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どうやら悪逆非道の女領主に転生したようです。目の前には将来私に復讐する子供達がいます。どうしよう  作者: 福 萬作
第一部

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反論

いいね、ブクマ、誤字脱字報告、感謝です!

※今回、『都合良くね?』って展開がありますが、後々回収します。


 予想外に次ぐ予想外で、私の頭はもう追い付いけなくなっている。頭の上にはてなマークが乱舞している状態だ。それはグレッグも同じだったようで、「き、急に何を言い出すんだね、君は……?」と些か動揺しているが疑問の色の方が濃い。


「僭越ながら、奥様に代わって私がご説明させて頂きます」


 パーシーが一歩前に出て、私の横に立って軽く一礼する。

 

「奥様はご存知の通りですが、私はライニール様がお生まれになった頃よりお仕えしておりました。それ故に、あの方の文字の造形や癖などは熟知しており、奥様が知らぬことも存じ上げております」


 受け取った手紙をテーブルの上に並べ、私に先程のルーペを手渡してくる。


「奥様、こちらのルーペで便箋をご覧ください。何かお気づきになりませんか」

「はあ……? ……何かって言われてもねぇ……」


 言われるがまま二通の便箋を隅から隅まで見てみる。が、どう見ても情熱的な文書と流麗な筆跡に違和感は見出だせない。


「……なんだろう、わからない。文字の癖も同じようにしか見えないな」

「確かに、かなり腕の立つ代筆屋に頼んだのでしょう。文字の癖は見分けが付きません。下手な鑑定士では見抜くのも至難の業だったやもしれません。しかし奥様、王都の方のライニール様のお名前をよくご覧ください」

「名前……」

 

 言われて、文末に書かれたライニールの署名を凝視する。なんだろ? 気になるとすれば、サインが文章に比べたらデカく書かれてるなってことくらいだが……。


「……ん?」

 

 ルーペで覗きながら僅かに手紙を動かして持ち直した時に、ライニールの名前のスペル……『Rayneil』の『i』の部分に針を通したような小さな穴があるのに気付いた。次いでに『Vulcan』の『a』の、真ん中の白い部分――ここにも穴が開いている。

 

 ……まさか、これ?

 

 試しにもう片方の手紙で確認したが、こちらに穴は無い。


「もしかしてなんだけど、この穴のことだったりする?」

「お見事でございます、奥様。その通りでございます」

「穴? 穴とはなんのことですかな?」


 置いてけぼりだったグレッグが入ってくる。彼も自身が持つ手紙で確認していたようだが、老人の裸眼では気づくのは難しいだろう。パーシーが別のルーペを貸し渡す。


「王国側のライニール様のサインをよくご覧ください。とても小さな穴があるはずです。見つけられましたか?」 

「………………………………あ、ああ。ええ、はい、確かに虫食い……いや、虫食いよりも小さな穴がございますな。これが一体何だというのです?」

「それは誤って開いたのではなく、故意に開けているものなのです」

「「故意?」」


 手紙から顔を上げたグレッグと私の声が重なる。


「皆様もご存知の通り、ライニール様の美しさは魔性。その美貌の虜となり、数多くの女性がライニール様の愛を乞い、妻となって生涯を共にすることを望みました。それは幼い頃からで、何かしらの催しの際には常に女性陣に囲まれ、隣の席はいつも奪い合いでございました」


 その戦いの模様を思い出しているのか、心無しかパーシーは遠い目をしている。

 

「隣りに座ってお話をしたいというだけなら可愛いもの。中には口に出すのも憚られるような行為を幼子にしようと狙う痴女も居りました。全く、浅ましくも恥知らずな行為です。幼い頃から女の影が常に付き纏っていたライニール様ですので、年頃にもなれば婚約を迫る家は後を絶たず。中には偽の手紙や婚約契約書を作成した者もおりました。相次ぐ婚約書や契約書の偽造に、頭を抱えたトリスタン公爵家は、対策に乗り出しました。それが、ライニール様の()()()()()()()です」

「細工……。……っ!?」


 パーシーの言わんとする事を察したのだろう。見る見る内にグレッグの顔が青褪める。

 私もピンときた。成る程、そういうことか。


「お察しの通りです。ライニール様は自身の身と名誉を守る為に、名前の何れかの箇所に、特注で作成した針で小さな穴を開けることを義務付けられました。ライニール様が名前を書くときに、少しばかり大きめに書くのは穴を作り易くする為の癖なのです。この穴が無ければ、幾ら字が似ていようとも、ライニール様本人のものとは認められません」

「そ、そんな馬鹿な……そんな話は聞いたことがないっ。穴が空いているのは偶々だったんだろう。適当なことを抜かすなっ」

「そちらが持っている手紙を確認して、こちらの言う通りだったことは事前に確認していたですが?」

「そっ、それは……」


 グレッグの余裕綽々な態度に綻びが生じる。テーブルの上に乗せた拳がプルプルと震えているのは怒りなのか、それともこれから起こることに対しての恐れなのか。


「そもそも、赤の他人に悪用されぬようにする為の手段ですので、知らぬのも当然のこと。このことを知っているのは御本人とトリスタン公爵家、専属従者だった私、教会関係者、そして王のみ。勿論、他にも証拠がございます」


 言って、パーシーはA4サイズくらいのガラス面の額縁を取り出す。それはアマーリエとライニールの結婚宣誓書で、額縁には鍵が四箇所付いている。

 結婚式の時に新郎新婦がサインした宣誓書を教会側が額縁に入れ、鍵を掛ける。宣誓書は各家で、鍵は教会が保管する。あとは国に申請して許可を得てから、教会に保管してある鍵でしか開けられないようになっているのだ。なんでこんな仕組みになったのかは知らないが、これも偽造とか犯罪防止なんだろう。


 パーシーが差し出してきた宣誓書をルーペで見る。こちらにもライニールの名前に開けられた穴が複数あった。勿論ガラス面に細工の跡はない。


「そ、そんなものはそちらが作り出した偽造だ。なんの証拠にもならんっ」

「これすらも偽造だとお疑いになるというのであれば、トリスタン公爵家、王家、教会それぞれに確認していただいても構いません」


 いや、そんなお偉方相手にはなんも言えないだろうて。下手したら信用問題からの不敬だ。

 それをわかっているからか、グレッグは目を見開いて真っ赤にしていて、そのまま血管ブチ切れて死んでしまいそうだ。大丈夫か?

 

「以上のことから、海の向こうでの手紙は偽造であると結論付けられました。後は、お二人が海の向こうに渡っていたという確認をす……」

「巫山戯るな! ワシは偽造しておらんっ! これは確かにあの娘から押収したものだ!!」 

「ぅわっ!!」

「奥様っ!!」


 心配したのも束の間、グレッグが怒鳴りながら立ち上がった。勢いが強かったものだから、椅子は倒れ、テーブルが大きく揺れる。その衝撃で、近くにあった燭台が私の方に倒れてきた。

 日中で火が付いていなかったお陰で燃えることはなかったが、燭台の先端が私が使っていたティーカップに直撃。残っていた紅茶がぶしゃあーっと私に飛んでくる。私も椅子から立ち上がって慌てて飛び退いたが遅かった。ドレスに大きなシミが出来上がる。なんて最悪なピ◯ゴラス◯ッチだ。

 

 扉側で待機していた侍女の「きゃあっ!」という叫びと甲高い物音が聞こえたのだろう、「いかがなさいました!」と廊下で待機していた騎士たちが駆け込んでくる。


 その瞬間、グレッグが騎士たちを押し退けて部屋を飛び出した。老人とは思えぬ素早さだ。不意を突かれた騎士たちはグレッグを通してしまったが、「あの男を捕らえよ!」とパーシーの一喝で直ぐ様追いかけて行った。


「奥様! 大丈夫ですか!?」

「う、うん、大丈夫。紅茶冷めてたから火傷も無い」

「良かった……ご無事で何よ」

「きゃあああっ!!」

「今度は何!?」


 再び上がる甲高い悲鳴とドタバタパリーンと物々しい音。

 しかし今度は傍らの侍女らではなく、部屋の外から響いた。思わず「奥様! お戻りください!」というパーシーの声を背中に、部屋を出て悲鳴の元に急いだ。

お読みいただき、ありがとうございました(*^^*)

手紙の細工の元ネタは、伊達政宗公てす。

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