姉妹の今後
進行の遅い拙作にいいねくださる読者様がいてくださって本当に嬉しいです(嬉泣)
メラニーは私達を見るとさああと顔を青くした、かと思ったら綺麗なスライディング土下座をかましてきた!
ロングスカートだし重厚なカーペットだからまだいいだろうけど、普通に摩擦で痛そう。
「おおおお奥様! 申し訳ございません! 私が少し目を離してしまったばっかりに、お仕事の邪魔をしてしまい本当に申し訳ございません!! 二人は悪くないです、すべて私の職務怠慢によるものにございます! 罰を与えるのであれば私にお与えください! 申し訳ございませんでした!!」
「怒涛の謝罪ラッシュすごいな!? い、いや別に怒ってないし、罰も与えるつもりはないよ。次から気をつけてくれたらそれでいいから。それよりも足大丈夫?」
「大丈夫です! 鍛えてますので!」
「そ、そう。じゃあほら立って。子どもたちの教育に悪いし、土下座されるのは気分が良くないから」
「え、あ、そんな、自分で立てます!!」
遠慮されたが有無を言わさず手を掴んで立たせる。メラニーははわわはわわとしていたが、乱れたスカートを直そうとすると「そんなことはさせられませんんんんん!!」と瞬歩でもしたかのように後ろに下がって距離を開けられた。元気な子だなあ。嫌いじゃない。
「お仕事の邪魔をしてしまい、本当に本当に申し訳ございませんでした! 以後気をつけます! さあヨツバちゃんミツバちゃん、お部屋を出ようね!!」
「あ、ちょ、メラニーさん、ちょっと待って! まだアマーリエ様に聞きたいことがあるの!」
聞きたいこと?
飛ぶように距離を詰めたメラニーが姉妹の手を取って引きずるように部屋を出ようとした。が、その手を振り払ったヨツバが不安な表情で私の下に戻って来る。
「何? 何が聞きたいの?」
「はい。あの……私たち、これからどうなるんでしょうか……?」
「それは、ひとまずは君たちのお祖母様やトリスタン家……ライニール様のご実家と話し合ってから決まるから、まだなんとも言えないかな」
「話し合い……それは、いつ決まるんですか?」
「手紙の返事を待ってるところだから、まだわからない。この状況に不安を感じてる気持ちはわかるけど、悪いがもう少し待っていてくれ」
「……そう、ですか……」
「そんな不安がらないで。ちゃんと最終決定は君たちが出来るように取り計らうつもりだし、悪いようにするつもりはないから安心してほしい」
泣きそうな顔で視線を落としたヨツバの頭を励ましの気持ちを込めて撫でる。ヨツバは驚いたようにハッと顔を上げて、泣くのを堪えるような顔をしてまた俯いた。
「さあさあ、メラニーに仕事をさせてなきゃいけないからもう行きな。心配しないで、子供は子供らしく、元気に遊……」
「お願いがあります! 私をここで働かせてください!」
遊んでな、と言おうとしたのを遮り、勢いよく顔を上げたヨツバが声を張り上げた。
なんか某有名アニメ映画の名シーンが頭を過る。
「働かせてって……なんでまた、急に」
「私たちが襲われたの、私のせいなんです! おばあちゃんとミツバに、これ以上迷惑をかけたくないんです! だから、お願いします!」
「よ、ヨツバ! 土下座なんかしない! 落ち着いて! まずは理由を聞かせてもらえる?」
早速さっきの悪影響出てるやん!
言うや否やその場で土下座したヨツバを抱き上げて立たせ、同じ行為をしないよう小さな両肩を軽く掴みながら尋ねる。
「……アマーリエ様から見て、私ってどんな風に見えますか?」
「どんな風? 控えめに言っても美少女かな」
「だからなんです、私たちが襲われたのは……」
「……ああ、そういう」
それだけで言いたいことは想像できる。
幼さはあれどライニール似の美貌を受け継いだ、美少女の中でもトップレベルの美少女。邪な思いを抱くものは少なくないだろう。
貴族であれば金と権力に物を言わせて不埒な輩はそう簡単には近づけない。だが、ヨツバは守るすべのない平民……今まで良く無事だったな。
「前までは、お母さんとお父さんがどうにかしてくれてたから、何もなかったんです。でも、二人がいなくなったら、村の人達がおかしくなって……。おばあちゃんが、怖いことが起きる前に、お父さんのお父さんたちに助けてもらおうって、村を出ました。でも、村を出てからも嫌なことがあって……このままじゃ、お父さんのお父さんの所に行く前に、ひどいことなるから、アマーリエ様の力を借りるしかないって、おばあちゃんが……」
「わかった。嫌なことを思い出させて悪かったな。そうか……」
成る程、母親とライニールがね……。ちょっと意外に思ったけど、自分によく似た娘だし、実の子供だと思って守ってたのかも。
仮にもライニールの正妻をライニールの子供を連れて頼るのってどうなのって思ってたけど、一応最初はトリスタン家頼ろうとしたのか。きっと何度も何度も危ない目に遭って追い詰められた末の決断だったんだろうな。
手紙出せばよかったんじゃない? とも思ったけど、平民が高位貴族に手紙を出すって金と運が必要だ。無理か。
「話はわかった。とはいえ、今君が働く必要はない。大人の話し合いが終わるまで、子供らしくのんびり遊んでいなさい。以上、この話は終わり」
「あ……」
小さな肩に叩き、終わりを告げて踵を返す。引き留めるような小さな声が聞こえたが、扉の開く音に遮られた。
「失礼します、アマーリエさ……!? 何をしているのですか、お前たち!」
「ひぃっ! きゃ、キャロライン様!」
入ってきたのは、ティーセットを乗せたワゴンを押して戻ってきたキャロライン。ヨツバたちの姿を見るや否や怒鳴り声を響かせた。
真っ先に怯えた声を上げたのはメラニーで、驚いて飛び跳ねた姉妹は各々私とメラニーの後ろに逃げ隠れる。
「ああああ、なんと、アマーリエ様に無礼な! お前! その者をアマーリエ様から離しなさい!!」
「はいぃっ! 畏まりましたぁっ!」
「ここはお前たちが容易く入って良い場所ではありません!! お前は子どもの面倒も見れないの?! アマーリエ様の身に何かあったらどうするのです!?」
「ももも申し訳ございません!」
片手でミツバを抱き上げ、俊敏な動きでヨツバも回収して行ったメラニー……小柄なのにすげー腕力だな……。
そのまま二人を連れて部屋を出掛けたメラニーだったが、怒られたらそうするよう刷り込まれてるのか、すぐさま立ち止まってキャロラインに頭を下げる。抱えられる子供たちが逆さまになってしまっていた。
「メラニー! 子供たちが危ないから頭を上げて! キャロラインは落ち着いて……」
「これが落ち着けますか! どこの馬の骨ともわからぬ平民を易々と執務室に入れるなど、言語道断! これが暗殺者だったどうするのです!」
!!?
は、初めてキャロラインに怒鳴られた……!?
ちょっとびっくりして、体びくぅ! ってなった。
「そ、そんな、大袈裟な。この子達はライニール様の……」
「何を甘えたことを言っているのです! そんな本当かどうかもわからない話を本当に信じているのですか!」
「ぐ……だって、ヨツバはライニール様そっくりだし……」
「この世の中、他人の空似などごまんとおります!」
「そ、そうかもしれないけど、ライニール様似の美貌はそうそう居なくない……?」
「それは……!!」
流石にそれはキャロラインでも認めざるは得ないようだ。なにか言い返そうとヨツバを睨み見るが、何も言えなくなって悔しそうに唇を噛んで黙った。
ってか、今までとのギャップがエグいなキャロライン。下手したらパーシーより厳しいかも……。
でも、言ってることは正論だ。ここにはいろんな書類がある。ヨツバたちだからと考えなしに入れてたけど、本来なら無関係な人間の立ち入りを許される場所じゃあない。
ここは素直に反省しよう。
「ご、ごめん、キャロライン。今後は気を付けます……」
「わかっていただけたらよろしいのです」
「はい……。あ、おやつ持ってきてくれたんだよね? ありがとう、キャロライン。そうだ、せっかくだから、別室でみんなで食べない?」
「いいの?!」
「駄目に決まってますでしょう!」
空気を変えようとした私の提案にミツバが喜びの声を上げたが、瞬時にキャロラインが切り込んできた。
「これはアマーリエ様のために準備されたもの、お前たちが軽々しく食べていいものではありません! お前! いつまでそうしているのです! 早くこの二人を連れ出しなさい!」
「は、はいい!! 本当に申し訳ございませんでした! 失礼いたしますーー!!」
叱責を受けたメラニーは、入ってきた以上の勢いで部屋を飛び出していった……。
親睦を深めようと、良かれと思って言ったんだけど、あんなに怒るとは思わなかった……。あの流石にタイミングでのアレはヤバかったか……?
慌ただしさの後に来るしん、と静寂……き、気まずい……。
しかし、メラニーのバタバタとした足音が完全に消えた途端、キャロラインは満面の笑みを私に向けてきた。
「アマーリエ様、お待たせ致しました。お茶にしましょう。お席にお座りくださいな」
「は、はーい……」
何事もなかったかのような見事な切り替え。
これ以上失言しない為、私は素直に席に戻り、差し出されたレアチーズケーキを口にするのだった。
お読みいただき、ありがとうございました(*^^*)
どうでもいいことですが、メラニー初登場は『幕間~部下との距離~』です。




