第3話 対霊
棺崎がゆっくりと微笑を深める。
どうやら俺の話に興味を持ったようだった。
彼女は少し前のめりになって頷く。
「ほほう」
「……馬鹿にしないんですね。信じてくれるんですか?」
「そりゃ霊能探偵だからね。こういう話題に疑念は持ち出さないよ」
棺崎は当然のように述べる。
悩みを周りに打ち明けられず、ずっと我慢してきた俺にとって彼女の態度はありがたかった。
別に優しくしてほしいわけではない。
ただ淡々と受け入れてくれるだけでよかったのだ。
静かに感動していると、棺崎が「話を続けてくれるかな」と言ってきた。
俺は咳払いをしてから本題に入る。
「二カ月前から怪奇現象に悩まされています。鏡に霊が映ったり、蛇口から髪の毛が出てきたり……精神的に辛くて大学もバイトも休んでます」
「ストーカーの霊と言ったね。知り合いかな」
「はい……俺の一つ下でバイト先の同僚でした。ストーカーになったのは半年前で、俺が告白を断ったのがきっかけですね」
脳裏に美夜子の顔が過ぎる。
暗闇のように真っ黒な瞳だった。
じっと俺だけを見つめてくる。
握り締めた手がいつの間にか汗だくになっていた。
一方、棺崎は変わらない調子で質問を続ける。
「そのストーカーの子の名前は? 自殺方法は分かるかな」
「新村美夜子です。自殺方法は……わかりません」
「なぜ? 学生なら噂になりそうだけどね」
「美夜子は行方不明なんです」
俺は床を見つめながら言う。
自分の声が震えていることに気付き、情けなくなった。
それでもなんとか俺は説明をする。
「怪奇現象が始まる少し前に、美夜子から自殺すると連絡がありました。送られてきた位置情報は遠くの山の中で、それきり消息を絶っています。バイト先にも顔を出してなくて、家族が警察に相談しているそうです」
「自殺したのは間違いないのかな。ただの失踪かもしれないよ」
「それはありえません! 美夜子の霊が現れるんですよ! あいつは間違いなく死んでいますっ!」
俺は反射的に立ち上がって怒鳴った。
棺崎はただ静かにこちらを眺めている。
我に返った俺はソファに座りながら謝った。
「……すみません」
「気にしなくていいさ。取り乱すのも納得の状況だからね。死んだストーカーが付きまとうなんて悪夢みたいな話だ」
棺崎は肩をすくめて応じる。
彼女の口調にはどことなく皮肉が含まれていた。
こちらが深刻な状況だというのに、何か楽しんでいる気配さえする。
再び怒りが込み上げてくるも、それを見せる前に棺崎が提案した。
「霊を止めるにはいくつか方法がある。よくあるのは未練を晴らして成仏させる方法だけど……」
そこまで聞いたところで、俺は顔を顰めてしまった。
未練を晴らすとは何だ。
まさか美夜子の霊と仲直りしろとでも言うのか。
ふざけるな、できるわけがないだろ。
そんな俺の心情を察したのか、棺崎はくすくすと笑った。
彼女は愉快そうに別の案を挙げる。
「成仏を除くと、手っ取り早いのは非科学的な手段による解決だね。ようするに新村美代子さんの霊をぶっ殺すんだ」




