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教頭 解決編

 三島花梨は見知らぬ部屋で目を覚ました。

 蛍光灯の明かりが照らしている。

 周りを見回しても、窓すらなかった。

 花梨の横には女の子たちが倒れていた。

 生徒会長の田中に須藤杏子。

 それと知らない子が二人。

 顔を知らない女の子。

 一年だろうか。

 それとなぜか小学生までいる。


 少し頭のもやが晴れ正常な思考が戻ってきた。

 花梨はハッとすると自分の体を凝視した。

 衣服に乱れはない。

 ひどいことをされた形跡もない。

 縛られてすらいなかった。

 花梨はほっとした。

 部屋に出口は見当たらない。

 花梨は他人事のようにホラー映画でそういうのがあったなあと思った。

 すると少し怖くなった。


 するとなぜか明人の顔が頭に浮かんだ。

 顔が真っ赤になるのが自分でもわかった。

 会いたい。

 昼間は急に悲しくなって逃げてしまったが、こんなことならちゃんと話を聞いてあげればよかった。

 花梨は少しだけ悲しくなり、体育座りしながら膝に顔を埋めた。

 どん、どん、どんっと壁を叩く音がした。

 花梨は一瞬ビクッとすると勇気を振り絞って音の方に近づいた。


「三島! 無事か!」


「あー! 焦るな! 叩くな! 今開けるっての!」


 明人だった。

 それと昼間の女の子。

 少しだけ悲しくなった。

 電子音が響き壁が横にスライドした。

 飛び込んできた明人。

 その顔は真っ青になっていた。


「よかった!」


 がばっと抱きしめられる。

 恥ずかしい。


「し、し、し、心配なんていらない! ひ、ひ、ひ、一人でも大丈夫だ!」


 と言いながらも安心したせいでボロボロと涙が出てくる。

 そのまま明人の胸に顔を埋めた。


「ジェーン。みんなは?」


「寝てるだけ。それにしてもどうやったんだろ?こんなに大勢……」


 ジェーンがそう言うと明人は携帯を取り出し花梨を抱いたまま、どこかに電話をかけた。

 液晶のガラスが割れているのが怖い。


「ええ……お願いします……はい。ありがとうございます」 


 明人は異常ほど酷い発音の英語で喋っていた。

 感情の一切こもらないその声が怖い。

 どこに電話をかけているのだろうと不思議に思っていると、明人が携帯電話をジェーンに差し出してきた。


「電話代わってくれって」


 電話に出ると自分とこの一番偉い人が電話に出た。


「だ、大統領!」


「ジェーン……君に国家の存亡がかかっている。というか俺の命がかかってる……エシュロンの全機能の使用許可を出すから明人をサポートしろ……いや助けてください……たーすーけーてー!!!」


 ジェーンは口をパクパクさせながら明人の顔を見る。

 爽やかな笑顔だった。

 だがそれは半年前に間違えて後ろから銃で撃ったときよりも遥かに怖い顔だった。



 無人の雑居ビルに教頭はいた。

 非常に楽しかった。

 たまにはこういうイレギュラーもありだ。

 まさか拳で腕をへし折られるとは!

 楽しい。

 楽しすぎる。

 正義の味方ごっこだろうか。

 中の人は誰だろうか?

 今回の遊びは最高に楽しい。

 今度は楽しい一年になりそうだ。

 声をあげて笑った。

 すると笑いを邪魔するように騒音が聞こえる。


 バラバラバラ……


 ヘリの音だろうか。


 バラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラッ!


 どんどん近づいてくる。

 窓から強い光が照射された。

 光の先にあるのはヘリ。

 その横からいわゆるガトリングガンをビルに向けた金髪坊主頭が見えた。

 坊主の口角が上がる。 


 マズイ。

 そう思った瞬間。

 窓が吹っ飛んだ。

 続いてテーブル、それに床が吹き飛ぶ。

 無駄とわかっていながらも拳銃を撃って威嚇しながら出口へ逃げる。

 すでにスクラップになった扉を乗り越え非常口を目指す。

 聞いていない。

 アイツは何者だ。

 ゲームの伊集院明人はあんなヤツではなかった。

 顔と金だけの男のはずだ。


 あんな攻撃力が振り切れた男ではないはずだ!


 例え中の人間が何者であろうとも伊集院明人という運命に縛られるはずだ。

 物語を変えようとあがいても無駄なはずなのだ。

 教頭も何百回も悲劇を変えようとして全てが徒労に終わったのだ。

 それがそれが……!


 後方で爆発が起こった。

 吹き飛ばされてゴロゴロと転がるとヘリの音が聞こえた。

 すでに非常口側に周って来ていたのだ。


「ちょ! ちょっと待て! 俺を殺したら情報を得られないぞ! わかってんのか!」


 相手が何を考えているかわからず混乱しながら喚く。

 さすがに殺されるのは嫌だった。

 だから情報をくれてやる。

 そう甘いことを思っていたのだ。

 ガトリングガンを向けた男の眼鏡がきらりと光ったように思えた。


「貴様は三島を泣かせた」


 感情のこもらない声が聞こえた

 ヤツは本気だ。

 そう思った瞬間、教頭は非常階段から外へ飛び出した。

 非常階段が一斉射撃でスクラップになる様を眺めながら教頭は落下して行った。



 あのバカ。

 完全に頭に血が上ってる

 しかも周りにいる連中までバカなのだ。

 拳銃を構えた黒い背広の集団。

 日本のエージェントである忍者。

 クールで優秀な日本のスパイと聞いていた。

 ところがどうだ!

 ヘリでの襲撃など明らかにムチャクチャなことをしているにも関わらず誰も止めない。

 それどころか、「ヒャッハー! お嬢さんのカタキ!」とか「明人さん。殺っちゃってくだせえ!」とかの声が聞こえる。

 だめだこいつら……とジェーンが頭を抱えていると悲鳴が聞こえた。


「ぎゃあああああああああッ!」


 ガシャーンッという音とともに道路に駐車された自動車目掛けて何かが降ってきた。

 人だ。

 忍者達が銃を取り出し、壊れた車を囲む。

 血まみれの男がむくりと起き上がり、そのままふらふらとした足取りで車を降りた。

 ヘリからロープが降り何者かがスルスルと降下してきた。

 それは伊集院明人だった。

 着地した明人は眼鏡をクイッと上げる。


「貴様には色々聞きたいことがある。だが死ね」


 教頭は震える手で拳銃を構える。

 引き金の指に力を込めた瞬間、教頭の顔に下からの凄まじい風圧が当たった。

 下を見ると打ち上げられた拳が迫ってくる。

 拳は教頭のアゴにめり込み、衝撃が頭を打ちぬいた。

 教頭は空中で回転し、そのまま頭から地面に激突した。



「で、全身の骨へし折って尋問すらできなくしたと」


「ついかっとしてやった。でも後悔してない」


「ほう……明人はかっとするとヘリを持ち出すわけね」


 ジェーンは心の底から呆れた声を出した。

 仕方ないこういうヤツなのだ。

 その証拠に反省の色は全く見られない。


「はいこれ」


 ジェーンはUSBメモリを明人へ投げた。


「倉庫にあったサーバーの通信記録やらなんやら。『シナリオライター』って単語が何度も出てるわ。明人わかる?」


「いやわからん」


 明人は嘘をついた。

 いくつか思いついた。

 シナリオライター。

 普通に考えれば犯罪者のコードネームかもしれない。

 もしかするとゲームのシナリオライターだろうか?

 らめ(略)のシナリオライターかもしれない。

 どちらにせよ後でゆっくり吐かせればいい。

 明人が平静を装いながら腹の中で黒く笑ってるとジェーンはいぶかしむような表情をしていた。


「そうやって情報を隠されるのはムカつくわ。今度はちゃんと教えてもらうわよ!」


「すまない。日を改めてちゃんと説明する」


 もうちゃんと言うべきなのかもしれない。

 明人が決心をするとジェーンはニコッと笑った。


「あ、そうそう。言うの忘れてた。私に正式な命令が出たわ。明人を篭絡しろってさ!」


 明人の背中に嫌な汗が流れた。


「ホントは今度の任務も一ヶ月限定だったんだけどね。大統領が明人手に入れるまで帰ってこなくていいって! エシュロンも使いたい放題! よろしくダーリン♪」


 サンフランシスコ生まれの陽気なメリケン娘が向日葵のように明るく笑った。

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