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どうやら悪逆非道の女領主に転生したようです。目の前には将来私に復讐する子供達がいます。どうしよう  作者: 福 萬作
第一部

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叱責

いいね、ブクマ、感謝です(*^^*)

サブタイトル、話の区切りが最近の悩みです。

  

「奥様、お怪我はございませんか!」


 騎士の一人が私に安否確認してきた。彼は護衛隊長であり、会談中に部屋の前に立っていてくれた騎士でもある。


「あ、う、うん。大丈夫。すまないな、勝手をして……」

「いえ、ご無事で何よりです。後ろの男は奥様のお知り合いで?」

「え? あ、いや、違うけど……」

「知り合いではないと? ……おい、お前。いつまで奥様に触れている。さっさと手を離せ」


 騎士が男を睨みつける。言われて、まだ男に抱き寄せられたままだったことに気付いた。慌てて抜け出し、騎士隊長の側に立つ。

 

「ま、まあまあイーロン。彼は私の命の恩人なんだ。そう怒らないでくれ」

「それはそうですが……」

「それよりも、店には大変な迷惑を掛けてしまった。イーロン。悪いが、待機している手の空いている騎士たちに片付けの手伝いをお願いしてもいいか?」

「は、しかし……」


 イーロンがチラリとフードの男を見る。誰とも知らぬ男の側に、雇い主を置いていく訳にはいかないと言うことだろう。

 パーシーがいたであろう二階に目を向けると、彼の姿は無かったので降りてきてる筈。……怒られるだろうなぁ。

 

「パーシーが来るから大丈夫だ。片付けを頼む」

「……畏まりました。手配致します」


 騎士隊長イーロンは頭を軽く下げた後、フードの男を牽制するかのようにジロリと睨んで踵を返した。


「お礼をするのが遅れました。助けていただき、ありがとうございます」

「いや、こちらこそ。連れを助けていただいて、感謝する」

「連れ」 


 ス、と男は頭を下げる。そう言えばと少年の姿を探すと、ステージ近くの椅子に腰掛けた俯き加減の少年と、その周りに眼の前の男と同じようなフード付きマントを羽織った男二名が目に入る。うちの若い騎士が怪我の有無を確認していたが、二人組に「問題ないです」「こちらで対処します」と言われていた。


 ……いつの間に入ってきたんだ、このフードたち……?

  

「……店内にいたのはうちの騎士たちだけかと思っていたので、背後に貴方が現れた時は驚きました。一体どうやって私の背後に回られたのですか?」


 男は何も言わず肩越しに親指で後ろを指す。指の先にはステージがあるが、奥はどうやら楽屋があるようで、仕切られていたカーテンが開いている。成る程、この男たちは楽屋に潜んでいたのか。

  

 ……あれ? ということは、私余計なことをしてしまったのでは……?


「き、救出の手段は万全だったのですね。差し出がましい真似をしました……」

「いや、下手に飛び出したらあの男を刺激してしまい兼ねず、正直こちらも行き詰まっていたところだ。しかし、まさかご令嬢自ら前に出るとは……。しかも、扇で短剣を受けるつもりだったのか?」

「あ、ああ、はい。これは樫で出来ているし、厚さもあるから、老人の一太刀くらいなら受けれると思って……」

「……あまり本来の使用法と異なる使い方をしない方がいい。一歩間違えたら怪我では済まない」

「ゔ……いや、まぁ、それは確かにそうなんですが……」

 

 ド正論。降って湧いた正義感に当てられて行動に出たが、改めて思えば無謀以外の何物でもない。

 恥ずかしくて羞恥の大津波が押し寄せてくる。


「しかし、貴女の行動には敬意を表する」

「え」

 

 顔が熱くなってたところに、思っても見ない言葉。顔を上げる。距離を取った為に男の顔は鼻から下だけしか見えなかったのだが、男はわざわざフードを持ち上げて私を見ていた。

 

 陽の光に照らされた男の右目は真っ青な海に強い光が指したような綺麗な青色だったが、左目は閉じている。丁度傷の走っている位置に眼球があることを鑑みるに、左目は開かないのだろう。がたいの良さも相まって、なんだか威圧感のある武骨な印象だが……正直、なかなかの男前だ。低く渋い声が話す丁寧な言葉は耳障りが良い。

   

「……あ、ありがとうございます」

「…………………………」


 明らかな無鉄砲だったが、褒められて悪い気はしない。お礼をすると男は一瞬目を丸くした。かと思ったら、ゆっくりと目を細めて笑う。

 

 その笑みが、なんというか……悪戯っこのようなというか……何か面白いものでも見つけたような表情に見え、静電気のようなものが全身に走って思わず姿勢を正した。

 

「奥様!!」

「パーシー! って……」


 良くわからない感覚に不安になってところで聞き馴染んだパーシーの声。振り返って見たら、なんとパーシーが騎士に背負われていた。


 ……それでもわかる、パーシーの激怒っぷり。彼の背中に鬼が見えるのは気の所為ではあるまい。向かい合ってる筈なのに、何故か顔が黒く染まっているように見えるのは、今の彼の顔を見ることに拒否反応を示しているのかもしれない。


「お怪我はございませんか?」

「は、ハイ……大丈夫デス……怪我ハゴザイマセン……」


 私にはわかる。安否を気遣ってくれながら必死に怒りを抑えているのを。人前で怒鳴ることをしないなんて、なんて執事の鑑。後が怖くて震えてきた。


「それは何よりでございます」 

「あ、あの、ど、どうした、のでしょうか、パーシー……」

「いえ、不甲斐ない話なのですが、奥様があまりにも危険な行動をお取りになられたものですから、腰をやってしまいましてね。老人には刺激が強すぎでございました。さして長くもない寿命が更に短くなってしまいました」 

「ご、ごめんなさい……つい体が勝手に動いてしまいまして……。パーシーには是非とも長生きしていただきたいので、これから気をつけます……」

「いえいえ、老骨の身などお気にならず。奥様には是非、バルカン公爵家の主人としての自覚を持って御身を大事にしていただければ、悔いはございません」


 マジ切れパーシー怖えーーーー!!

 こんなに静かに怒られるくらいなら怒鳴られた方が全然マシだ……。

  

「お姉さんは悪くない! 僕が助けてって言ったから助けてくれたんだ! お姉さんを怒らないで!」


 自業自得ながら、後のことを想像して泣き漏らしそうになった私の前に、小さな影が飛び込んで来る。誰かと思えば、人質だった少年だ。

 

 ん? なんか今頭上からチッ、と小さな舌打ちが聞こえたような気がしたが気の所為かな……?

  

「謝罪なら僕がする! だからお姉さんを怒らないで!! お姉さんを危険な目に遭わせてごめんなさい!!」

 

 言うやいなや、深々と頭を下げる少年。それを見て「「ルト様!?」」と驚きの声を上げたのは二人組。様付けされてるということは、主人と従者の関係なのだろうか?

 

 ルトと呼ばれた少年はぷるぷると小刻みに震えている。先程まで死と隣り合わせにいて怖かったろうに、私を庇ってくれるとは。

 ちょっと感動してしまったけど、してる場合じゃない。子供に代わりに謝罪させるなんて情けないにも程がある。

 

「パ……」 

「頭を上げなさい、少年。貴方に謝られても゙意味はないのです」

 

 しかし私が止める前にパーシーが口を開いた。冷たい視線が突き刺さっているのを感じたのか、少年がビクッと大きく跳ねる。


「でも、お姉さんは僕を助けるために……!!」

「そう、貴方を助けるために行動した。しかし奥様は無視することも出来たのに、助ける方を選んだ。そう選択したのは奥様自身。貴方に責任はありません。なので、貴方がしていることはお門違いです。」

「っ……!!」

「貴方方は私どもに巻き込まれた被害者ではありますが、無関係な人間です。これ以上の介入は遠慮して頂きましょう。さあ、奥様。帰りますよ」

「は、はーい……」


 ひえ……子供にも容赦ないなパーシー……。

 彼の言葉には同意だけど、もうちょい優しく言ってもいいんじゃないかなぁ〜。とは思っても口が避けても言えないから、黙ってパーシーに従い、出口に向かう。


 と、思ったが、フードの男に手を掴まれて引き止められた。

 振り返ると、男は不思議そうに私を見ていた。いや、なんでよ。私の方が不思議だわ。


「何か?」

「……………………いや……………………すまない」


 問い質せば、シュン、としながら男は手を離した。何がしたかったんだ一体……?


 っと、そうだそうだ。少年にお礼言わないと。 

 少年を見れば、こちらもシュンと肩を落として落ち込んでいる後ろ姿。

 

「庇ってくれて、ありがとうね」


 ポンポンと頭を軽く叩く。少年はハッと顔を上げて見上げてきた。金色の美しい眼だ。初めて見たが、本当に宝石のように美しい。


「こちらの事情に巻き込んで悪かったね。怪我はなかった?」

「は、はいっ……」

「ならよかった。もしなにか後から不都合が分かったら、騎士の詰め所に行ってね。話は通しておくから。お忍びか、単なる旅人かはわからないけど、ちゃんと周りの大人の言う事を聞いて、道中気を付けて。じゃあね」

「あっ……!」

 

 今度はお礼の気持ちを込めてぐしゃぐしゃと頭を撫で、待っていてくれたパーシーの元へ急いだ。

  

お読みいただき、ありがとうございました!

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