第83話 ミヨコ達
意図せず様々な真実を知ったが、山積みになった問題が解決したわけではない。
改めて向き合う必要があった。
俺は思考を切り替えて目の前の牢屋に注目する。
「この子達、どうしますか」
「保護してもいいが、厄介な呪いを仕込まれている可能性がある」
「じゃあ野放しにはできませんね」
俺は棺崎の持つクドウシバマサの指をじっと見つめる。
意味を察した棺崎は鼻で笑うと、鉄格子に触れようとした。
その時、鋭い声が上がる。
「やめろ!」
部屋の奥で人影が動く。
両開きの扉から現れたのは、豪華なローブを着た小太りの男だった。
明らかにカツラっぽい金髪で、色鮮やかなアクセサリーを手当たり次第に身に纏っている。
なんとも小物感のある風貌だが、内包する霊気は強烈だ。
対峙しているだけで肌がひりついてくる。
まるで灼熱の太陽のようだった。
男を囲うように数人の白ローブの女が登場した。
年齢は十代から六十代くらいまで、バラバラで統一感がない。
いずれの女もぼんやりとした表情でこちらを眺めていた。
男ほどではないものの、かなりの霊気を放っている。
棺崎が中心の男を指差した。
「淀離協会の代表、慈眼明解だ。周りにいるのは歴代の巫女達だね。揃って洗脳されているよ」
説明中に棺崎がクドウシバマサをかざす。
巫女の一人が短剣で首を切り裂き、さらに腹を捌いて自殺した。
こぼれ出した臓腑が床に撒き散らされる。
その結果に棺崎は感心した。
「ほう、身代わりの呪いか。一人に全員分の自殺衝動を押し付けたね。相変わらず邪悪な術だ」
「よりによって貴様がそれを言うか――神崎御代子よ」
協会代表、慈眼は憎悪を露わに応じる。
何気なく出てきた言葉に俺は思わず声を出してしまった。
「みよこって……え?」
「なんだ小僧。共に行動しておきながら正体を知らなかったのか。ならば教えてやろう」
今度は慈眼が棺崎を指差した。
そして新たな真実を明かす。
「貴様の隣にいる女は、十八年前の蟲毒で脱走した失敗作だ」
俺は反射的に棺崎を見る。
彼女は慈眼の言葉を否定せず、いつものように微笑を湛えていた。
まさか、棺崎も蠱毒の犠牲者だったのか。
名前もミヨコだったなんて。
棺崎は偽名だったのか……まあそんな気はしていた。
新村家と交流があったのも、淀離協会での繋がりなのだろう。
慈眼は棺崎を睨んで吐き捨てるように言う。
「馬鹿な奴め。温情で見逃してやっているというのに、まさか自ら戻ってくるとはな」
「はは、よく言うよ。何度も私の暗殺に失敗しているじゃないか。温情ではなく君達が無能なだけだろう?」
棺崎が辛辣な挑発を行う。
慈眼の顔に怒りが差すも、棺崎が前に進み出ると僅かに怯んだ。
彼は悔しそうに唸るだけで何もしない。
失敗作と罵ってはいるが、油断ならない存在には違いないようだ。




