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どうやら悪逆非道の女領主に転生したようです。目の前には将来私に復讐する子供達がいます。どうしよう  作者: 福 萬作
第一部

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凶行と謎の人物

いいね、ブクマ、感謝です!

ようやく作者に一筋の光明が見えてきました!


 物音は一階から響いていた。吹き抜けから一階を覗く。食事を楽しんでいた筈の客たちは我先にと出口に走っていき、そんな中をうちの騎士たちが一方方向を見ている。彼らの視線の先にはグレッグと、グレッグに短剣を突きつけられ人質となっている少年……って、おいおいおい! さっきまでなら高い罰金系で済む程度で収まるかもって話だったのに、傷害まで入ったら罰金じゃ済まないって! そんなに捕まりたくなかったのか?!


 グレッグは唾を飛ばしながら「来るな! 退け! 道を開けろ!」と立て篭もり犯のような台詞を喚き散らして、騎士たちは「無駄な行動は止めろ!」と警察のような台詞を言いつつ一定の距離を保っている。グレッグを捕まえたいが、人質の安全も確保したい。しかしグレッグは壁を背にしているし、短剣は少年の首を狙っている為動けない。お互い八方塞がりになっているようだ。


「奥様、こちらは危のうございます! 後は騎士たちに任せてお下がりくださいませ!」


 追いかけてきた侍女二名に左右を囲まれ、下がるように促される。確かにここは私の出る幕ではない。大人しく下がる前、無意識に現場に目をやった。


 同時に、少年と目が合う。


 鮮やかな紫色の髪を持つ十二、三歳くらいの、線の細いヒョロっした少年。あどけなさが残る顔は真っ青で、恐怖に濡れる瞳は私を捉えている。


(た)(す)(け)(て)


 震える唇は声を出していなかったが、何故かそう言っているのがわかった。

 途端に私の中で『彼を助けなければならない』という使命感が湧き上がってくる。


 私が原因のこの事態。あの少年は巻き込まれた被害者だ。それなのに見捨てるなんてなんて薄情だ。責任を取れ――と、頭の中で良心が正論を浴びせてくる。いやホント、その通りでございます。しかし、私に何ができるのだろうか。


 説得……は、怒らせた張本人が出て行っても火に油を注ぐだけよな……。


 近付いて隙を突いて攻撃……一応、学校で護身術をレクチャーされた記憶はあるが、なんとなくしか覚えてない。ってか人質がいるんだから護身術の類ではないな。第一、騎士(プロ)が手を出せないでいるところに私が行ったとて何とか出来るとは思えん。


 階下を見下ろす。向かい側に出入り口があり、左手側に階段、右手側にステージがある。グレッグがいるのはステージ周辺。彼が逃亡するには玄関か裏口、それか窓。騎士に囲まれてるし、背にしている壁には人が出入りできそうな大きな窓は設置されているが彼の立ってる場所からは些か遠い。

 

 上から物を投げ付けて攻撃……いや、距離があるし、ノーコンとまではいかないが当てられる自信はない。

 

 不意を突いて飛び降りて、びっくりしてるとこ攻撃するか? 下までは三メートルくらい。公園にあったジャングルジムの天辺くらいだ。それなら子供の頃によく飛び降りてた(めちゃくちゃ怒られたけど)からいけ……いや、待て。ドレス姿で飛んだらスカートがぶあーなって、あられもない姿を大衆に見られてしまう。

よく考えたら、幾ら鍛えてるとはいえ、子供の頃からやんちゃしてた前世とは違ってアマーリエは生粋のお嬢様ボディ。足場も悪いし、大怪我をする可能性の方が高い。

 

「アマーリエ様! 何をしているのですか!」

「ぱー……。……?」

 

 聞き覚えのあるパーシーの声が少年救出に頭を働かせていた私を引き戻す。いつまでも戻ってこないので迎えに来てくれたようだ。そんな彼の手にはバックが二つ。一つは持参したものだが、もう一つは……。


「パーシー、それ……」

「? こちらのバッグでございますか? これはあの男の従者が持参してきた、手紙の入ったバッグでございます。従者の男は部屋で腰を抜かしまして……とりあえず、他の証拠品も確保しようかと思って取り上げておきました」

「……!! パーシーマジ優秀!! ちょっと借りるね!」

「は? ちょ、奥様!!!!!!?」


 手紙の入ったバッグと聞いてアイディアが降ってきた。有無を言わさず手紙の入ったバッグを奪い、三人を振り切り、追いつかれないようにと一階へと駆け下りる。


「お、奥様! こちらは危険です! お戻りを!」


 近くにいた騎士が慌てて声を上げた。それを聞いた渦中の一同の視線が私に集まるが、私はまっすぐグレッグを見据える。

 嗜みだからと所持させられていた扇を開いて口元を隠し、こっそり深呼吸。扇を閉じて、スイッチをいれた。


「全く、なんて愚かしい真似をしているんだ。グレッグ・フーリン」

「あ、アマーリエ・バルカン……!」

 

 仕事モードになって声を掛けると、グレッグに物凄い顔で睨まれた。

 一歩一歩、威厳が在るようにゆっくりと足を進める。そのお陰か騎士たちは私を止めることなく、モーセの海割りの如くが道を開け、安々とグレッグの前に辿り着く。


「人質を取ったとて、お前の罪は増えるばかりで良くはならん。わかっているのか?」

「う、煩い! わしは騙されたんだ!」

「そちらの事情は知らん。それよりも今この状況をなんとかせねばならないのではないか?」

「こ……この、小娘が! 生意気な口を聞きおって!」

「口を慎め。私はアマーリエ・バルカン女公爵。本来ならばお前と相対することすら叶わぬ身ぞ」

「ぐうっ……!!」

「私とお前の話に、その子供は関係ない。大人しく子供を解放して縄につけ。子供を人質にしてもどうにもならんことは少し考えればわかるはずだ。頭を冷やせ。今ならまだ軽い罰で済む」

「違う! わしは騙されたんだ! リリーナが言ったんだ! 手紙もあやつが用意したんだ! わしではなくてあやつを捕らえろ!!」

「わかったわかった。勿論リリーナ・フーリンも捕らえる。約束しよう。ではその子を解放してくれるな?」

「まだだ! わしを捕まえんと約束しろ! いや、そうだ、わしがこの街を出るまで手を出すな! 領を出たら解放してやる!」

「血迷ったか。逃げ出してどうなる。私を騙そうとした罪は消えないどころか、逃げたほうが罪が重くなるぞ。それでもいいのか?」

「それは……! そ、そうだ! 手紙を返せ! それがなくば、わしがお前に何かしたという証拠はなくなる! わしらは話し合いをしていただけ。それだけで何事もなく終わった!」


 いや、そうはならんやろ。

 しかし、()()()()()()()()()()()()のは有り難い。

 

「これが欲しいのか。いいだろう。返してやる」

「奥様!? 危険です! 私が……」

「っ良い。下がっていろ」

 

 騎士の一人が前に出たが、それに警戒したグレッグが少年の首に短剣を向ける。


 武器は所持していない+グレッグが欲している証拠を持っている+公爵とはいえまだ十六の小娘。


 そんな私が前に出るからこそ油断が生じているのだ。職務に真っ当なのは有り難い。だが、申し訳ないが今は余計なことをしないで見守っていてほしい。


 グレッグとに距離が二メートルくらいのところで停止する。そして。

 

「ほら、返す……ぞっと!!」

「!!!!!?」


 グレッグの足元に向けて軽く放ると見せかけて、グレッグに向かって思い切り投げつける。


 力強く投げれたバックは狙い通りグレッグの顔面にめがけて飛んでいき、グレッグは利き手――短剣を持った側の手で顔面を守る為に持ち上げる。()()()()()()()()()()

 

 投げると同時に床を蹴っていた私は、短剣の軌道が通らない左側に身を寄せ、少年の胸ぐらを掴み引き剥がす。バックを避ける方に力を回していた老人の手からはいとも容易く人質の解放ができた。


 だが、すぐにバックを弾いたグレッグと目が合う。人質を奪われたグレッグは目を剥いて焦りの色を浮かべていたが、私がまだそこにいることに気付いくと、目に怒りの炎を滾らせて短剣を振り下ろしてきた。「アマーリエ様!!」と誰かが叫んだ悲鳴が聞こえる。しかし勿論私だってこの展開は予想していた。


 実は持ちっぱなしだった扇を使って短剣を防ぐ……いや、防ごうとした。

 ぐいっ! と体が後ろに引っ張られる。後頭部に軽い衝撃。背後から伸びてきた腕がグレッグの手を止めている――どうやら何者かが私の肩を抱いて自身に引き寄せているようだ。

 

 振り仰ぐ。騎士の誰かかと思ったが、予想に反してそこにいたのはフードを目深に被った背の高い男。体格差もあって下から覗けたからわかったが、男の左側、顎から額に掛けて縦一直線に大きな傷跡が合った。無論、知らない男である。


 男は眉一つ動かさないでグレッグの手を捻り上げると、グレッグは痛みに情けない声を上げながら短剣を落とした。フードの男が落ちた短剣を蹴って遠ざけると、滑った一番前にいた騎士の爪先に当たる。それではっと我に返った騎士が「確保!」と号令で一斉に動き出した。騎士たちがグレッグを捕えると、フードの男は私を抱えたまま後ろに下がる。


 騎士たちに床に押し付けられたグレッグは「離せ! わしは無実だ!」と叫んでいるが、どう考えても無実な訳がない。名誉毀損に詐欺未遂、不敬罪、傷害未遂、器物破損とまあ罪のパレードが……あ、脅迫や暴行、殺人未遂罪も入るのかな? あの短剣がグレッグのものならば殺意ありとみなされる筈。まあ、そこは追々。

 

 とにかく、一時はどうなるかと思ったグレッグ・フーリンの凶行は幕を下ろしたのである。


お読みいただき、ありがとうございました(*^^*)

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