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どうやら悪逆非道の女領主に転生したようです。目の前には将来私に復讐する子供達がいます。どうしよう  作者: 福 萬作
第二部

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画伯

いいね、ブクマ、感謝です!

 私の脳裏に浮かんでいるのは、屋敷に置いてきた濃紺髪を持つクソガ……生意気な少年――ニーヴェル。


 まさかはとは思うけど、ルトが探してるのってニーヴェルとヨランダのことじゃないよね? 手紙に書いてあった『子供を探すフードの集団』って、初めてルトに会った時の集団の姿そのものだもん。


 え、待って。じゃあルトって国内に侵入した敵国の間者の一人ってことになんの? しかも殺戮帝王の甥になるの? こんなに純粋無垢でキラキラしてる子供が? 


 でもってルトが言ってることが本当なら、殺戮帝王ことニーヴェル父は今病床にいて、純粋な心で愛する妻と子を探そうとしてるっての? それかなりお涙頂戴の話じゃないか? それなら会わせるのもやぶさかでは……。


(……待て待て。所々辻褄があってないじゃん)

 

 結婚するつもりだったけど事情があって引き裂かれました、は合っている。

 でもヨランダはニーヴェル父が国に帰って以来音信不通だって言ってたし、そもそもニーヴェルの瞳は明るい水色だ。全然違う。


 実はヨランダがフェイクをいれてる? それともガチで別人?


 てかそもそもヨランダはレイナードに対してめっちゃ怒ってて、金銭のことがなければ全く会いたがってなかったし、私が勝手にばらしていいわけないよな……。

 

「大好きな伯父さんのこととはいえ、ルトの両親はよく捜索を許可してくれたね。あ、もしかして一緒にいた人たちは両親や兄弟なのかな?」

「いえ、家族ではないです。けど、本当の家族みたいに仲のいい者たちです。父様や兄も伯父の様子には心を痛めていて、皆捜索に協力してくれています」

「そうなんだ。今日はその人たちは?」

「今日は近くの山に行っていて別行動です。山に住んでる人が手がかりを持っているかもとかで探しに行ってます」


 ……うーん、判断がつかないな。


 見たところルト自身に悪意はなさそう。だけどもよくよく思い出してみたら、あの時いた周囲の者たちは明らかに統率されているような動きだった。特に私と会話した青い目の大男……漂っていた強者感は絶対素人じゃなかった。

 

 もう少し情報を引き出したいけど、下手に深掘りしたら警戒されるかも? ここは一旦話を戻してみる。

 

「ちなみに伯父さんが病床で呼んでいたっていう女性はどんな人だったの?」

「屋敷の使用人として働いていた女性で、名前はジェマと名乗っていましたが偽名だったそうです。本名はわかりません。髪の色を染めていた形跡もあって、容姿も美しい人だったのですが、周りとはあまり交流しない人だったらしいです」

 

 使用人。やっぱりヨランダじゃないっぽい? ならルトは帝国人じゃないのかな。


「一応、伯父の描いた絵姿を貰っていますが……」

「え、いいじゃん。かなり重要な手懸かりじゃん。見せてくれる?」

「はい。でも、みんなには他人には見せるなって言われてるのですが、アマーリエ様には特別です!」

  

 ルトは意気揚々と四つ折の紙を差し出してきたので、素直に受け取って中を見る。


「……ナニコレ」


 果たして、そこに描かれていたのは、辛うじて人間の形を取ってはいるものの、決して人間の顔ではなかった。

 

 髪は重力に逆らって立ち上がり、目は魚のように生き別れ、鼻はツンと尖って輪郭から飛び出している。阿呆のように開きっぱなしになっている口には牙が生えていた。

 

 画伯だ。正に画伯の絵だ。画伯がこの世界にもいたんだ。込み上げる笑いを堪えながら、感動を覚える。

 

「……一応確認だけの、伯父さんの恋人ってホントに人間? 魚人とかじゃなくて?」

「人間ですっ! ……多分」

「……ぶはあっ!」


 横から覗き込んできたイーロンが盛大に吹き出し、床で笑い転げ出した。私だって我慢してたのに、こいつ……! 

  

「ん、んん~……これじゃあちょっと探すのは難しいんじゃあないかなぁ~?」

「やっぱりそうですよね。世界は広いから、もしかしたらこういう人もいるのかなぁと思ってたんですけど」

「ってか、これは美しいの?」

「伯父にとっては『美しい人の絵』らしいです」

「ふ、ふーん……なかなか個性的な美的センスがあるみたいだね……」

「そうなんです。だからこの絵姿は人に見せていません。僕の御守り代わりです。辛いときにこれを見ると元気が出るので」

「確かに元気出そう。ちょっといいな、その絵」

「! じゃ、じゃあ伯父に伝えておきますね! 描いてもらったらアマーリエ様の元に届けます!」

「え、あ、うん、ありがとう……。と、兎に角、私じゃあ力になれそうにないや。ごめんね」

「そんなことありません! アマーリエ様にお会いできたことで僕は元気とやる気を頂けましたから! 是非()()()()()長いお付き合いをお願いしたいです!」

「……きっとルトは伯父さんに似たんだね」


 きちんと振ったつもりだったんだけど……でももしルトが大きくなっても私が独り身で寂しく暮らしてるときに同じこと言われたら落ちちゃうかもなぁ。

 

 そんな未来を想像していたら、不意にバルコニーの出入り口の方が騒がしくなる。


「ですから! ここにあたくしの可愛い可愛いご主人様がいらっしゃるのですわ! その方を迎えに来ただけですの! いい加減通してくださいな!」

「ですから、今ここは立ち入り禁止なんです! お下がりください!」


 可憐な女声と、真面目な騎士の声が扉越しにぶつかり合っている。どうやら通す通さないの押し問答が続いているらしい。


「……可愛い可愛いご主人様? ……もしかしてル」

「――ああもう、うぜぇな! 退けっていってんだろうがごるぁあ!!」


 先ほどまでの甘ったるい女声が一転、男の巻き舌声が空気を切り裂くように響いた。

 

 かと思ったら、バルコニーの扉がバンッ! と勢いよく押し開けられる。咄嗟にイーロンが私を庇い立ってくれたが、背中越しに覗き見た。

 

 現れたのは、鮮やかな緑色の髪をドリル巻きにした、迫力のある美人さん。派手なドレスの裾を持ち上げながらズカズカとバルコニーに侵入してくるが、全然荒々しさを感じさせない上品な足さばきだ。


「おい! 一度ならず二度までも容易く人を侵入させるとは何事か!」

「も、申し訳ございませんーっ! 押しきられましたぁ!」

 

 眉を吊り上げたイーロンが、出入り口で萎縮している別の騎士を怒鳴り声を向ける。どうやらこの美女、正面突破というより圧で突破したらしい。

 

「ヴィー!」

「まあまあ、ルト様! ようやく見つけましたわ! ヴィーはもう心配で心配で心配で心配で心配で仕方がありませんでしたわ!!」


 ヴィー。ルトが嬉しそうに呼び掛けて駆け寄っていく。

 その名前を耳にして、美女を視界に捉えた瞬間、ビビビっ! と頭に電撃が走……いや、ギャグじゃなくてマジでね?


 兎に角私は思い出した。思い出したのである、とある出来事を。


(こ、この女……いや、女に見えるこの()は、攻略対象の一人、トラヴィスじゃん!! じゃ、じゃあ、トラヴィスが主人と仰ぐルトってもしかして、女好きのフィリベルト・リンドブルム!? クロ約の≪破滅コンビ≫じゃんかーーーー!?)

お読みいただき、ありがとうございました(*^^*)

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