表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
偏愛霊  作者: 結城 からく


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

86/93

第86話 奈落へ

 安藤を見送った棺崎はあっさりと言う。


「危険人物だったが頼もしかったね。さあ、先へ進もうか」


 そうだ、余韻を味わう暇なんてない。

 安藤がいないのなら尚更に気を引き締めねばならなかった。


 俺達は両開きの扉を抜けて、明かりのない通路をまっすぐに進む。

 通路は十メートルくらいで終わった。

 そこに待っていたのは鋼鉄製の門だった。

 隙間を溶接されて開けられないようになっている。


「ここが儀式の間……新村美夜子さんがいる場所だ」


「でも開かないですよ」


「安藤君から貰ったプラスチック爆弾の出番だね」


「建物が丸ごと崩れません?」


「ここはかなり頑丈だから耐えるはずさ。たぶんね」


 あまりにも不安すぎる提案だ。

 しかし他に手もないので採用するしかない。

 俺は粘土状のプラスチック爆弾を門にくっ付けて、両開きの扉まで戻ってからスイッチを押した。


 凄まじい爆発音と共に粉塵が舞う。

 頑丈そうな門が派手にひしゃげて穴が開いていた。

 床に亀裂が走っているが、すぐに崩れる感じでもない。


 とりあえず成功したようだ。

 小走りで近寄った俺は室内を見て絶句する。


 扉の先には体育館くらいのスペースがあった。

 壁と天井を埋め尽くすように向日葵が咲き狂っている。


 中央には黒く腐蝕した十字架がそびえ、美夜子が磔になっている。

 頭部を大きな向日葵が覆い、臓腑のドレスで着飾った姿だ。

 美夜子に夥しい量の鎖が巻き付いて拘束している。

 淀離協会の魔術だろう。

 その待遇が不満なのか、骨の尻尾が壁を引っ掻いて絶えず不快な音を立てていた。


 十字架の根本には数十人の信者が群がっている。

 彼らは全身に向日葵を咲かせて、一心不乱に。祈りを捧げていた。

 皮と骨だけの痩せた状態になっているのは、生命力を美夜子に渡しているからなのだろう。

 信者の搾り出した霊気が美夜子へと集まっているのが見える。

 ちょうど慈眼明解の時と同じ現象だった。


 壮絶な光景を目の当たりにした俺は反射的に嘔吐する。

 後から歩いてきた棺崎が嘆く。


「何をやっているのだね」


「す、すみません……つい……」


 気色が悪い。

 だけど神々しく、禍々しい。

 精神を内側からぐちゃぐちゃにされる感覚だった。

 網膜から狂気に蝕まれている気さえする。


 安藤が途中離脱を選んだのは正解だ。

 なぜ棺崎が平気なのか本当に謎だった。

 最悪だ、クソ。

 死にたくなってくる。


 胃液を垂らす俺の横で、棺崎はクドウシバマサの指を残念そうに仕舞った。

 彼女はため息を洩らした。


「新村美夜子さんの霊気に相殺されて自殺衝動が使えない。ここからは自力でやるしかないね」


「どうするんですか」


「とりあえず邪魔者を引き剥がそうか」


 信者がこちらに気付いて一斉に立ち上がった。

 彼らは「なんたる不敬を」やら「改心せよ」と呟きながら、よろよろと接近してくる。

 弱々しい足取りだが、手にはしっかりと短剣を握っていた。


 棺崎は白衣のポケットを漁りつつ俺に言う。


「私は少し準備がある。君に任せてもいいかな」


「いや、無理なんですが……」


「情けないな。最後くらいは頑張りたまえ」


 棺崎に背中を押されて俺は室内に踏み込んだ。

 衰弱した信者がゾンビのように歩いてくる。

 彼らは俺を殺そうとしている。


(——やってやるよ)


 相手はただの人間だ。

 何も恐れることはないじゃないか。

 俺は両手に拳銃を持つと、迫る信者に向けて発砲した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ