第33話 なけなしの希望
マンションを出た俺達は佐奈の車で移動する。
車内には佐奈が購入した結界の札が貼られていた。
しかも俺の時とは異なり八枚という大盤振る舞いだ。
これで当分は美夜子の攻撃を防ぐことができるらしい。
オプションアイテムは俺には使わせないと言っていたが、結果的に恩恵を受けられてよかった。
運転席と助手席にはそれぞれ佐奈と棺崎が座っている。
二人はスマホで音楽を鳴らしながら楽しそうに喋っていた。
「良い車だね」
「普段は宅配ばっかで乗りませんけどね。たまに買い物に行く時に重宝します」
俺は後部座席で縮こまっている。
左右や足元に積まれた段ボールのせいでとても窮屈だ。
おまけにちょっとした振動で崩れそうになるので、常に支えておかないといけない。
崩したら股間を蹴ると佐奈に宣言されたため、俺は全神経を集中させていた。
段ボールの中には、佐奈が漫画の資料として集めた曰く付きの物品が入っている。
だいたいが個人販売の霊能グッズか、殺人事件で使われた凶器らしい。
棺崎の鑑定によると、保管してあった物のうち二割くらいが本物だったそうだ。
たった二割で後部座席を占領するのだから凄まじい量である。
段ボールの隙間からは、古い包丁や錆びた釘が覗いていた。
先入観があるためか、なんとなく禍々しく見える。
(あんまり触りたくないな……)
俺が顔を顰めている一方、棺崎と佐奈の会話は本題に入ろうとしていた。
棺崎は食パンを齧りながら言う。
「これから我々は二つ目の心霊スポットに向かうよ。移動時間はおよそ三時間だ」
「いいですねえ! どんな場所なんです?」
「何十年も放置されている廃旅館だね。呪いを喰らう性質があり、お祓いの地として使われることもあるらしい」
「なるほど! 悪霊を殺すのにぴったりなわけですね!」
佐奈が身体を揺らして喜んでいる。
頼むから運転に集中してくれ。
もう事故に遭いたくない。
ここで俺はふと思い出したことを棺崎に尋ねた。
「あの……安藤さんを待たないんですか?」
「別に彼が不在でも問題ない。何か不満かね」
「戦力的に合流してから向かう方がいいんじゃないかなぁと……銃とか爆弾とか持ってたし」
俺が意見を述べる最中、バックミラー越しに佐奈と目が合った。
鬼と見紛いそうな迫力だった。
彼女はゆっくりと言い聞かせるように告げる。
「漫画家の一分一秒は貴重なの。つべこべ言ってないで直行よ!」
「うー、ああ…………はい」
とても言い返せる立場ではなく、俺は肩を落として頷いた。




