表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
偏愛霊  作者: 結城 からく


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

91/93

第91話 堪能

 混沌の霊気が絶え間なく崩壊と構築を繰り返す。

 それは形容し難い触手の集合体へと変貌し、枝木のように室内全域へと広がった。


(何だ、あれ)


 蠢く触手が美夜子に伸びて捕らえる。

 そのままあっという間に吊り上げてしまった。

 美夜子は甲高い悲鳴を上げて暴れ、その拍子に俺は解放される。

 尻餅をついた俺は、大きく息をして酸素を取り込む。


 美夜子は混沌の色をした触手に雁字搦めにされていた。

 何かが砕け、磨り潰され、引き裂かれる音がする。

 触手と美夜子の霊気が絡み合っているせいでどうなっているのか分からない。


「熟成された旨味だね。これは喰呪霊かな。ほろ苦くて良い」


 嬉しそうな棺崎の声がする。

 声は唐突に高くなったり低くなったり、イントネーションがおかしかった。

 まるで編集ソフトで適当に弄ったように歪んでいる。


 美夜子の悲鳴が続く。

 そのうち触手が美夜子を包み込んで搾り始めた。

 霊気が体液のようにボトボトと垂れてくる。

 それを触手が美味そうに舐め取り、さらに、美夜子を圧縮していった。

 滅茶苦茶になった棺崎の声がまた感動する。


「素晴らしい……多種多様な味と食感で飽きが来ない。さすがは禍舞明神だ」


 棺崎が何をしているのか理解し、俺は戦慄した。

 あまりの恐怖で全身の痛みも気にならない。

 それどころでははなかった。


 床を舐める触手の一本がこちらを向いた。

 そこから声がした。


「驚いているね、村木君」


「あひっ」


 俺の情けない反応に、触手はケラケラと笑う。

 悪意は感じられなかった。


「ここの信者だった頃、私は蠱毒の儀式に参加した。巫女にはならなかったが、霊能力は覚醒していたのさ」


 頭上ではまだ美夜子が暴れている。

 触手を引き剥がせないようだ。


「それ以来、私はフリーの霊能力者として活動している。自衛と金儲けを兼ねて自らの力を鍛えてきた」


 触手の隙間から美夜子の手が飛び出す。

 どうにか逃れようとするも、触手が巻き付いてそれを許さない。


「私は霊を捕食して子宮にストックできる。普段の私は常人と同じ霊力だが、その気になれば神格すらも喰い殺せるわけさ。常に腹が減るのが欠点かな」


 とうとう美夜子の声が途切れた。

 蠢く無数の触手が一斉にこちらを見る。

 すべての触手が同時に声を発した。


「——今の私は、君からはどう見えるのだろうね」


 俺は答えられずに気絶した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ