証拠の手紙
いいね、ブクマ、誤字脱字報告、感謝です\(^o^)/
ゼオン編はもうちょっとで終わります!
※手紙の内容を変更してます。
「初めこそ王都の屋敷にリリーナ様と暮らしていたようですが、周囲から幼い養子に手を出しているとの噂され、居づらくなった貴方は王都を出て、バルカン領でリリーナ様と暮らし始める。そして、その一年後にゼオン・フーリンが産まれました」
グレッグは今七十一、リリーナは二十五歳になる。ゼオンが八歳であることを考えると、リリーナは十七の時に、六十三歳の男の子供を産んだことになる。まさに外道。
娘として引き取られた筈なのに、四十六歳差の男との子供を生むことになったリリーナの心情を慮ると、目の前の男に吐き気と憎しみを覚える。一体、『リリ』は何歳の頃からこのクソジジイの相手をさせられていたのだろう。考えるのも胸糞悪い。
「その頃のライニール様はというと、海の向こうの島国に滞在しており、この国にはいませんでした」
ちなみにその滞在理由は、とある高貴な未亡人にストーカーされていた為。高貴な未亡人が誰のことかはパーシーも教えてくれなかった。
が、早くに亡くなった先代国王の妻(現国王の母……つまり私のお祖母ちゃん)が身罷られた後に帰ってきたからもしかして……とかなんとか噂があったと調査報告書に記載があった。なんなのこの世界。
「以上の結果から、ゼオン・フーリンはバルカン公爵家とは何ら関係がないことがわかりました。養子の件はお断りさせて頂きます」
とん、とテーブルに調査報告書を置いて鬼畜性を睨む。
さあ、どんな反応を見せてく……
「いやはや、覚悟はしておりましたが、こんなにも詳細に調べられるとは。お見事としか言いようがございませんな。確かにリリーナは私の娘ではございません」
「なっ……!?」
返答を待ち構える間もなく、あっさりと老人は吐いた。展開の早さに絶句する私とは対象的に、グレッグは落ち着いており、ゆっくり調査報告書に目を通す余裕すら見せつけられる。なんでコイツ余裕なんだ?
ぶっちゃけ、今のフーリン商会は斜陽だ。
フーリン家は王宮務めの某子爵家のお抱え商人だった。過去形である。
というのも、フーリン商会が長きに渡って契約していた某子爵家が若き女当主に代替わりしたのだが、その際にフーリン家との契約終了が告げられたからだ。
原因は『自身が望むものとの大きな差異がある為、契約終了』――フーリン商会は女当主が気にいるような商品を用意できなくなっていたのだ。
グレッグが一度の手紙のやり取りで出掛けがちになっていたのはこれが理由だ。王都に行って直接女当主と掛け合ったり、商品を集めて女当主へ接待を頑張っていたようだが、うまくいかなったようで、つい先日契約を打ち切られている。
このことから我々は、グレッグはこのままゼオンをライニールの子供と押し切って、バルカン次期公爵の家族の座と、公爵家のお抱え商人の座を同時に得るつもりなのだろうと推測した。
グレッグに『お見逸れしました!』と言わせ、貴族を騙した罪でそれ相応の罰を与える手筈だったのだが……何だ、この展開……?
「っ……か、覚悟をしていたということは、初めから我が公爵家を騙す覚悟でいたということですか? 小娘相手ならば容易く騙せると?」
「いえいえ、そんなまさか。王家の姫である奥様が当主を務めるバルカン公爵家を敵に回すなど、愚かな行為をするわけがございません。ワシは商売人です。損になるようなことは致しません」
「では、一体どのようなおつもりで?」
「結論から申しますと、ゼオンはワシの子ではございません」
「………………………………………………は?」
「ええ、ええ、驚いたでしょう。ワシも驚きました。しかし、アレが奥様の屋敷に伺ったその日に、本人から白状されましてね。ワシもゼオンのことは息子だと思っていたのですがね、見事に騙されました」
「え、いや、意味がわかりません。その報告書にも書いてある通り、ライニール様は当時海の向こうに……」
「ああ、なんという巡り合わせでしょうや。ワシとリリーナもその時、海の向こうの国に買い付け旅行に行っておりました。どうやらその時に逢瀬を交わした様ですな」
「は、はあ〜? なにそれ、こじつけが過ぎません? 証拠あるんですか、証拠は」
「は?」
「奥様っ」
「あっ、と……失礼しました。流石にその言い分は理解し難いですね。一体どんな根拠があって、ライニール様とリリーナ様が結ばれたと仰られるのですか?」
あまりにも突拍子もない後付サクサク設定に、思わず素で突っ込んでしまった。パーシーに窘められて、笑顔と台詞修正で誤魔化す。パチパチと瞬きを繰り返していたグレッグは、怪訝そうな顔しながらも口を開く。
曰く、二人は王都で愛を育んでいたがライニールが急に音信不通になり自然消滅。後に海の向こうで運命的な再会を果たした、各々のお目付役の目を掻い潜り、愛を育んだと。
ライニールの子供の頃からのお目付役のパーシーに、そんなことが可能だったのか聞いてみれば、「四六時中監視しているつもりではいたが、僅かな時間であれば不可能ではない」と苦虫を噛み潰したような顔で言われた。
いや、僅かな時間での逢瀬で子供出来たってあり得……なくもないけど、男として情けなくないか? いや今それ関係ないか。
ああ、くそ。なんか下手に先攻した所為で、上手い具合にこじつけされた感じだな。
「そしてこちらが、渡された証拠にございます」と、すっかり存在を忘れていたグレッグの従者が所持していたバッグから封筒の薄い束が二つ取り出され、グレッグの手に渡る。
「こちらは王都で交わした手紙の束。こちらは海の向こうで交わされた手紙の束でございます」
「読んでも構いませんか?」
「ええ、勿論。ただ、これは大事な証拠品ですので、それぞれ一通のみでご容赦ください」
「わかりました」
まーそりゃ警戒されるわな。
直接手渡しではなく、グレッグの従者からパーシーへと手渡され、二通の手紙が私の手に渡る。
一通目は王都でのやり取り……便箋に書かれた日付によると、ライニール十五歳、リリーナ十四歳の時。都で偶々見掛けたリリーナを見掛けて、貴女に恋をしたとかなんとか、ゲロ甘な言葉がツラツラと書き連ねられている。寒イボ立つ〜……。
二通目は海の向こうでのやり取り……一通目から約二年後。前の手紙で妊娠を告げられたのか、子供ができたことを喜んでいるが、結ばれない自分たちの運命を嘆いてる内容だ。子供いたこと知ってたのか、ライニール?
「……成る程、確かにお二人がやり取りをしていた形跡が見られますね。しかし、これが本物か、それとも代筆屋に書かせた偽物かは現状判断がつきません。ですので、この手紙を筆跡鑑定に回させて頂きます」
「構いません。お気の済むまでどうぞ」
「ありがとうございます。パーシー、これを筆跡鑑定にお願い」
「……奥様。出過ぎたことを申しますが、一度、私が手紙を改めても宜しいでしょうか?」
「え? ……あ、ああ。はい、どうぞ」
突然、手紙を受け取ったパーシーがそう提案してきた。振り返り見上げれば、大事そうに手紙を持ったまま、硬い表情で私を見ていた。
パーシーの方がライニールの文字に慣れ親しんでる分、下手したら鑑定士よりも証拠が掴めるかもしれない。そんな期待をしながら許可すると、パーシーは「失礼します」と言って懐から取り出したルーペを使って手紙をマジマジと見始めた……え、ルーペ? なんでそんなもの持ち歩いてんの? 執事の七つ道具だったり? 聞いたこと無いわ。
鑑定による沈黙は多分、一、二分程度続いた。眉間にシワを寄せていたパーシーが、顔を上げて私を見る。
「確認致しました」
「どうだった? 何かわかったの?」
「ええ、思った通りでございました。こちら、王都でのやり取りは本物ですが、海の向こうでのやり取り、こちらは偽物でございます」
………………Why?
お読みいただき、ありがとうございました(*^^*)




