第40話 悪い知らせ
頭が揺れる。
身体が揺れる。
それとエンジン音……車の中だ。
俺は自分が横たわっていることに気付く。
視界の先には段ボールが積まれていた。
見覚えがあるぞ。
そう、佐奈が用意した呪物だ。
段ボールは後部座席に載せられており、俺はフロアマットで寝ている。
扱いは俺の方が下みたいだ。
身体が妙に重たい。
全力で走りまくったせいだろうか。
やっぱり高校生の頃より体力が落ちているな。
こういう時のために運動しておかねば。
いや、そんな備えは嫌だな。
いつの間にか見慣れない服を着ている。
シャツもズボンも明らかに俺のものではない。
温泉でずぶ濡れになったから着替えたのか。
しかしこれは誰の服だ。
色々と不思議がっていると、助手席から声がした。
「おや、気が付いたかね」
棺崎がこちらを見ている。
余裕綽々の涼しい笑みだった。
「気分はどうかな」
「あー……ちょっと車酔いしてるかも……」
「運転が荒いってこと? 呑気に寝てたくせに良いご身分ね」
辛辣な声が飛んできた。
運転をしている佐奈からだった。
彼女はバックミラーで俺を一瞥し、大げさにため息を洩らす。
「意外としぶといのね。さすがに死んだと思ったのに」
「……勝手に殺すなよ」
「はいはい、ごめんなさいね」
佐奈は棒読みで謝る。
やり取りを見ていた棺崎は、ここまでの経緯を説明してくれた。
「君が露天風呂に浮かんでいるのを発見してね。丑宮君に手伝ってもらって引き上げたのだよ。風呂を借りて服も貰ってしまった。喰呪荘から霊を根絶した礼だろうね」
「根絶……って、あれからどうなったんですか」
「順を追って話そう」
棺崎が咳払いをする。
それから流暢に話し始めた。
「まず喰呪荘の霊についてだが、あれは堕胎や流産で生まれ損なった赤子の群体だ。界隈では喰呪霊と呼ばれており、特性としては……」
「あの、もういいです。次の話に進んでください」
俺は途中で遮って言う。
自分でも顔が歪んでいるのが分かった。
棺崎は意味深に笑った後、俺の言う通りに話を進める。
「喰呪霊が根絶した件だが、別に私が倒したわけじゃない。君にとっては最悪の事態かもしれないな。聞きたいかね」
「まあ一応……」
俺は不安になりつつ頷く。
棺崎はとても愉快そうに打ち明けた。
「喰呪霊は新村美夜子さんに吸収された。存在ごと取り込まれたことで消滅したのだよ」




