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偏愛霊  作者: 結城 からく


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93/93

第93話 偏愛霊

 結局、棺崎は何者だったのか。

 立場的には味方に近いが、実際は利用されていただけの気もする。

 少なくとも俺の死を悼むような奴ではなかった。


 もういいか、どうでもいい。

 考えても無駄だ。

 棺崎とは二度と会うこともないのだから。


 霊体の美夜子が歩いてくる。

 彼女は腐乱死体に重なるように座り、生前と同じ姿になった。

 美夜子は平坦な声音で俺の名前を呼ぶ。


「修二君」


「……ごめん」


 俺は美夜子を見る。

 髪に隠れて表情が分からない。

 また首を絞めてくることも覚悟していたが、何もせずじっとしている。


 俺は美夜子の霊気がどんどん弱まっていくことに気付く。

 今にも消えてしまいそうな大きさだ。

 棺崎が力を奪ったことで存在を保てなくなったのだろう。


 互いにもうすぐ死ぬ運命というわけだ。

 お揃いじゃないか。

 その事実に思わず笑ってしまう。


 俺は床に落ちていた自分の鞄を顎で指し示す。


「それ、見てみて」


 美夜子がゆっくりと動いて鞄を漁る。

 取り出されたのは画面の割れたスマホだった。


 それは美夜子のスマホだ。

 美夜子を殺した直後、自殺を示唆するメッセージを捏造し、自分の端末宛てに送っていたのである。

 どこかで捨てるはずが、なんとなく持ったままだったのだ。


「ごめん、返すよ」


 美夜子はスマホを操作し、過去の画像や動画を見ている。

 それは俺との二人の思い出だった。

 何気ない日常のワンシーンや記念撮影がスクロールされていく。

 美夜子はそれらを静かに眺めていた。


「ああ、あれだ……そこ一緒に、行ったもんな。混みすぎてて、大半が待ち時間だったけど……」


 テーマパークの写真の次に出てきたのは、公園で撮った美夜子とのツーショットだった。

 俺の目は半開きで下手くそな笑顔を作っている。


「その写真……一年前、だったっけ。髪染めてた頃じゃん……似合ってたよ」


 どんどん思い出が出てくる。

 頭がぼんやりしてきたが、美夜子との日々は憶えていた。


「付き合って初めての、デート……二人とも緊張してさ、バスとか電車とか乗り過ごして……はは、楽しかったよなぁ」


 美夜子は涙を流しながらスクロールしていた。

 何も言ってこないので、俺が一方的に喋り続ける時間が続く。

 語っているうちに俺は大量に吐血した。

 目や鼻からも液体が垂れてくる。

 もう顔がぐちゃぐちゃだ。


 随分と前から身体の感覚が無くなっている。

 思考も曖昧で上手くまとまらない。

 どうやら限界らしい。

 俺は体液で喉を詰まらせながら懸命に言葉を紡ぐ。


「ああ、えっと……ほんとうに、ごめん……ゆるして、もらえないと……おも、うけど」


 スマホを置いた美夜子が無言で抱き着いてきた。

 そしてそっと唇を合わせてくる。

 相手は腐乱死体のはずなのに温かかった。


 どこからか赤ん坊の笑い声がする。

 ……そうか、そうだよな。

 俺が来るのを待っていたのか。

 これで家族が揃ったわけだ。




 ――ああ、幸せだ。





 幸せだと、思うことにした。

本作はこれにて完結です。

最後まで読んでくださりありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 完結おめでとうございます。今作は本当に、主人公の末路がテーマでしたね。微妙なクズが迎える終わり方としては多分ピッタリなやつだと思います。
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