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どうやら悪逆非道の女領主に転生したようです。目の前には将来私に復讐する子供達がいます。どうしよう  作者: 福 萬作
第二部

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パーシーの陳述1

いいね、ブクマ、ありがとうございます♪

今回ちと長くなってしまったので2つに分けます。


 私の名前は、パーシー・カルシック。

 

 トリスタン公爵家の執事を経て、現在はアーティー王国王女アマーリエ様の降嫁先であるバルカン公爵家の執事長を勤めている。

 

 歯牙ない子爵家の三男坊であった身からすれば、なかなかの出世ではないだろうか。 

 それもこれも、学園時代の級友であったエドガー・トリスタン様のお陰だ。勉学に励み過ぎて人脈を疎かにしていた私だったが、エドガー様に実直さと勤勉さを認められ、直々にお声がけをいただいたのである。

 

 まさか公爵家にお仕えできるとは夢にも思っておらず、卒業後の進路に困っていた私を雇ってくださったエドガー様には感謝してもしきれない。

 私はエドガー様に絶対忠誠を誓い、忠実であろうと努力して今に至っている。


 学園卒業後はエドガー様は幼少の頃からの婚約者であるジュディス様とご結婚。翌年にはご長男のクロノア様が誕生。それからご長女イナベル様、ご次女アネモネ様がお生まれになり、公私ともども順風満帆な生活を送られていた。


 ライニール様がお生まれになったのは、エドガー様が先々代から当主の座を譲られた翌年のことだった。


 当時はご家族だけではなく、我々屋敷中の者が喜びあったものだ。


 御夫婦は整った容姿をしており、御兄姉方もそれをしっかりと受け継いでおいでだ。その中でもライニール様は人間の秀でたところだけを集約したかのような、それはそれは美しいお姿で誕生なされた。神の芸術品さながら美しく成長する幼子を、誰もが公爵家繁栄の象徴だと囁きあったものだ。


 とはいえ、ご夫妻はライニール様を特別扱いすることなくお子様方を平等に愛しておられた。その愛情はお子様方にも確かに伝わっており、皆仲睦まじく、絵に描いたような幸せなご家庭を築いておられた。


 そんな穏やかで平和な日常は、ライニール様の成長と共に、トリスタン公爵家の幸福は下り坂へと転がることになる。


 ライニール様が三歳になると、乳母の手から離れて他のご兄姉と同様の生活を始められた。すると、侍女やメイドはこぞってライニール様のお世話をしたがった。幼いライニール様に微笑まれて奇声を上げる姿がよく見られ、ライニール様に声を掛けられただのお手に触れたなど自慢するような女たちの話声が各所で聞かれ、時には誰が世話に付くかで喧嘩をするという事案も発生。下働きの女たちも一日一度はライニール様を探して仕事を放棄するような出来事も起こったのだ。

  

 異様な空気に気付いたご夫妻は、使用人たちなライニール様ばかりに気を掛けてはいけないと注意されたが、浮わついた空気は変わらず。半年後にはライニール様の世話係は男性のみで固定することとなる。

 

 これが切っ掛けで、事件は起きた。


 ライニール様が五歳の時だ。乳母の娘でもあった十五のメイドが、侍従に金品を渡して下がらせた後、昼寝をなさっていたライニール様を襲った。

 それを発見したのは私だ。本来側に控えている筈の男が裏庭に潜んでいるのを見つけ、嫌な予感がして急ぎ部屋に向かうと、幼いライニール様に覆い被さる半裸のメイド――幸い未遂だったとはいえ、思い出しても吐き気がする出来事だ。

 

 メイドの動機は『一番近くいたのに、離されたのが辛かった。どう足掻いても結ばれない立場にあるから、彼の初めてになりたかった』と、身勝手で下劣極まりないもの。罪を犯したメイドと侍従は島流しとなり、乳母夫婦は責任を取って屋敷を去った。

 

 ご家族は被害者であるライニール様を哀れみ、より一層の愛情を注いで護衛の強化を講じた。その一環として、事件を未然に防いだ私が暫くの間ライニール様の侍従を務めることになったのである。

 

 事件があった後、ライニール様は特段変わりなく、まるで何事も無かったかのように生活しておられた。事件がトラウマになっていないのは良かった反面、そのことに妙な違和感を感じていたが、幼過ぎて事態が飲み込めていないのだと思っていた。


 七歳で公けにデビューすると、ライニール様の周囲にはいつも女性がいた。

 同い年の子供たちの茶会に行けば会場中のご令嬢に囲まれ、大人の介入が無ければご令息方との交流は望めず。

 ご令息だけの交流会を催せば話を聞き付けたご令嬢方が会場に押し掛けてきて、ご令息方の中に入り込んでくることもまま。

 ライニール様を狙い、争いが起きている姿は屋敷の女たちを想起させ、子供たちといえどゾッとしたものだ。


 しかし私がそれ以上に恐ろしく感じたのはライニール様ご本人だ。そんな醜い争いを見せるご令嬢たちを前に、柳眉を寄せて「困ったな」と言いながらも、喜劇でも見ているかのように笑っていた。「止めないのですか?」と聞いても「うん」と返して別のご令嬢と会話するものだから、えもいわれぬ恐ろしさを覚えた。


 思えばこの頃にでもエドガー様に話していれば、未来は変わったのかもしれない。

 しかし、あまりお二人にご心労を重ねるわけには……と話すことを躊躇し、きっと子供だから移り気なだけだと頭の片隅に追いやってしまったことを、私は後に悔やむことになる。

 

 ライニール様の成長と共に増長していった美貌や弁舌は、女たちを見境なく魅了した。年の近いご令嬢だけでなく、妙齢のご令嬢や既婚者にも及び、果ては老女と呼ばれる夫人がライニール様を側に置たがった。出掛ければ街中の女の視線を奪い、中には偶然を装って声をかけてくる令嬢、拐かそうと企む不届き者、偽の結婚誓約書を持ってくるような輩も現れ、公爵家は対策に追われていた。

 

 ご兄姉たちも子供なりに弟君を守ろうと牽制し、努力なさっていた。

 

 しかし、生来大人しく引っ込み思案な性格のアネモネ様は、見当違いな嫉妬を何年も浴び続けた末に心身を疲弊させて病気がちに。療養の為にライニール様が七歳の頃にジュディス様のご実家へ引き取られ、妙齢ともなると婚約者であった辺境伯令息にそのまま嫁いでいった。

 

 クロノア様は悲惨だった。クロノア様は三度婚約成されたが、いずれも解消となっている。理由は全て『ライニール様の方を愛したから』――ライニール様が十三歳の時、三度目の婚約解消となった日、クロノア様はライニール様に切りかかった。

 

 『男としてのプライドを傷つけられた上、初恋の人であった乳母の娘(メイド)を狂わせた弟がずっと憎かった。女を狂わせる化け物』と罵り、ライニール様を溺愛していたイナベル様を大激怒させたのである。

 

 ご長女らしくしっかり者で責任感の強かったイナベル様は弟を護れるようにと武芸を嗜んでいたのだが、それが仇となり、お二人は冗談では済まされないような喧嘩を巻き起こしたのだ。

 

 幸いお三方は軽い怪我で済んだものの、それぞれ距離を置く必要があると感じたエドガー様は、跡継ぎであるクロノア様は領地に残し、イナベル様とライニール様を一時的に別々の修道院に入れるおつもりだった。

 

 だが、ジュディス様に「()()()()()で修道院に入れるのは罰が重すぎる。自分が王都で監視する」と言われ、お二人はジュディス様と共に王都と向かわれたのだが……今にして思えば、刃傷沙汰まで起こした出来事を『兄弟ゲンカ』などと称していたジュディス様も、おかしくなっていたのやもしれない。


 私はエドガー様とクロノア様を支えるベく残ることになり、ライニール様とは再会するのは八年後となる。

 

 正義感に厚く元気な若者だったクロノア様は事件以降陰鬱で無口、また強い意欲の低下が見られ、回復させるには時間と労力が必要だった。

その為、王都にいるライニール様のことは気に留められずにいた。ジュディス様から届く手紙にも、なんの問題も無いと書かれているとエドガー様も仰っていたので、安心してクロノア様をお支えしていたのだが……。

 

 この油断が、また新たな事件を起こしていたのである。

お読みいただき、ありがとうございましたm(_ _)m

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