第28話 迎撃戦
棺崎が俺のスマホを覗き込んできた。
顔が近い。
かなりの美人だが、ジャンクフードの臭いがするので台無しだ。
たぶん白衣に染み付いているのだろう。
棺崎は俺のスマホを取ろうとする。
「誰と話していたのだね」
「別にただの知り合い……って、今はどうでもいいでしょそんなこと!」
さらなる銃撃に動きを止める。
幸いにもここまで俺は傷を負っていなかった。
棺崎と安藤も大丈夫そうだ。
しかし、これがいつまで続くか分からない。
容赦のない銃撃は俺達の車を完全に破壊しようとしている。
俺はこっそりと顔を出して後方を確かめる。
追いかけてくる車に乗る二人の男が見えた。
助手席の男がたぶんショットガンを持っている。
それをさっきからぶっ放しているのだ。
まるでアクション映画じゃないか。
ははは、ふざけるな。
「一体何なんですか! 美夜子じゃないですよね!?」
「違います。紛れもなく人間です」
安藤が淡々と応える。
銃撃の中、彼はあまりにも冷静に運転していた。
恐怖心がないのだろうか。
「彼らは僕達をずっと追跡していました。ヤクザかそれに類する者だと思いますが、狙われる心当たりはありますか」
「ヤクザなんて俺はまったく……」
「いや君だろ。闇金の件を忘れたのかね」
「十中八九そうでしょうね」
「あ、あれは棺崎さんに紹介されて」
反論しようとした矢先に銃撃が来る。
車間距離もかなり詰められていた。
焦る俺は棺崎に怒鳴る。
「あいつらをどうにかしてくださいよっ! このままじゃ殺されますって!」
「私の専門は心霊だ。人間相手は彼に任せるべきだね」
棺崎が見たのは安藤だった。
安藤は静かに述べる。
「彼らの追跡を黙認していたのは確実に始末するためです。せっかくの獲物を逃がしたらもったいないですから」
言い終えた安藤がハンドルを離す。
彼はギプスに手を突っ込み、ごそごそと漁り始めた。
そうして取り出したのは手榴弾だった。
俺はその物々しさから本物であると直感的に理解する。
「えっ……」
「長引くと騒ぎが大きくなりますからね。手早く済ませましょう」
安藤が手榴弾のピンを抜いて窓の外に放り投げる。
手榴弾はワゴン車の側面に炸裂した。
タイヤが破裂したワゴン車は横転し、何度も派手にひっくり返った末に止まる。
同時に俺達の車も急停止した。
私物らしい拳銃を持った安藤が運転席のドアを開ける。
「このまま待っていてください」
それだけ言って彼は外に出た。
安藤はワゴン車に向けて発砲する。
相手が撃ち返す音は聞こえなかった。
横転のショックで反撃どころではなかったのか。
数度の発砲の後、安藤はワゴン車の中へと消えていく。
一部始終を目撃した俺は、独り言のように呟く。
「あ、安藤さんって本当に警察なんですかね」
「どうだろう。少なくとも規律を守るタイプではなさそうだ」
棺崎は苦笑混じりに言った。




