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偏愛霊  作者: 結城 からく


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第38話 命綱

 走る。

 全力で走る。

 息切れで苦しいがここで止まるわけにはいかない。

 数メートル後ろには手の塊がいた。

 ぺたぺたと執拗に迫る様は悪夢のようだった。


 前を走る棺崎と佐奈が、二階への階段を上がっていく。

 それに続こうとした直後、天井から黒い手がスライムのように垂れてきた。

 黒い手はそのまま階段を塞いでしまう。


 背後にはまだ黒い手がいた。

 確か棺崎が群体と言っていた気がする。

 こんな霊が旅館内に何匹も潜んでいるのだろう。


 一瞬の逡巡を経て、俺は階段を素通りした。

 そのまま廊下を走り抜ける。

 あちこちの窓に黒い手がねっとりと付着していた。

 俺達が使った入り口も同様に塞がれて脱出できなくなっている。

 本格的に獲物として認識されたようだ。


「ちくしょう、一人は不味いって……!」


 早く合流したい。

 しかし、あの二人が俺を助けてくれるだろうか。

 特に佐奈なんて俺ごと刺そうとした。


 ヤバい奴なのは前から知っていた。

 漫画のためなら何でもすると豪語し、様々な経験をしたと聞いている。

 とは言え、あれだけ躊躇がないのは狂っている。

 同行させたのは完全に失敗だった。


(こうなったら佐奈がピンチの時に仕返しするか)


 名案じゃないか。

 こんな最低な仕打ちを受けたのだ。

 それくらいの権利はあるだろう。


 考えがまとまったことで少し冷静になれた。

 俺は目についた客室に飛び込んで隠れる。

 座り込んで深呼吸を繰り返し、全力疾走で失った体力を回復させる。

 俺が大人しくしていれば、標的が棺崎と佐奈に切り替わるかもしれない。

 卑怯だろうと生き残るのが最優先だ。


(あの管理人……丑宮って人が来てくれないかな。いや、無理だな。すごい警戒してたし)


 他人任せなことを考えていると、部屋の天井がいきなり黒く染まった。

 そして黒い手が滴り落ちてくる。

 俺はすぐにドアを開けて廊下に飛び出した。


 背中に生温かい感触が広がる。

 嫌な予感と共に振り向くと、黒い手が密着していた。

 湿った感触の気持ち悪さに顔が歪む。


「うげ、はなせぇっ」


 俺は走りながら服を脱ぎ捨てる。

 自分でも驚くほどスムーズに上半身裸になれた。

 捨てた服には黒い手が付いたままで、背中に何も残っていない。

 安堵した俺は自分の身体を見下ろす。 


(こいつらのおかげかな)


 今の俺は、鎖と水晶で出来た破邪のペンダントを着けていた。

 さらに胸には除霊ペンで書いた「悪霊退散」の文字がくっきりと刻まれている。

 どちらも佐奈が保管していた霊能グッズである。

 安っぽいので偽物かと思ったが、棺崎によると「作成者の呪力が込められている」らしい。


 とりあえずペンダントと文字が無事なら俺は死なない。

 まだ効果は継続中と捉えていいだろう。


 そう思った矢先、ペンダント黒ずんで水晶部分に亀裂が走った。

 間を置かずに鎖が砕けて完全に外れて落下する。

 同時に「悪霊退散」の文字もインクが蒸発して跡形もなく消失してしまった。


 ——中身のろいを喰われたようだ。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] >(こうなったら佐奈がピンチの時に仕返しするか) 返り討ちに遭う未来しか見えないが、大丈夫か?
[良い点] なんだろう。主人公がまぁまぁのクズだから酷い目にあってもあんまり心が痛まずに見れる。
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