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偏愛霊  作者: 結城 からく


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第48話 刑事の意志

 ここまでの話から、俺はあることに気付く。


「ひょっとして治療費の一億円って……」


『お察しの通りさ。須王会の保有する莫大な資産を頂戴するんだ。現金だけでも数億は下らないだろうね』


 棺崎は平然と言ってのける。

 あまりにぶっ飛んだ発想だった。

 三つの心霊スポットを巡る計画は序盤に提案されたものだ。

 つまり俺の治療費など関係なく、棺崎は須王会の本拠地に踏み込む予定だったわけである。

 大胆というか無謀というか……とにかく常識など捨て去った思考なのはよく分かった。

 俺は棺崎に続けて質問を投げる。


「でもどうやって一億円を貰うんですか。闇金の件もあるんで絶対に歓迎されないですよ」


『愚問だね。盗むに決まっているじゃないか。新村美夜子さんが暴走に紛れればなんとかなるだろう』


「そんな無茶苦茶な……」


 いくらなんでも不可能だ。

 そう思って安藤に助けを求める。


「俺達がお金を盗むのって、警察的に大丈夫なんですか?」


「法的には良くないことですが、村木さんの命に関わりますからね。多少は黙認しますよ」


「あー……そうなんですね」


「そもそも僕は違法行為を咎められる立場にないので」


 そう言われて俺は後部座席を見る。

 大量の銃火器が活躍の瞬間を待ち望んでいた。

 安藤はこれだけの武器をどうやって手に入れたのだろう。

 いくら刑事でも合法的な経緯ではないと思う。


 銃火器を見つめたまま黙る俺をよそに、安藤は静かに語る。


「須王会は何年も前から警察がマークしていましたが、介入する機会がありませんでした。こうして皆さんと協力できるのも何かの縁です」


 車内の空気がきりきりと張り詰めていく。

 安藤の纏う不吉な気配が濃くなった。

 俺は脂汗をかいて硬直する。

 些細な動作が死に直結する予感がしたのだ。


 こちらの緊張を知ってか知らずか、無表情の安藤は宣言する。


「僕としてはこのチャンスを逃すつもりはありません。須王会を壊滅させます」


「あ、あの。お金を盗むだけじゃないんですか」


「村木さんは須王会から命を狙われています。半端なやり方では報復されますよ」


 車が僅かに加速する。

 片腕のギプスを一瞥した後、安藤は冷ややかに述べた。


「元会長を排除すれば須王会は自然と瓦解するでしょう。後継者を巡る抗争が起きますが、そこはマル暴に任せればいいです」


『随分と楽しそうじゃないか。安藤君は人の死が好きなのだね』


「僕は悪人が正しく罰を受ける社会を実現したいだけです。そのためには誰かが手を汚す必要があります」


『ふむ……まあ、一旦そういうことにしておこうか』


『職務を貫く孤独なクライムファイターって素敵だと思います! もう色んな妄想な捗りますよ! あとで取材させてくださいっ!』


 どいつもこいつも狂っているなぁ。

 話についていくのも疲れるので、俺は目を閉じて仮眠を取ることにした。

 よほど疲れていたのか、三人の会話はすぐに聞こえなくなった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] >「そもそも僕は違法行為を咎められる立場にないので」 それ以前にこの世界の法律で心霊現象を刑事事件として立件できるかという罠。w >「僕は悪人が正しく罰を受ける社会を実現したいだけです…
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