迷子
いいね、ブクマ、感謝です!
いつも展開がゆっくりですみません。それなのにお付き合いしてくれて、本当にありがとうございますm(__)m
青空の下、潮風が心地良く頬を撫でる。カモメかウミネコか、よくわからない鳥も元気に飛び回っている。
私は今、市場に面した海辺のカフェのテラス席で、本日のお奨め珈琲を口にしている。
向かいではヨツバが甘いフルーツジュースを飲み、ミツバは近くの露店を覗き込み、その後ろをニーヴェルが従者らしく守っていた。
本日は領主や貴族としてではなく、ただの金持ち平民を装っており、イーロンら護衛には少しばかり離れた場所から見守ってもらっている。
珈琲で喉を潤しながら、私は露店を行き来するミツバを見ていた。
湖の向こう、もしくは海の向こうからもたらされた布地やアクセサリーに目を輝かせ、店主から工芸品の説明を興味津々な様子で聞いていたり……ニーヴェルに話をしているミツバはなかなか見れない満面の笑顔だ。
「楽しそうだねぇ、ミツバ……。ヨツバも、見てこなくていいの?」
「大丈夫です。私はアマーリエ様のお側にいたいです」
ヨツバはやけに澄ました顔で言い張ったものの、次の瞬間には口元がしゅんと縮んだ。
「……あの、アマーリエ様」
「ん?」
「……今度会う人は、本当にお父さんのお父さんとお母さんなのですか?」
「そうだよ? ニーナさんやパーシーから話を聞いてたでしょう?」
「そう、ですけど……本当なのかなぁって……」
はい? 今更?? 急にどうした???
「……もし『違う』ってなったら、ヨツバはライニール様の子供じゃないことになっちゃうけど?」
「! それは嫌です! 私のお父さんはお父さんだけです!」
「じゃあ、やっぱりライニール様の子供だよ。安心しなって」
安心させるように笑い掛けたが、ヨツバの顔はまだ曇ったままだ。
「……私、おばあちゃんやミツバ……アマーリエ様と離れなきゃいけないんですか……?」
「トリスタン家の血を引いてるのはヨツバだけだし、場合によっては離れ離れになるね。私の元にはいつまでもいれる訳じゃないから、トリスタン家で引き取ってもらうのが一番いいんだけど……」
「えっ!? そうなんですか!?」
えっ?!
「そりゃあそうでしょ。私はいつまでも独り身でいる訳じゃない。いずれは再婚して、新しい家族を作る。そこに、ライニール様の子であるヨツバがいるのは何かと都合が悪いんだよ。つまりは、まあ、面倒な大人の世界の話よ」
「……お、お屋敷に勤めるのも駄目なんですか?」
「え。……うちで働きたいの?」
「は、はいっ! アマーリエ様は、私たちの意見を聞いてくれるって言っていました! だったら、おばあちゃんとミツバと、三人で、ずっとアマーリエ様の下で働かせてください!」
「ちょ、ヨツバ、声が大きい……!」
「あ、すみま……あ、違う、申し訳ございません」
大きな音を立てて椅子から立ち上がり、大声でそんなことを言うもんだから、周りの視線が集まって恥ずかしい。ヨツバも恥ずかしそうにしながら椅子に座り直す。
いやぁ、予想外……その案は全く考えてなかったわ。
私は“アマーリエ・バルカンの破滅を招く攻略対象”である子供たちを追い……いや、見送って、まっさらな状態で結婚したいっていう目標の下で動いてたから、そんな希望が出てくると思わなかった。
そう言えば、ヨツバたちの意見を重んじる的なことは言ったけど、ちゃんと本人の希望を聞いてなかったなぁ……反省。
(でも、そうか……。トリスタン公爵家の反応が微妙だからな……引き取って貰えない可能性を考えると、うちで雇った方がいいのかな……?)
故郷で幼いながらその美貌から大の男たちに狙われていたヨツバだ。放り出したら不幸になる可能性は高いだろう。
「……うん、取り敢えず、その話は後で話そう。そろそろ行こうか」
ヨツバのコップが空になったのを見計らい、珈琲を飲み干して席を立つ。
都合良くこちらに戻ってきているミツバたちと合流する。
「アマーリエ様、アマーリエ様! あそこのお店、すごいの! 箱の中に人形があって、ぐるぐる回すと動くの! あと、紐の先にある輪っかがぐるぐる回って、あちこちに動くのかっこいいの!」
「ん? 何々? よくわからないけど、気になるおもちゃがあった? 欲しい?」
「! 欲しっ」
「駄目よ、ミツバ。アマーリエ様にねだるなんて、とっても失礼なことなんだからね。アマーリエ様も妹を甘やかせないでください」
「あ、はい……。じゃ、じゃあ移動しよっか」
うーん、しっかり者のお姉ちゃん。
ミツバはブスッと唇を尖らせて俯いてしまった。私の所為で楽しい気持ちに水を差してしまい、申し訳なくなってミツバの手を握って歩き出した。
私たちが通りを歩き始めた頃、港に船が到着していたようで乗船客や荷物がどんどん下ろされていた。その為、市場には更に多くの人や荷車で溢れて行く。
こりゃ出るタイミングミスったわ。何度人にぶつかりそうになったことか……ちょっとどこかの店に避難するか。そう思って、背後に付いてきてるヨツバらに声を掛けた。
「ヨツバ、ニーヴェル、ちょっと何処かに……」
――だが、そこにヨツバとニーヴェルはいなかった。
「え、あれ?!」
びっくりしながら辺りを見回す。だから、人の波に揉まれてヨツバたちの姿は何処にも見付けられなかった。
やばいやばい。取り敢えずミツバも迷子にならないように抱き上げ、来た道を引き返す。すぐに護衛騎士隊長イーロンと合流できた。
「奥様っ、お怪我はございませんか?」
「いっ、イーロン! ヤバい、ヨツバたちとはぐれた!」
「申し訳ございません、私の方も見失いました。他の者に探させておりますので、すぐお連れ致します。一先ずアマーリエ様はこの混雑から避難してください」
「う、うん、お願い」
イーロンの先導ので混雑を抜けて広場に出る。ここもここで人で溢れていたが、先程の通りに比べればずっと歩き易い。待ち合わせにわかりやすい場所に待機する為、噴水周りに足を進める。
座る場所が無いかと辺りを見回すと、ベンチに座っている男に目が止まった。
長い足を組み、ベンチの背凭れに体を預け、道行く人を睨む様な視線を送っている。
端正な顔立ちに、縦に走る傷で閉ざされた左目――あの特徴は忘れられるものではない。
思わず見てしまっていたら、男と視線がぶつかった。青い右目が見開かれる。
「あ」
「――お前は」
それは、ルトことフィリベルト人質事件の際に、私を庇ってくれたフードの男だった。
お読みいただき、ありがとうございました(*^^*)




