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どうやら悪逆非道の女領主に転生したようです。目の前には将来私に復讐する子供達がいます。どうしよう  作者: 福 萬作
第二部

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突然の花束

いいね、ブクマありがとうございます!

話の流れは大きく変わらないけど、気持ち的に章を分けてみてます。


 鐘楼の音が、澄み渡った青い空に響き渡った。

 集会場前には数えきれない程の人々が集まっていて、その時が来るのを今か今かと待ち構えている。


 溢れる笑顔と笑い声で彩られている。その中心部では、今日主役である花嫁と花婿が仲睦まじい姿を披露しており教会前の街道には、新たな若夫婦の誕生を心から喜び、祝福の声を上げ、感動の涙を流している人々でごった返していた。 

 その中には私がこの山間の町に来る切っ掛けとなった執事補佐の男が声を上げて大泣きし、周りの人間に慰められている姿が見受けられる。

  

 そんな様子を、私は集会所二階のバルコニーから見下ろしていた。

 本当なら、結婚式を挙げた若夫婦こそがこの場にいて祝福を受けるべきなのだが、人々とより近い場所で喜びを分かち合いたいという若夫婦たっての希望によりバルコニーは開放されている。そこに、私とイーロンがいて、人々の様子を静かに見守っている。

 

 今回の結末を端的に語ってしまえば、執事補佐の故郷であるこの町のいざこざは、私の到着によりあっさり片が付いた。

 

 原因は代官(五十代半ばのハゲちびデブ)の横暴だ。長い間代の官権限を利用してやりたい放題、そしてやはり町民たちの領主への陳述は裏で手を回して握り潰していたようだ。

 

 今回、執事補佐の歳の離れた妹(十代半ば。恋人有りのふわふわ系の美少女)が代官の目に止まり、無理矢理結婚させられそうになったことが町民たちの怒りの起爆剤となったらしい。

 

 代官一派VS町民という構図が出来上がり、暴動も起き掛けていたが、代官側にいた心ある官吏たちや一部の兵士たちがなんとか食い止めていた。そのお陰といっていいのか、町長が息子である執事補佐へ送った手紙が無事彼のもとに届いて事が発覚、我々の派遣へと相成ったのだ。

 

 到着早々、代官は賄賂で私を丸め込もうとしたが、生憎と私は賄賂を受け取らないちゃんと話を聞く領主。双方の話を聴きながら、心ある官吏が密かに集めていた証拠を元に代官とその一派の罪は明らかとし、信賞必罰、鉱山送りとあいなった。ちなみに新たな代官は心ある官吏のリーダー的存在だった男に任命している。

 

 風雲急を告げる状況ではあったが、スピード解決して本当に良かった。


 一件落着した今日この日、正当な判断を下した名領主として感謝されまくった私が、街に帰る前に結婚式を挙げると決めた二人にお呼ばれしたのである。

  

 本来なら夫を亡くして数ヶ月の領主を前にして

祝い事なんてもっての他なんだけど、この山間部の面々は政治に疎いようだ。私が未亡人であることも結婚していたことも知らず、なんなら『こんな若い娘さんが領主様だったのか』と驚かれたし。

 

 慌てて式を延期させようとした執事補佐に、喜んでいる所に水を差すつもりはない、こちらの事情に彼らは関係ない、として結婚式を執り行ってもらい、今に至る。

 

「いやぁ、あの二人がちゃんと結婚できて良かったですね……」

「そうだね……」


 上ずった声でそう言うのは、私の傍に控える護衛筆頭であるイーロン。彼とは外出するときにしか関わらない筈なのだが、とても気さくに話し掛けてくれる。赤の他人の結婚式で泣けるなんて、物怖じしないだけでなく、感受性の豊かな男のようだ。


「私の子は長男以外は全て娘でして。まだ相手もおりませんが、やはり娘を持つ身としては感情移入してしまうものです」

「え……イーロン、結婚してた上に子供までいたの?」

「はい、二十年ほど前に。子は七人おります」

「多いね? なかなか夫婦円満なようで何より。ご家族もこちらに?」

「いえ、王都におります」

「お、王都?! え、ちゃんと家族に会いに帰っているんだよね……?」

「……いえ、私には奥様を守護する役目がございますので。家は妻と長男に任せておりますので、大丈夫です」

「そ、そう……」


 イーロンにも家族いたのか……まあ、彼は確か侯爵家の出の歳も四十歳くらいだし、そりゃいるか。でも飛行機も新幹線もない世界の、遥か遠方に家族を置いて出張なんて、寂しいよな……。

 それにしても、娘六人……女だらけの家で、なかなか大変そうだな、長男。折を見て長期休暇を上げないとね。


 彼の返答に含みのある間を感じたが、いくら上司と言えど家庭の事情に踏み込むのは良くない、というかニッコリ笑顔が踏み込ませない気概を感じたのでこれ以上の追求を止め、結婚式に視界を戻す。 


 圧政に苦しめられ、解放された人々の喜びは凄まじい。大声で笑い、花が舞い、音楽が奏でられ、それに合わせて老若男女を問わず踊り回り、楽しげな光景。花や楽器を持っていた手に武器を持っていたつい先日の光景とは売って変わって幸せそうな光景だ。

 そして、苦難を乗り越えついに結ばれた二人の幸せいっぱいな様子に心がほっこりとする。


 (……いいなぁ~~~~!!)

 

 そんな光景を見て、私が感動よりも強く感じているのは深い羨望だった。

 

 だってアマーリエとライニールの結婚は豪華ながらも参列者は身内だけ、喜んでいたのはアマーリエだけというめちゃくちゃ悲しい式だったんだよ?

 

 それに比べて、質素でも町中の人々から心からの祝福を受けているこの式が羨ましくない婚活女子はいないだろう。……一部豪華な結婚式も望む人は除く。

 

(私も早く皆から祝福される結婚したいよ……。なんで平和な再婚目指して、円満かつ熨しつけて帰した筈の六分の三が戻ってきちゃってる訳? しかもどっちも面倒ご……大事抱えてるし……)


 面倒事も大事も同じ意味合いとはいえ、前者はネガティブ感が強いので誰に聞かれなくとも言い直す。


(あ~あ、私にもこの苦難を一緒に乗り越えようとしてくれる結婚相手現れないかなぁ? 見た目とかある程度気にしないから、頭が良くて仕事を手伝ってくれて、私を最優先で考えてくれて、ちゃんと好きって言ってくれるような……)


 ライニール(元旦那)とは真逆の性格な男の登場を空想しながら、小さく溜め息を吐いた時だった。


「お姉さん!!」

「ひいっ!?」


 背後から掛けられたかなりの大音量に、全身を飛び上がらせてから振り返る。

 それと同時に、私の視界はカラフルに染まり、甘い香りが鼻から入ってきた。それが色とりどりの綺麗な花束であることは自動的に理解する。

 

 私の視界を覆い隠すような大きな花束を差し出している人物がいる――その相手を確認するために少し体を横にずらすと幼い顔立ちの少年が目に入る。

 

「え、だ」

「好きです! 僕と結婚してください!!」


 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 ……………………

 

 …………………………は?

 

 誰何する間も無く物凄い勢いで紡がれた言葉に私の時間は止まった。


 あの、聞き間違いでなければ、私今、告白されませんでしたか?


 思わず心の中で問いかけたか答えが返ってくるわけでもなく。


 耳がおかしくなったのかと思って、反射的に耳を引っ張った。痛い。痛みを感じるから異常はないようだ。

 いやいや、落ち着け私、今のは幻聴……では、ない。だって目の前にいる花束持った少年いるし。

 

 緊張からか筋肉量が足りてないのかはわからないが、真っ赤な顔で花を差し出しながらふるふると震える様子に、思わず胸がキュンとなる。 


「……お、おい、お前、何のつもりだっ。奥様から離れろっ。どこから入ったっ」


 そんな私と少年の間にイーロンが割って入る。そうだよね、警戒するよね? だってこの子、知らない子なんだもの。でもちょっと遅くない?

 ちなみに一緒に来た鎮圧部隊の兵たちは巡回という体で祭りに参加させている。私の護衛はイーロンと数人の騎士たちが固めていて、イーロン以外は見えないように護ってくれてたはずなんだけどな……?

 

「僕はお姉さんに求婚しているんだ! 邪魔をしないでくれ!」

「き、求婚んん!? おま、何を考えているっ! この方を誰だと思っているんだ!」

「イーロン、しー!! 声が大きい!」


 最初こそ階下の様子を踏まえて声のトーンを落としていたイーロンだが、少年の突拍子もない台詞に声が大きくなる。慌てて止めに入るとイーロンはハッとしながら口元を手で覆った。幸いなことに、イーロンの大声は祭り騒ぎで掻き消されたようで、人々がこちらを気にする様子はない。

 

「そんなの関係ない! 僕はお姉さんがどんな立場だったとしても好きなんだ! お前みたいな年寄りには負けないぞ!」 

「と、年寄りっ? お、俺はまだ四十だぞ、失礼なっ!」

「僕からしたら十分年寄りだ! 僕の方が若いし、お姉さんと年が近いんだから、僕の方が魅力的でお姉さんと釣り合っているに決まっている!」

「な、なんだとっ! お前のような子供が、大人の男の魅力と張り合おうなどと百年早……」

「すとぉーっぷ! 一体なんの話で言い合おうとしてんのイーロン!?」


 おかしな方向に論点がぶっ飛んでいる言い合いに、思わず割って入った。

 

「ちょっと、ふたりとも一旦落ち着いて? まず順番に話そう?」


 ふたりとも勢いを残したまま、互いを睨みつけていたが、なんとか口を閉じてくれた。


「……で、君。まずは名乗ってくれる?」

「……僕のこと、忘れてしまったのですか……?」


 花束を抱えた少年に視線を向ける。

 すると背後にガーンと擬音が浮かんでそうな悲しそうな顔でそう呟く少年。


 え、前アマーリエの知り合い?

 思いだそうとするが記憶は甦らない。アマーリエにとっては取るにたらない人物だったか、それとも私が会ったことのある人物か……。

 でも私になってから、ミツバらゲームのメインキャラたち以外の子供たちと知り合う機会なんてあったか……?

 そう思いながら少年の顔をジロジロと見ていたが、パンジーのような濃い紫色の髪を見てようやくピンとくる。


「……人質少年……?」

「そうです! ちゃんと覚えていてくれたんですね!」


 恐る恐る尋ねると、花が咲いたように笑顔を浮かべた少年。純粋無垢なキラキラ笑顔が眩しいぜ。

お読みいただき、ありがとうございました(*^^*)

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