第80話 呪いの蹂躙
通路の奥から誰かが走ってくる。
白煙を突っ切って現れたのは、仮面とローブの集団だった。
協会の信者だ。
彼らは俺達を見た途端、魔法使いみたいな杖を向けてきた。
霊力が膨れ上がる気配に俺は焦る。
「やばっ!?」
慌てるが何も起こらない。
信者達も予想外なのか、杖を振って困惑していた。
棺崎はすべてを見透かしたような態度で告げる。
「落ち着きたまえ。我々に魔術は効かないよ。これを着けているからね」
彼女が胸に吊るすのは淀離協会の護符だった。
新村家の地下室から持ってきたものだ。
俺も同じ護符を着けてある。
これが信者達の攻撃を防いでくれたらしい。
護符を見た信者は杖を下ろす。
代わりに彼らは短剣を握り、じりじりと距離を詰めてきた。
先頭の一人が悪意に満ちた声で言う。
「ならば直接手を下すまでだ」
対峙する棺崎は不敵な笑みを崩さない。
彼女は棒立ちで信者達を待ち構えていた。
俺は白衣を引っ張ってその場から離れようとする。
「ちょっ、棺崎さん!? 逃げましょうっ!」
「何を恐れる必要がある。勝負は既に決しているというのに」
棺崎の手にはクドウシバマサの指があった。
そこからぞっとするような冷たい霊気が放射され、付近一帯へと浸透する。
霊気を浴びた信者達は硬直し、次の瞬間には仲間同士で短剣を刺し合い始めた。
信者達はあっという間に全滅して俺達だけが残された。
棺崎はウインクをして移動を再開する。
「ほら、簡単だね。先へ進もう」
それから何度か信者と遭遇するが、いずれもクドウシバマサの力で一掃された。
俺は何もしていない。
ただ彼らが殺し合って自滅する様を見物するだけだった。
飛んでくる魔術も護符で無効化されるため、防御面も完璧である。
道中、俺はクドウシバマサの指を見て苦笑する。
「それ強すぎません? なんで信者達は防げないんですか」
「亜門君が改造した特注品だからね。あとは能力的な相性かな。クドウシバマサは魔術を食い破るのが得意らしい」
生きている頃のクドウシバマサは美夜子に瞬殺された。
あの時は期待外れだと思ったがとんでもない。
美夜子を相手にポテンシャルを発揮できなかっただけで、実際は凄まじい能力を有していたわけだ。
或いは死後に道具となったことで真の実力を手に入れたのかもしれない。
何にしても今は感謝せずにはいられなかった。




