた。

 雪と表現しているがほとんど氷である。

 結構痛い。

 山田は完全にかんしゃくを爆発させていた。

 激怒してたのである。


「ばかー!!!」


「ちょっ、悪かった! 山田! やめて!」


 明人は逃げ回る。


「うるさい! このバカ!」


 山田は氷を明人にぶつける。

 逃げ回っているとだんだんと透けていた手が戻った。

 とてつもなく重要な情報の気がするが、明人はそれを考える余裕を与えられない。


「あ! 治った! 治ったから!」


「伊集院のばかー!!!」


 かっこーんと明人の頭に氷が当った。

 努力はしているが女性にだけは弱い。

 それが明人だった。


「もうホントバカばっかり。ド金髪、女の子には普段は優しくして、要所要所でちゃんと弱みを見せてやるものですよ」


 上野は呆れたといったジェスチャーをした。

 だが楽しそうなのは明らかだった。

 男性陣は「なにその無理ゲー」と思った。


「伊集院。いつまでもフラグを折らせてくれるとは思わないことだな」


 レイラは厳しく言った。

 それは藤巻に向けての発言なのは明白だった

 藤巻は鈍感ではない。

 なので絞り出すように言った。


「明人……このように女子は怖い」


 藤巻の発言に飯塚はうんうんと頷いた。


「明人君。女の子はいきなり牙を剥くから気をつけなよ」


 男性陣は人ごとではない。

 本当にシャレにならなかった。


 ちなみに上野はしばらくはフラグを立てたり立てなかったりしながら加納で遊ぶつもりだ。

 上野はジェーンよりもまだ生物的に自身がまだ成熟してないことを知っている。

 どうにも性的魅力というものに乏しい。

 スペック上は成熟してもおかしくない年齢なのだが、生物は機械のように思い通りにならないということだろう。

 上野自身はそこはわきまえている。

 幸いにも加納は引きこもりクラスのとんでもないコミュ障なので取られたりしない自信がある。

 なぜなら、さんざんいじり回してようやく二人きりになっても「あうあうあう」以外の会話ができるようになったほどだ。

 進藤の言うことを聞いていたのも他に話ができる知人がいなかったのだろう。

 ジェーンも山田もまだまだ純情な女の子である。

 一番たちが悪い悪魔のような存在は上野なのである。



 一行は車で移動していた。

 未だにアメリカ軍とは連絡はつかない。

 運命なのか、それとも進藤なのか、何者かに邪魔されていた。


「ジェーンなにやってるんだ?」


 明人が聞いた。

 ジェーンはサウスパークのケニーのようにフードを目深に被ってモゾモゾと言った。


「ふーむむふ。ふーむむふ。ふむふーむむむ」


 完全にケニーである。


「おいおいジェーン。そんな下品なことを言うなよー!」


 上野はわざとらしくジェーンにつきあう。


「ケニーは毎回死ぬからな。頼むから死亡フラグを立てるのはやめてくれ。ジェーンに死なれたら悲しい。謝るから、な?」


 明人はツッコミを入れた。

 むしろ懇願した。

 完全に嫌がらせである。

 上野は「わかってくれたらそれでいいぜ」と態度を元に戻した。


「えっと、ジェーンは『BLのSSをモールス信号で送ったけど反応ない』って言ってます」


 実際の内容はもっと最低だった。

 最近のジェーンは工兵の研修を受けたせいかアナログにまでたちの悪さを発揮している。


「それと『クソ寒い。南極死ね!』ってずっとブツブツ言ってます」


「それも悪かった」


「『さっさと進藤ぶっ殺してHTFの浦和様が暴れる回を見たいぜ!』だそうです」


「それ上野の願望だよな?」


 ※HTFとはアメリカ製超絶グロ皆殺しアニメである。極限まで心が疲れた状態で見ると癒やされる不思議な作品である。


 完全に上野の願望である。


「と、いうのは冗談で通信衛星にアタックを仕掛けてるそうです」


 ここでジェーンはフードを取る。


「明人の手を見て思いついたんだけど、もしタイムマシンとか異世界とかの現象があるならなんか観測されてるんじゃないかと思ったんよ」


「なにかあったのか?」


「いやなんにも。電波望遠鏡までなんにもない。明人の手は透けてるのにね。しかもこちらから外に連絡はできない」


「どういうことだ?」


「科学じゃわからない現象……かな? 上野ちゃんも聞いたことないって」


「それは時間の支配に関係あるのか」


「うん。でも絶対的な支配じゃない」


 まだジェーンは表現が追いつかないようだった。

 そのとき明人は進藤が言っていた言葉を思い出した。


 好きでやっているとでも思っているのか?


 そうだ。

 進藤はなにかを企んでいる。

 しかしそれは蔡たちとは関係がない。

 関係があるなら蔡を捨て駒にしたりしない。

 蔡に知られたくなかったのだ。

 蔡は旧制作者だ。

 進藤も同じく旧制作者だ。

 加納も同じ立場だがなにも知らなかった。

 そもそも明人自身はは何を知っている?

 いや何も知らないのと同じだ。

 一体なにが待ち受けているのだ?



 三島がいた。

 いや別の世界の三島と言おう。

 三島は進藤の横に座っていた。


「もう終わりだよ。あとは伊集院明人が来るのを待つだけだ」


 進藤は優しい声で言った。

 いつもの邪悪な姿ではない。

 それは恋人を思いやる男の姿だった。


「後悔しない?」


「しないよ。君のためだ」


「未来はどうなるのかな?」


 三島は言った。


「さあ? 僕らの世界は破滅に繋がっていた。でもこの世界はもう大丈夫だ。複数の異世界人、不確定要素の流入で未来は予測が不可能になった」


 三島が進藤の肩に頭を置いた。

 進藤は三島の頭を撫でた。


「ジェーンはこれが終わるまで表現ができないはずだ。ヤツらが禁じているからな」


「もう一人の私も介入しないはず」


 進藤はため息をつくと目を見開いた。


「さあ、勘違いした神どもを出し抜くぞ」


「ええ。こちらには『あの娘』がいるしね」


 進藤は名残惜しそうな顔をしながら腕時計を見た。


「ああ、もうこんな時間だ。もう予定の時間が来てしまった」


 二人は立ち上がった。

ちょっと多忙につき次回も遅れるかもしれません。

申し訳ありません。

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