ニーナと話
いいね、ブクマ、ありがとうございます♪
「……と、言う感じに、お宅のお孫さんは元気にやっていますよ」
「なんと……孫たちが大変な無礼を……申し訳ございません……」
明くる日。
姉妹の祖母であるニーナの回復と面会許可が医師から下りたので客間に呼び出した。
テーブルを挟み、向かい合わせでソファーに座る青白い顔をした覇気のないガリガリの小柄な老婆、ニーナ。
ライニールと共に死んだ愛人の母だが、ゲームでは名前すら登場しないので前知識が無く、間諜が調べてくれた情報しか知らない人物だ。
初めて会ったときと同じであろう着古したワンピースを着ているようだが、ヨツバの言う通り、支給した金は安全を買うために使っていたのだろう。それだけで人柄が少しはわかる。
先日の姉妹とのやりとりを話すと、眩暈でも起こしたように頭を抱えて謝罪された。
「いや、貴方がたは非常に協力的で助かっているので、些細なことは気にしていませんよ」
「寛大なお心遣い、感謝いたします」
「では、本題に入らせてもらいますね。貴方の身元は大体把握していますが、確認させていただきます。構わないですか?」
「勿論にございます。何なりとお聞きください」
「では、ニーナ。貴方は生まれも育ちもここ、バルカン領。若い頃から旧バルカン伯爵家にメイドとして使えていたが、三十年程前、バルカン家で起きた事件により、一家全滅となった前バルカン家は没落……」
旧バルカン伯爵家――私の前にこの地を治めていた正真正銘のバルカン一族のことだ。
事件というのは、当主夫妻と幼い娘、生まれたばかりの男児が侵入者に殺されるという悍ましい事件である。犯人はその場で捕まったが気狂いだったらしく、犯行動機はわからず、結局は突発的な行動とされて処刑されている。
犯行現場は屋敷となっているが、今住んでいる屋敷は一度壊されて新しく建て直された屋敷なので、敷地内ではあるけど今の屋敷のことではない。よかった〜。
「職を失った貴方は親戚の伝手を頼って王都で商家のメイドとして仕事を始める娘さんはその頃にお生まれになったようですね。長い間王都で働いていたが、四年ほど前に大病を患い、静養する為に離職。故郷の村で娘さんと姉妹と四人で暮らしていた……簡単に纏めさせていただきましたが、お間違い無いですか?」
「はい、その通りにございます」
ちなみに、ニーナの旦那の名前は無く、不明と記載されている。
まーた『とあるやんごとなき一族』とか言わないよな? もう止めてくれよ~?
「ありがとうございます。それでは、娘さんのことについてお伺いします。一応、こちらでもある程度は調べがついてますが、貴方の口から、全てお聞かせ願います」
「は、はい……領主様にとってはかなりご不快な話になりますが、宜しいのですか……?」
「構いません。断っておきますが、今の私は亡くなった二人に対して恨みも悲しみも抱いておりません。あるとすれば、お悔やみくらいですね」
「……恐れ入ります。……では、少し長くなりますが……」
私の返答に、ニーナは眉間に皺を寄せたが特になにか言われないまま語り出される。
「娘の名前はアンナ。年は今年で二十九歳……でした。父親は……お恥ずかしながら、酒場で出会った旅芸人の男でして、今はどうしているかわかりません」
あら、行きずりの相手なの。やんごとなくてよかった。
てことは、ヨツバは十九、ミツバは二十で産んだのか。前世では早い方だけど、この世界ではちょい遅い位だ。
対してニーナは現在五十四歳。アンナを生んだのは嫁ぎ遅れと言われる二十五歳で、結婚もせずに子どもがいるというのは周囲の目が痛かっただったろうに。だいぶ老けて見えるのは苦労してきた証拠だろう。
「アンナは可愛らしい見た目とは裏腹に、非常に勝ち気な性格で、口も腕っぷしも強く、男の子との喧嘩は日常茶飯事。その割には男女問わず好まれる性格で、あの子の周りはいつも賑やかでした。……ただ、少しだけ繊細な機微を読むのと家事全般が不得手でして、私と同じメイドの道に進むには難のある娘で……本人もそれを自覚していたのでしょう、娘は十一歳の時、私に断りもなく騎士団に入団致しました」
そう、意外なことに姉妹の母アンナ、正確には『騎士見習い』だが、一応元騎士団員なのだ。
初めて報告書を読んだときは「女騎士!? 愛人なのに!?」と思っていた愛人像を覆されて驚いたものだ。
「勿論、私は反対したのですが、言い出したら聞かない子で……。幸い、娘は才能があったようで騎士団内では実力者として名を上げていたようです。……ライニール様のお話が出るようになったのは、娘が十四の頃のでした」
ライニールの名前が出たところで伺うような表情で私を見るニーナ。最初に言った通り、特に感情は動いていないので相槌を打って先を促す。
「……その頃、ライニール様はアンナの同僚女性と交流があったようで……『同僚が凄い美形と付き合ってる』という程度の話を聞いたのが初めてでした。とはいえ、あの子からは色々な方々の話を聞いておりましたので、ライニール様に特別焦点が当たっていたというわけではありません。娘も他の男性とお付き合いしていることがありましたし……。……だから、娘からライニール様との子を妊娠したを告げられたときは、本当に衝撃でした。忘れもしません、あの子が十八のとき、騎士見習いに昇格してから、しばらく経ってからでした。どうやら昇格祝いの宴をした夜に、偶然酒場で出会って、勢いで……蛙の子は蛙とは、よく言ったものですね」
恥ずかしそうに苦笑するニーナ。悪いけど、今それ私も思ってた。シチュエーション一緒じゃん、て。
「失礼ですが、責任を取ってもらおうとは考えなかったのですか?」
「こちらは平民、相手は大貴族な上、あのライニール様。結婚を反対されるのは目に見えております。娘の性格を考えても、万が一結婚できても幸せには程遠いものになったでしょう」
「なるほど」
「娘は妊娠発覚後すぐに騎士団を辞職し、一人王都を離れました。私も付いて行きたかったのですが、その頃世話になっていた家の娘が生んだ子の乳母を仰せつかっていたので、辞めるに辞めれず……。娘は友人の世話になるから一人で大丈夫と、行き先も告げずに旅立ちました……」
うん、そのあたりも調査結果にも行き先不明、要調査続行と書いてあるんだよね。
「尋常じゃないくらい行動力のある娘さんですね。どこに行っていたのかご存知ないのですか?」
「申し訳ございません、それは本当にわからないのです。一方通行で手紙が送られてきて、こちらから返事を書くことはできませんでしたので……」
ニーナなら教えてくれるかもって思ってたけど、本当に知らないのか、実は知っていて隠しているのか……じっとニーナを観察してはいるが、嘘を吐いているようには見えない。
「そうですか……それはさぞや心配したでしょう」
「ええ、はい……。ですが、月に数度、娘から手紙がくるのでそれで安心しておりました。そんなアンナが戻ってきたのは五年後。突然、何の前触れもなく帰ってきたかと思えば、子供は二人に増えていました。ヨツバはともかく、ミツバは誰の子か尋ねても『ライニール様の子でないのは確か』と言うだけで教えてくれません。だけどミツバは赤ん坊の頃の娘そっくりで、自分の娘だというアンナの言葉には疑いを持つことはありませんでした」
やっぱミツバってライニールの子じゃなかったんだ。
その頃のライニールは二十一歳で、自由奔放していた頃。ワンチャンあり得なくもないけど、本人が父親じゃないって言ってるし、なんとなく私もその言葉に納得した。
お読みいただき、ありがとうございました!




