帰路の再会
いいね、ブクマ、誤字脱字報告、感謝です!
久しぶりの登場なので補足。
乙女ゲー『クローバーの約束』主人公がミツバ。ミツバの亡くなった姉がヨツバで、実はライニールの子(『招かれざる客』で暴露済み)。ニーナは二人の母方のおばあちゃん。
「パーシー。店主に修理費と迷惑料を支払うよう手配を頼む。あと、医療機関や詰め所にも、今回の件で被害者が来たら対応するよう伝えておいて。勿論、諸々の費用はバルカン公爵家が持つ」
「畏まりました」
「あと、急ぎリリーナ・フーリンとゼオン・フーリンの確保も」
「そちらは既に手配済みです」
「流石」
グレッグ・フーリンの逮捕と同時に、最後の攻略対象者であるゼオン・フーリンとの縁が薄まったことを意味する。
まだ完全に切れていないと思うのは、リリーナ・フーリンが残っているからだ。
彼女の境遇には同情するが、それとこれとは別の話。そりゃあ捕まったらなんらかの罰を受けるのは可哀想だが、この状況で逃がすなんて提案を出せるわけもない。
何よりかにより、彼女の口からゼオンがライニールの子でないことを、ゼオンの前ではっきりしたい。でないと、物語の強制力とか運命とかでまたひと悶着ありそうな気がしてならないのだ。
外に出ると、何時の間にか雨が降っていた。御者に傘を差し出されながら、急ぎ馬車に乗り込む。
腰をやってるパーシーも行きと同様向かいに座ると、馬車が発車した。
そんな車内は、重苦しい沈黙が流れている。行きは打ち合わせであれやこれや話し合って盛り上がってた分居た堪れないや……自業自得なんだけどね。
屋敷までずっとこの空気ってのは辛い。先に謝っておこう。
「あの、パーシー? さっきの件は私が悪かった。子供が危ない目に合ってるって思ったら何が何でも助けなきゃと思ってしまって……。軽率だった。心配させてしまって本当に申し訳ない」
座ったままだが頭を下げる。
「頭をお上げください、奥様。主人が使用人に謝罪する必要はございません」
「でも、謝罪は頭を下げるのが当たり前だし……」
「……奥様、それは主に平民か、下位の者が上位の者に謝罪する場合です。……貴方は生まれながらの王族なのに、何処でその知識を学んだのですか?」
「えっ!? あ、そうか……。いや、その……本で……物語で、そういうシーンがあって……」
「…………………………さようでございますか。以後、お気を付けくたさいませ」
「は、はい……」
自分でも苦しい言い訳だってわかってます……! でも何故かパーシーは納得してくれ……いや、全然納得ないけど、無理矢理飲み込んでくれたような表情をしていた。そら本で読んだからって下々の真似事を実践するお姫様いないわな。懐広すぎじゃないかなぁ。
「ただ、一言だけ申し上げさせて頂きます。アマーリエ様は、お生まれ的にとても重要なお方。もし万が一奥様が死ぬことになったら、バルカン領はどうなると思います?」
「え? 次の領主が来るんじゃない?」
ゲームでは主人公と攻略対象が新たな領主に任命されてたしね。
「……アマーリエ様は王と側妃様の愛娘ですよ? そのような方が、今回のようなことで平民に殺されたとなったら、王家の嘆きと怒りは凄まじいでしょうね」
「え? うー……? うん? ……うん、確かに」
そうかな? と思ったが、すぐにアマーリエの記憶が甦って一人納得して相槌を打つ。
「今回のことで例えれば、手始めに私や侍女、護衛をしていた騎士は死罪です」
「え」
「当然でしょう。主を守らずして何が護衛ですか。下手をしたら一族郎党処刑され、御家が断絶する家もあるやもしれませんね。続いて、屋敷に勤める者たちは良くてクビですが、主人の行動を止めなかった咎で、全体責任として重罪になり得る可能性もあります。そしてこの地に住む民は王族の増悪の対象となり、捨て置かれるだけならまだしも、圧政の対象になるやもしれません」
……ジッと目を見詰められながら紡がれた、想像以上に過酷な未来に、絶句した。
私がそんなに沢山の命を背負ってるなんて。全く想像していなかった。
今までは『断罪されないように領民の生活が困らないようにしながら、公務員みたいに仕事をこなせばいい』と意識してやってきたが、その立場は『親の七光りで国家公務員になって、何千人も人民の人生を握っている』ものだと……。
無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理!!!!!
責任持ちたくないのと自由時間減らしたくないので、ずっと役職なしのぺーぺーでやってた私だぞ!?
そんな小心者の庶民の一般人に沢山の命を背負わせる立場なんて無理だって! 転生先考えろよな、転生担当の誰か!!
せめて子供の頃に記憶が戻っていたら、上の立場の者の心構えとか心に深く染み込ませられたのに……! いや、そもそもライニールなんかと結婚しないで、愛し愛され身の丈に合った結婚相手選んでたのに!
やばい、今更怖くなってきた……。
責任の重みで潰されそうだ。
「つまり、奥様の陰には、何百、何千もの命が隠れているのです。このことをしっかりご留意くださり、今後の軽率な行動はお控えください」
「は……はい……」
そんなことを言われたら、私にはもう素直に頷くしか無かった……。
そして再び始まる重苦しい沈黙時間。今後の不安から涙目になった私は、パーシーに見られまいと視線を窓の外に向けていた。レストランを出たときより収まってきているが、霧のような小雨が大地を濡らしていた。そんな中を、護衛騎士の姿を確認する。
激しい馬の嘶きと地震のような振動に襲われたのは、屋敷までもう少しの所だった。
咄嗟に頭を守りながら上体を伏せたが、振動はすぐに収まり、御者の馬の興奮を抑える声がする。恐る恐る頭を上げると、パーシーが馬車の壁に張り付いて驚愕に固まっていた。
「ぱ、ぱーしー!? 無事!?」
「え、ええ、はい、私は大丈夫でございます。お、奥様は……」
「私も大丈夫。けど、一体何が起きたの?」
「原因はわかりませんが、馬車が急停車したようです。雨で濡れた足場で横転しなかったのは幸運でした」
私達が互いの無事を確認していたところで、外から「おい、あぶねえだろ! 急に飛び出してくるんじゃねぇ!!」と、御者の怒鳴り声が響いてきた。パーシーが小窓を開けて御者のおっちゃんに声をかける。
「ドナルド、どうした? 何が起きた?」
「ぱ、パーシー様! すみません! 子供が急に飛び出してきたもので……!」
「は!? 子供!? 子供は無事なの!?」私も身を乗り出して会話に参戦する。
「お、奥様様! も、申し訳ございません! お怪我はございませんでしょうか!?」
「そんなことより子供! 轢いてないよね?!」
「は、はい。なんとか……」
「良かった……」
ほっと胸を撫で下ろしたのも束の間。「アマーリエ様!」と甲高い声に呼ばれたかと思うと、小窓の端から小さな顔が覗き込んでくる。濡れそぼった金髪が張り付いた顔は、見覚えのある美少女で。
「……ヨツバ?!」
「ああ、アマーリエ様! アマーリエ様! アマーリエ様だ!」
「あ、ちょ、ヨツバ! 落ち着け! そこから入ろうとするな! こっちから入ってきな!」
ヨツバは中にいるのが私だとわかるとパッと顔を輝かせたが、すぐにくしゃりと泣きそうな顔になって、小窓に体を捩じ込んで無理矢理入ってこようとする。幾らヨツバが小さくても人が入れるような大きさはない。慌てて馬車の扉を開けると、先ずは護衛騎士のイーロンとかち合った。
「い、イーロン」
「奥様、お怪我はございませんか!?」
「ああ、こちらは大丈夫だか、そちらの方が……」
扉を開けて気付いたが、どうやら今の事故未遂で、後ろの馬車と彼らが乗っていた馬も少し暴れてしまったようだ。馬を部下に任せ、イーロンだけが慌てて駆け寄ってきてくれたみたい。そんな彼にも大丈夫か、と聞ことしたが、私らの間に物凄い早さで回り込んできたヨツバが飛び込んでくる。
「ヨツバ! い、一体どうしたんだ、こんな雨の中を一人で……」
「あ、アマーリエさま! た、助けてください! お、おばあちゃんとミツバが!」
「ニーナとミツバが?」
「お願いです! あっちにいるんです! 来てください! お願いします!!」
「へ? え、ちょ……」
「お、おいおい、お嬢さん。奥様をどこへ連れていく気だ?」
ヨツバに手を取られ、グイグイと引っ張られて馬車外に連れ出されそうになる。しかし少女相手に戸惑いを隠せないイーロンにより阻まれた。
「~~~~~~お願いだから、来て! おばあちゃんとミツバが大変なの!! 助けてほしいの!!!!」
うおっ! び、びっくりした。
二回しか会ってなかったけど、大人びた印象のヨツバが、こんな幼児の癇癪のような爆発を見せるとは……それ程急を要するってことか。今いち要領の得れていなかった私だったが、直ぐ様切り替える。
「わかった。行こう。ヨツバ、案内を頼む。イーロン、付いてきてくれ」
「! うん! こっち!」
パーシーに止められる前に馬車を降り、二人に指示を出す。嬉しそうに走り出したヨツバの後を追おうとすると、背後から「奥様! イーロン、奥様をお止めしろっ!」と怒鳴り声が聞こえてきたので、「悪い、パーシー! 明日からちゃんとする!」と返して、メインストリートから外れた道に入った。
お読みいただき、ありがとうございました(*^^*)




