第20話 刑事の提案
安藤は俺と棺崎の顔を交互に見やる。
あまり直視してはいけないような、寒気のする迫力があった。
やはり警察という職業だからだろうか。
棺崎はずっと彼の背後ばかりを気にしている。
視線を下げた安藤は静かに語り始める。
「地下鉄と高速道路の事件には、共通して大量の死傷者が出ています。一見すると関連性はありませんが、僕は何らかの繋がりを疑っています」
「真相を知っているよ。どちらの事件も新村美夜子という霊が引き起こしたのだ」
棺崎の言葉に俺はぎょっとする。
まさかここで打ち明けるとは思わなかったのだ。
俺が固まる一方、安藤は納得した様子でメモを取る。
「なるほど、霊ですか。参考になります」
そのまま話が進みそうだったので、俺は思わず口を挟んでしまった。
「いやいや、ちょっと。霊なんて言われて信じるんですか?」
「二つの事件では不可解なことが起きすぎています。どれだけ荒唐無稽な話でも検討に値するほどです。そうでなくても筋の通った内容なら僕は信じます。だから教えてください」
安藤が流暢に語ってから頼み込む。
俺はどうしたらいいか棺崎に目線で尋ねた。
頷いた棺崎は手を組んで言う。
「今から伝えるのは紛れもない真実だ。既存の常識を捨て去る覚悟はできたかね」
「はい、柔軟な捜査が僕のスタンスですので」
「よろしい。では説明しよう」
棺崎は安藤にこれまでの経緯を残さず話した。
そこには俺の悩みや依頼も含まれていた。
安藤は淡々と相槌を打っていた。
時折、ペンを動かして何かを記録している。
説明が終わったところで安藤はペンを置いた。
「村木さんの事情は概ね理解できました。除霊に向かう道中で襲撃され、その二次被害が地下鉄の高速道路の事件だったのですね」
「迷惑をかけてすみません……」
「確かにあなたは大勢を巻き込んでいますが、他に選択肢がなかったのも分かります。そこについて責めるつもりはありません。僕も同じ立場なら似たような状況になりそうです」
安藤はフォローを入れてくれたが、声音や表情はまったく優しくない。
かと言って悪感情を伝わってこなかった。
本当によく分からない男だ。
そんな安藤は虚空を見つめながら何かを思案している。
やがて答えが出たのか、彼は俺達に言う。
「こうして出会ったのも何かの縁です。僕もあなた達に協力させてください」




