第81話 悪意の数珠繫ぎ
棺崎の先導で進むうちに、牢屋のようなスペースに辿り着いた。
御札を巻いた鉄格子の向こうには、白いワンピースを着た十数人の少女がいる。
少女達はぼんやりとした顔で正座し、真顔で虚空を見つめている。
何の音を立てず、ただそこに存在していた。
異様な光景を前に俺は立ち止まる。
「何なんだ……?」
「ミヨコだ」
棺崎の言葉に喉が詰まるような錯覚に陥る。
深呼吸の後、俺はゆっくりと尋ねた。
「今、何て言いました?」
「彼女達はミヨコ――蠱毒の生贄だ」
蠱毒という言葉は聞いたことがある。
容器の中でたくさんの虫を殺し合わせ、最後に残った一匹に呪いを宿らせる呪術だ。
棺崎は少女達を蠱毒の生贄だと言った。
つまりここでは、虫ではなく人間を使って同じ呪術を再現していたのだろう。
棺崎は鉄格子の中の少女達を一瞥して話を続ける。
「淀離協会には伝統の儀式がある。それが蠱毒による巫女の降臨だ」
「巫女……」
「殺し合いで生き延びたミヨコには巫女に成る。実に野蛮で前時代的な解釈だね」
棺崎は嫌悪感を隠さずに私見を述べる。
いつも余裕ぶった態度をする彼女達にしては珍しい反応だった。
何か思う所でもあるのだろうか。
少し気になりつつも、俺は別の質問を投げる。
「どうして全員が同じ名前なんですか?」
「淀離協会が巫女を支配するためだ」
棺崎は油性ペンで壁に「ミヨコ」と書いた。
次に「ヨ」を黒く塗り潰して消す。
すると残されたのは「ミコ」の文字だった。
(ミコ……つまり巫女か)
納得する俺の横で、棺崎は少女達を指差した。
「名の一部を奪うことで対象を支配し、さらに役割を与える。古典的な魔術の一つだ」
「ヨを奪る……なるほど、だから淀離協会なんですね」
「その通り。ミヨコとは魔術的な合理性を汲んだ名前なのだよ」
棺崎の説明で色々と分かった。
閉じ込められた少女達は蠱毒の開始を待つ巫女候補で、最後の一人になるまで殺し合う運命にあったこと。
それが俺達の介入でおそらく台無しになったこと。
組織名の由来からして、淀離協会は一連の儀式を専門としていること。
どれも非現実的な話だが、伝わってくる悪意だけは間違いなく本物だった。
そして、ここまで聞いた俺は一つの疑問を抱く。
俺が質問しようとした寸前、棺崎が心を読んだかのように補足した。
「新村美夜子さんは過去の蠱毒の生き残り……すなわち巫女だ」




