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偏愛霊  作者: 結城 からく


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第24話 甘美な衝動

 石階段の両脇には草が生い茂っている。

 たまに死体が見え隠れするので、俺はなるべく見ないように意識した。

 どうせ気が滅入るだけなのだから、いちいち確かめない方がいい。


 拳銃を握る手がやたらと汗ばむ。

 ふとした拍子に撃ってしまいそうになる。

 深呼吸でどうにか気持ちを落ち着かせようとするも、あまり効果はなかった。


 頭がくらくらとする。

 階段を上がり始めてからどれくらいの時間が経ったか分からなくなってきた。

 ずっと耳鳴りがするし、身体も妙に重い。

 緊張と恐怖で全身の感覚が狂いつつあった。

 そんな中、とある閃きが脳裏を過ぎる。


 ――死ねば楽になる。


 俺は、とても素晴らしい提案だと思った。

 手っ取り早いじゃないか。

 それで何もかも解決してしまう。

 さっそく実行するべきだ、しなければいけない。


 勝手に進む思考に戦慄する自分がいた。

 なるほど、これが自殺衝動らしい。

 誘惑に負けた瞬間、俺は周りの死体と同じ結末を辿るのだろう。


 恐ろしい事実を悟ったというのに、心は穏やかだった。

 いや、それどころか自殺を期待している。

 このまま命を手放したくなってきた。

 だから俺は懸命に抗う。


「い……やだ……死に、たく……ない……」


 棺崎と安藤が何か話している。

 内容が頭に入ってこない。

 自殺衝動に思考を奪われているのだ。


 その中でもはっきりと分かったことがある。

 二人は俺と違って平然としていた。

 自殺衝動に苦しめられているようには見えない。

 少しでも気を紛らわせるため、俺は棺崎に話しかける。


「どうして二人は平気なんですか?」


「ふむ、それは適切な疑問ではないな。君だけが影響を受ける理由を考えるべきではないかね」


 棺崎が偉そうに言う。

 そんな風に返されても頭が上手く回らないんだ。

 気を抜くとどうやって死ぬか模索してしまう。


 ここまでの死体を見た限り、人気なのは枝で喉を刺すパターンらしい。

 縄がないので首吊りは厳しいな。

 飛び降りも現実的ではない。

 そうそう、階段に頭を打つという手もあるか。


「自殺神社は生物の恐怖心を突いてくる。だから恐怖に負ければ、肉体が本能的に自殺を選ぶのだよ」


 自殺。自殺自殺自殺自殺。

 どーしてくれよーか。

 ハッピースーサイド記念日だ。

 そう、幸せ。

 死ねば人類は幸せになる。

 つまり殺してくれ。


「私のように堅牢な呪具で防御しておけば、霊がどういった攻撃を仕掛けてきても軽減できる。或いは恐怖心をまったく持たない者ならば、自殺神社の影響を受けないだろう」


「へえ……へへ、それはもう、おめでたいですね……」


「壊れかけている君に呪具を貸してやりたいが、生憎と有料なのでね。最低でも百万円は必要なのだよ」


「ああー、そうですかはいはい」


 銃口をくわえる。

 歯を立てると硬かった。


 あとは引き金。

 ちょっと引くだけで楽になる。

 ハッピーエンドだ。

 それ、いくぞ!









 ……引き金が、動かない。

 指が動かない。


 口から銃を抜いて確かめる。

 引き金と指に髪が巻き付いて固定していた。

 これでは弾が出ない。

 自殺が、できないじゃないか。


 そこまで考えたところで、思考が鮮明になってきた。

 恐怖の質が変わり、急速に現実味が蘇ってくる。

 甘美な自殺衝動も薄れていった。

 拳銃を持って固まっていると、棺崎に肩を叩かれる。


「大丈夫かね」


「はい、なんとか……」


「君が囮になったことで登場してくれたよ」


 棺崎がすぐそばを指差す。

 そこには美夜子が佇んでいた。

 しかし彼女は珍しくこちらを見ていない。

 美夜子は前方を凝視している。


 石階段が終わり、新築のような神社の本殿が建っていた。

 賽銭箱の上に太った男が寝そべっている。

 新品のように皺一つない袈裟に身を包み、悪意に満ちた笑みを浮かべた男だ。

 肌にはオイルのような艶があり、黒髪は後ろで束ねている。


 棺崎は男を見て言う。


「あれが自殺神社の本体……クドウシバマサだ」

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― 新着の感想 ―
[良い点] >自殺。自殺自殺自殺自殺。 >どーしてくれよーか。 >ハッピースーサイド記念日だ。 >そう、幸せ。 >死ねば人類は幸せになる。 >つまり殺してくれ。  う~む、実にシュールでダークな笑い…
[良い点] 或いは恐怖心をまったく持たない者ならば  多分安藤のこと言ってるんだろうな。やはりまともな人間じゃなさそう
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