第67話 打ち明ける真実
扉が開いた瞬間に美夜子が飛び出してくる光景をイメージしたが、実際は何も起こらなかった。
俺は恐る恐る目を開ける。
そこには荒れ果てた美夜子の部屋があった。
机やベッドがひっくり返されて本棚が入口を塞いでいる。
俺達は本棚を跨ぐようにして部屋に入る。
室内を見渡した俺はすぐに違和感を覚えた。
何か不自然にすっきりとしている……たぶん物が少ないのだ。
そう考えて観察すると、物がごっそり無くなっているのが分かる。
俺は首を傾げて推理する。
(泥棒の目当ては美夜子の私物だった……?)
それは家にいた人間を殺し、金を差し置いて盗むような物なのか。
泥棒の狙いがまったく読めない。
目的を果たして既に立ち去っているようだが、理解不能なその行動に薄気味悪さを感じる。
俺が立ち尽くす横で、棺崎は指を鳴らして部屋の奥へと進んでいく。
「さて、新村美夜子さんの過去を探ろうか。意外な弱点が見つかるかもしれない」
すかさず佐奈が挙手をする。
彼女もあまり恐怖を感じていない様子だった。
「先生! 弱点とは具体的にどんなものでしょうか!」
「苦手な食べ物、嫌いな場所、トラウマ……逆に好きな物で釣ったり、脅す材料にするのもいい。どんなに些細でも構わないから集めてみよう」
「了解です!」
俺達は部屋の中を手分けして漁り始めた。
大きなゴミ袋を用意して、美夜子対策になりそう物は片っ端から放り込んでいく。
棺崎と佐奈から質問を受けた際はそれに答える。
開始から十分も経たないうちに、俺の心身は限界寸前まで疲弊していた。
見覚えのある品々が出てくるたびに吐き気が込み上げてくる。
質問に答えるのも億劫になっていた。
今の俺にとって、美夜子との記憶はそういう類なのだ。
(思い出したくない……)
美夜子のお気に入りだった小説を抱えながら呻く。
まるで拷問のような時間だ。
もう何も考えたくない。
叶うならすぐにでも逃げ出したいが、棺崎と佐奈がそれを許さないだろう。
退路なんてとっくに途絶えている。
それにしても美夜子の霊はどこにいるんだろう。
実家を訪れれば出現すると思ったのだが。
あまりにスムーズなので却って不気味に思えてしまう。
(ずっと襲撃を受けていない幸運に感謝しておくか)
抱いた疑問をポジティブに捉えたその時、棺崎に肩を叩かれた。
彼女は洋菓子のブリキ缶を差し出してくる。
「村木君、これは何だね」
棺崎が缶の蓋を開く。
そこに入っていたのは真新しい母子手帳だった。
表紙の氏名の欄には「新村美夜子」と書かれている。
少し丸い筆跡は、紛れもなく美夜子のものだった。
棺崎がじっと俺の顔を覗き込む。
「言い逃れはできないよ」
「……はい」
頷いた俺は深呼吸をする。
いよいよだ、さすがに誤魔化し切れない。
俺は意を決して白状した。
「美夜子は、妊娠していました。そして出産する前に死にました」




