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偏愛霊  作者: 結城 からく


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第29話 情報開示

 その後、五分ほどして戻ってきた安藤は黒いスポーツバッグを背負っていた。

 彼はバッグを足元に置いて何事もなかったかのように車を発進させる。

 襲ってきた男達はどうなったのだろう。

 そこについて触れるのが怖かったので、俺は代わりの質問を投げる。


「そのバッグは……?」


「戦利品です。霊的な効果はありませんが役に立ちますよ」


 安藤は前を向いたまま答えた。

 戦利品ということは、たぶん男達の銃に違いない。

 美夜子に効くとは思えないが無いよりはマシだろう。


 それからしばらく車で移動し、俺達は田舎道の寂れたラブホテルに入った。

 夜もすっかり更けており、一旦休憩を挟んだ方がいいという話になったのである。

 三人分の宿泊費はなぜか俺の自腹だった。

 さすがに文句を言いたかったものの、棺崎と安藤には逆らえないので我慢する。


 ダブルベッドに占拠された狭い部屋で、棺崎はテーブルに腰かけて足を組む。

 彼女は単刀直入に安藤に尋ねた。


「あの二人の男は何者なのかね。こうして移動したということは情報を掴んだのだろう」


「はい、彼らの端末を盗んできました。素性はだいたい予想できますが、念のために確認します」


 安藤が二台のスマホを見せる。

 電源を入れるとロック画面が表示された。


「パスワード分かるんですか?」


「必要ありません」


 そう言って安藤がスポーツバッグを漁る。

 真っ赤なタオルに包まれて出てきたのは人間の手だった。

 安藤はそれをベッドの上に並べていく。

 人間の手は計四つ……左右それぞれ揃っていた。

 つまり二人分の人間の両手である。


 俺はぎょっとして固まる。

 数秒の思考停止を経て、震える口から辛うじて言葉を発した。


「な、なんですかそれ……」


「彼らの指です。ロック解除のために持ってきました。虹彩認証だったら危なかったですね。あれは眼球をくり抜いても使えませんから」


 安藤は平然と四つの手を使ってスマホのロックを解除する。

 それが済むと、タオルに包んでさっさとバッグに戻した。

 一連の動作はあまりにも慣れた調子で、欠片の罪悪感も見られなかった。


 安藤の異様な行動にも慌てず、棺崎はスマホの画面を覗き込む。


「何か分かったかな」


「彼らは須王会という組織に属するヤクザですね。村木さんが盗み出した金を取り返すように命じられたそうです」


 須王会……聞いたことがある。

 確か闇金との会話で出てきたのだ。

 奴らのバックにいたヤクザが須王会だったはず。

 手下の組織から金を奪われたと知り、俺を見つけ出したのだろう。


「美夜子だけじゃなくて、ヤクザにまで追われるのかよ……」


「今のところ対処法はないので受け入れてください。それより今は休息を取ってください。僕はもう少し情報を集めます」


 安藤は二台のスマホを黙々と操作する。

 もう会話をするつもりはないらしい。

 それでも俺は訊いておきたいことがあった。


「あの、車とか死体って放置して大丈夫だったんですか?」


「問題ありません。同僚に連絡済みですから」


 安藤は目線を動かさないまま答える。

 たぶん嘘だ。

 冷淡な目を見れば分かる。

 なんだか恐ろしくなり、俺はそれ以上の言及ができなかった。

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― 新着の感想 ―
[一言] >「彼らの指です。ロック解除のために持ってきました。虹彩認証だったら危なかったですね。あれは眼球をくり抜いても使えませんから」  リアルでも治安の悪い地域の犯罪者がよくやる手ですな。(震え…
[良い点] ヤクザと幽霊…しかも仮にも一般人相手にいきなり銃ぶっ放す特級にやばい組らしい…しんど
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