第26話 ポイ捨て禁止
クドウシバマサの生首が急速に腐敗し、しぼんでミイラのようになった。
あちこちに散乱していた手足や胴体の破片も同様に腐っていく。
棺崎は生首を軽く蹴って言う。
「自殺者から正気を吸い取っていたのだろう。これが本来の姿のようだね」
ほどなくして自殺神社の本殿が崩壊した。
立派な佇まいがものの数秒で瓦礫となって跡形もなくなる。
たぶんクドウシバマサの死に連動したのだと思う。
美夜子はいつの間にか消えていた。
俺を自殺させる元凶を仕留めたことで満足したのか。
ひとまず襲撃が来ないことに安堵する。
棺崎は弾切れになった拳銃を投げ捨てた。
薬莢を拾った安藤は質問をする。
「幽霊に銃弾は有効なんですね」
「普通は効かないが、クドウシバマサは人間だ。霊能力で誤魔化しているだけで、隙を突けば物理攻撃で殺害できる」
「他にも有益そうな情報を教えてください」
「あまり詮索すべきではないよ。余計な呪いを呼び込んでしまうからね。愚鈍で無知な人間でいるのが最善である場合もある」
霊に関する知識を披露しながら、棺崎はクドウシバマサのミイラを集めていた。
部位ごとにそれぞれ新聞紙に包み、ガムテープを巻き付けて剥がれないようにしている。
まるで引っ越し前の梱包作業のような扱いだ。
俺はさすがに気になって尋ねる。
「それどうするんですか」
「持って帰る。危険な呪物だからね。放置はできない」
ガムテープで巻いた後は大きいゴミ袋に放り込んでいく。
いくらなんでも雑すぎる。
祟られるんじゃないかと心配になってしまう。
まあ、霊能者の棺崎が対応を間違えるはずもない。
おそらく問題ない……と思っておこう。
その後、俺達は車に戻って出発した。
結界の札が効いていたのか、車は特に故障していなかった。
後部座席で缶ジュースを飲む棺崎は残念そうに語る。
「それにしても自殺神社……もといクドウシバマサは期待外れだったね。術師としての技量が並だし、能力的な相性も良くなかった」
「今回の戦闘で新村さんを消耗させることはできましたか」
運転する安藤が訊くと、棺崎は腕を組んで考え込む。
目を閉じた彼女は難しそうな表情で答えた。
「正直、そこまでダメージは与えられなかったが収穫もある」
「どんな収穫ですか」
「新村美夜子さんの情報が得られた。クドウシバマサとの戦いで色々と見せてもらったからね。今後の対策に使えるよ」
棺崎は自信ありげにゴミ袋を掲げてみせる。
あの一方的な戦いに有益な情報などあったろうか。
霊的知識のない俺にはさっぱり見当もつかない。
真顔なので分かりにくいが、安藤も同じような心境に違いない。
「さあ、次の心霊スポットに行こうじゃないか。今度は道中で事故が起きないといいね」
不吉なことを言う棺崎に、俺は「勘弁してくれ」と思った。




