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どうやら悪逆非道の女領主に転生したようです。目の前には将来私に復讐する子供達がいます。どうしよう  作者: 福 萬作
第二部

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再会

いいね、ブクマ、誤字脱字報告、感謝です!

 町の入り口には、古びた石門と見張り台があり、槍を持った門兵たちが中に入ろうとする行列をさばいていた。単体の旅人から隊商の荷馬車が、検問を受ける為に列を成している。

  

 私らが門に近づくと、門兵が一人近づいてきた。 

 実は今回の来訪は諸事情でお忍び扱い。なので家紋入りの馬車ではなく普通の馬車で、護衛も減らしている。 

 とはいえ、ヴィスナの代官には事前に手紙を送ってあったため、イーロンが領主の証明書を見せると、門兵はすぐに道を開けてくれた。


 ――町の中は活気に満ちていた。

 通りには人々がひしめき合い、車輪の音と人々のざわめきが飛び交っている。

 荷を積んだ馬車や大声で交渉をしている商人たち、珍しい服装の異国の旅人たち――建物を構えた店だけなく、空いているスペースには露店が並び、バルカン領では見ない食べ物や工芸品がそこかしこで売られていた。


 ちなみにここはゼオンとリリーナ親子が最後に立ち寄った可能性のある町でもある。


(船でどこかに行ったって噂だけど、実は二人ともまだここに潜んでたりして)

 

 そんなことを思いながら、行き交う人々や商品眺めていたが、四辻の交差点に差し掛かった所で大通りを逸れる。

 

 貴族や金持ちが使う高級ホテル街を抜けた、更に奥。バルカン公爵家の別荘はそこに存在していた。

 二階建ての白壁の建物は、四方を先の尖った黒鉄のフェンスで囲まれ、広い庭には夏の陽射しを受けて青々とした緑が輝いている。


 門を潜ると、玄関前ポーチで長身の男が待っていた。

 オールバックに撫でつけたシルバーグレイの髪と口髭、モノクルを付けた執事――見間違える筈もない。

 重症のぎっくり腰により、長期静養に入っていた執事のパーシーだった。

 

「……パーシー!」

 

 感極まって、停まった馬車から勢いよく飛び降りる。一礼し掛けたパーシーに駆け寄り、その手を取って再会の喜びをぶつけた。


「久しぶり! 会えて嬉しいよ! 元気だった? 腰はもう大丈夫?」

「奥様、お久しぶりでございます。奥様も、お元気そうでなにより……。ゆっくり静養させて頂いたお陰で、完治致しました」


 穏やかな微笑みと落ち着いた声――懐かしさが込み上げる。こんなに長くパーシーと離れていたのは初めてのことだった。胸の奥がじんと熱くなる。


(ちょっと窶れたかな? でも顔色は悪くない)

「長い間、お勤めを休んでいて申し訳ございません。これからはまた、誠心誠意奥様のお役に立てるよう、勤めさせていただきます」

「ありがとう! パーシーが復帰してくれて本当に嬉しいよ。でも、無理はしないで、辛くなったらいつでも言ってね」

「ありがとうございます」


 微笑むパーシーの姿に、元の世界での父親と重なった。こんなにダンディーな父親じゃなかったけどね。


 パーシーに導かれて屋敷に入ると、エントランスホールに複数の人影があった。

 ニーナを中心に、左右に立つヨツバとミツバ。三人の背後には彼女たちの世話係りとしてつけていたメイドのメラニー。メラニーの横には見知らぬ執事服の少年……誰だろう? 新しく雇った子か、ここの管理人の子供かな?


「お帰りなさいませ、奥様」

「お帰りなさいませ、アマーリエ様!」「お、お帰りな()()いませっ」「「お帰りなさいませ」」


 ニーナの音頭を皮切りに、ヨツバの元気の良い声と噛んだミツバの声、メラニーたちの声がそれぞれ重なった。うーん、見事にバラバラ。


「皆、久しぶり! 変わりはなかった?」

「はい、奥様のお陰で恙無く過ごさせて頂いておりました。ありがとうございます」


 そう言って一礼するニーナ。彼女も怪我のため療養していた身の筈なのに、そんなことを感じさせない綺麗な動作に思わず感心してしまう。


「ニーナさんも回復されたのですね。お元気になられて良かったです」

「はい、その節は本当にありが……」

「アマーリエ様! お会いしたかったです! お怪我はございませんでしたか? 私は心配で心配で……!」

「ヨツバ」


 目をキラキラさせて元気よくグイグイと前に出てきたヨツバ。しかし、ニーナの鋭い声に「あ……」と小さく声を漏らして悲しげな顔でしゅんとなる。

 ……こんな感じだったっけ、この二人?


「奥様、わたくしの躾が至らず、醜態を晒してしまい申し訳ございません。奥様がご不在の間、奥様に恥をかかせぬようにと二人には目上の方に対しての接遇を学ばせたつもりなのですが、まだ足りなかったようで……」


 ああ、成程。私がいない間にニーナが教育してくれたのか。確かにニーナは貴族にも豪商にも使えていた使用人のスペシャリストだもんね。

 だからか。ミツバの方は緊張からなのかカチンコチンになっている。


「いや、気にしていないですよ。子供は元気が一番ですからね。帰ったらハグの一つでもしてもらえるかとちょっと期待してましたが……」

「いいんですか!?」


 軽い冗談のつもりで言っただが、直ぐ様反応したのはやっぱりヨツバ。いや、ミツバも目を輝かせてソワソワしだした……え、そんな期待する程に私とハグしたいの? なんで?


「こ、これ! ヨツバ! 何を……!!」

「まあまあ、ニーナさん。私は構いません……というか私から言い出したことなので。おいで、ヨツバ、ミツバ」


 姉妹の前に膝を折り、両手を広げる。

 ヨツバとミツバは顔をパアッと輝かせて一旦顔を見合わせると、弾丸のように私の胸に飛び込んできた。

 小さな体を抱き止め、両腕に力を込めて二人を抱き締める。汗と石鹸の匂いが入り交じった、子供独特の香りが鼻を突いた。


 こんなにこの子らに好かれるようなことをした記憶はなけど、嫌われるよりは全然いい。


(ああ、なんか凄い多幸感……自分の子供ができたらこんな感じなのかな。早く結婚して自分の子供が欲しいなぁ)

 

 そんなことを考えながら、四本の腕が私の体をぎゅっと締め付ける力に心地良さを感じていると、ふと視線を感じて視線を向ける。


 微笑ましそうに見つめるパーシー、苦笑いながらも嬉しそうなニーナ、両手で頬を包みながら「はわ~……」と笑顔のメラニー。

 そして、何処から取り出したのかハンカチを噛み締める少年執事……なんだこいつ。


 短い青髪をオールバックに撫で付けた目付きの悪い少年執事は、私と目が合うと慌ててハンカチ懐にしまい、ピシッと背筋を伸ばしたかと思うと、深々と頭を下げてきた。


「お帰りなさいませ、奥様。奥様の無事のご帰還、心より安堵しております」


 ……ん? なんか聞き覚えのある声……。

 しかも、この世界でじゃない。元の世界でだ。

 でも、私の家族や友人知人にはこんな美声はいなかった。

 可能性があるとしたら、アニメやゲームでだけ……。


(ん? ……ゲーム? ……まさか)


 頭に浮かんだ騎士服姿の青年と、目の前の少年の姿が重なる。

 

「……ニーヴェル?」

「はい」


 恐る恐る尋ねると、少年執事――いや、執事服に身を包んだニーヴェルが、自身の胸に手を当て、畏まった様子で肯定してきた。


 ……………………………………はあああああ!?


 これがあのクソガキニーヴェル!?

お読みいただき、ありがとうございました(*^^*)

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